2 / 1,141
第一章 魔導学園入学編
2話 魔法と魔術
しおりを挟むこの世界には、魔力というものがあふれている。
それを一般的には魔導という力に変換する。自分の力として扱う者を、魔導士と呼ぶ。
さらに、魔力を使うものには魔術と魔法、二つの種類がある。
「では、復習だ。
エラン、魔法と魔術の違いは?」
「はい!
魔法とは、自分の中に流れる魔力を使う術のこと。
魔術とは、大気中に流れる魔力を使う術のことです」
この世界にあふれている魔力という力……しかし、それは人間の中にも流れている。
すべての人間の中に、少なからず魔力は存在するのだ。
もっとも、すべての人間が自分の中に流れる魔力を感じ取れるかは、また別の話だけど。
中には、魔力を扱えず一生を終える人間も少なくないと聞く。
「そうだ。
では、魔法と魔術、それぞれの利点と欠点を述べよ」
「はい!
魔法の利点は自分の身の丈にあった力を使えること、欠点は自分の魔力が少なくなると不調をきたすこと。
魔術の利点は自分の魔力以上の力を使えること、欠点は……ええと……」
自信満々に答えるが、魔術の欠点を考えたところで言葉に詰まってしまう。
自分の魔力しか使えない魔法より、魔術の方が利点が大きい。
その、欠点か……
自分の魔力を使えば、当然体力も減る。魔力を使い続ければ、体調を崩してしまう。それに比べて、大気中の魔力を使う魔術で不調をきたすことはない。
集中力はめっちゃ使うけどね。
ううんと考える私に、師匠は薄く笑う。
「時間切れだ」
「そんなぁ、聞いてないです!」
「言ってないからな」
師匠は、意地悪に笑う。
師匠め。たまにこうして、私で遊んでくるのだ。
「魔術の欠点、それは精霊の機嫌に左右されるってところだ」
「あぁ!」
言われて、はっと気づく。そうだ、精霊さんだ!
こんな大切なことを、忘れていたなんて! 当たり前すぎて逆に出てこなかったよ。
そんな私の姿を見つめながら、師匠は続ける。
「魔術とは大気中の魔力を使うが、厳密には少し違う。
精霊の力を借りて、魔力を使わせてもらうんだ」
そう、この世界には目に見えない、"精霊"という存在がいる。目に見えないのだから、どんな姿をしているのかもわからない。
精霊を通じて、大気中の魔力を使わせて"もらう"のだ。
だから、そもそも精霊と心を通わせなければ、魔術は使えない。
魔法より利点は多いが、魔法以上に扱うのが難しいとされている。
「ご機嫌取り、という言い方はよくないが。
魔術は精霊頼りになるため、精霊の機嫌を損なうと使えない」
「機嫌、ですか」
「あぁ。そうだな……
たとえば、エランが仲良くしている子が、実はものすごい悪いことをしていたら、どう思う?」
「それは……嫌ですね」
「そういうことだ」
精霊は目に見えない……だから近くにいるのか、いないのかもわからない。
でも、きっと精霊は、私たちを見ている。どこからでも、いつも見ている。そう、心構えるようにしている。
実際、存在は感じられる。
心を通わせた相手が、悪いことをしていたら、精霊だって嫌な気持ちになるだろう。
そんな相手に、力を貸そうとは思わない。
だから、精霊と心を通わせた者は……精霊に見限られない、自分に恥じない生き方を心がけるようになる。
「他にも、精霊の力が弱まる場所では、魔力を借りられない場合もある」
「そんな場所が、あるんですか?」
「あぁ。たとえば……毒のある空間、とかな。
精霊が嫌う場所だ」
精霊とは偉大なる存在だ。とはいえ、苦手なものがないわけはない。
苦手な場所では、力は発揮できないということだ。
例として、聖なる存在である精霊は、邪である毒を嫌う性質がある、と言われている。
「そういう場所では、逆に自分の魔力頼みになる、と」
「そう。己の魔力は、体調で変動しても場所には作用されないからな。
だから、魔法や魔術、片方より両方を極めるのが、理想的だ。
ちなみに、人や地域によっては魔術を精霊術とも呼ぶようだ」
「精霊術……」
魔法も魔術も極める。簡単に言うけれど、それはとても難しい。
私が師匠から、魔力について教わり始めたのは、果たしていつだったか。
私から頼んだのか、師匠から言い出したのか。
多分、私がねだったんだろうな。
「師匠は、魔術も魔法も使えるんですもんね」
「まあな。一応、それなりの術師のつもりだ」
「なら、精霊と仲良くなるコツとか教えてくださいよ!」
「自分で考えないと、それは意味ないことだから」
「ぶー」
こう言って、師匠は肝心なことは教えてくれない。
たまに、本当に精霊は存在するのか、と疑いたくなるほどだ。
でも、それを意地悪とは思っても、だから嫌いになることはない。
「というか、エラン……キミは、すでに精霊と仲良しだろう。
正直、時々エランが羨ましくなるくらいだ」
「えへっ」
「…………さて、魔法と魔術について、理解したか?」
「はい、師匠!」
彼が、私の師匠だから。
私の尊敬する、私の師匠だからだ。
その後も、魔道士に必要なものなど、これまで習ってきたことを復習する。
それにしても、今日はやけに、復習の多い日だな、と思った。師匠のやることだから、受け入れているけど。
復習の多い理由……それは、その日の晩、明らかになった。
39
あなたにおすすめの小説
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
異世界でカイゼン
soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)
この物語は、よくある「異世界転生」ものです。
ただ
・転生時にチート能力はもらえません
・魔物退治用アイテムももらえません
・そもそも魔物退治はしません
・農業もしません
・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます
そこで主人公はなにをするのか。
改善手法を使った問題解決です。
主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。
そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。
「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」
ということになります。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる