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第二章 青春謳歌編
79話 あぁ懐かしき宿屋
しおりを挟む「それにしても、元気そうでなによりだよ!」
「タリアさんこそ!」
店内に入った私たちは、多人数席に腰を落とす。
私、クレアちゃん、ルリーちゃん、ナタリアちゃん、ノマちゃんが座っても、まだ席に余裕はある。
さすが宿屋。お客さんがいっぱい来るからか、席もたくさんあるってことみたいだな。
「しかし、クレアはちゃんとやってるかい?」
「もっちろん。
同じクラスなんだけど、いつも助けられてるよ!」
「やめて、恥ずかしい!」
とりあえず、お店のおすすめを注文して、料理が出てくるまで待つことに。
やっぱり、休日のお昼だからか……お客さんも、多いなぁ。
いつもいた冒険者の皆さん……ガルデさんたちは、いないみたいだ。
まあ、こんな休日の日にまでかち会ったら、ちょっと怖いけど。とはいえ、久しぶりに会ってもみたかったな。
たった数日なのに、もう懐かしいな。
「おい、聞いたか? また例の……」
「あぁ、"魔死"者だろ? 今年に入って何人目だ?」
「ん?」
人で賑わっている、ということは、耳をすませばその会話が多く聞こえてくるということでもある。
そのつもりはなかったけど、近くの席で話している内容が、聞こえてきてしまった。
なんの話だろう……なんだか、物騒な感じがするけど……
「エランさん?」
「ん、なんでもない」
まあ、気にすることはないよ。今私たちは、おいしいご飯を食べに来ているんだから。
私には関係ないことだしね。
それから料理が来るまでの間、主にクレアちゃんの話で盛り上がった。
ここ『ペチュニア』は、クレアちゃんの実家なのだから。クレアちゃんは、まさか実家のことでいろいろ聞かれると思っていなかったからか、しどろもどろだ。
そうこうしているうちに、料理がやってくる。
「うーん、おいしい!」
「あら、ありがとうねぇ。
エランちゃんはおいしそうに食べてくれるから、作りがいがあるわ」
「うん、本当においしい」
「ですわね!」
どうやら、ここを初めて訪れた二人にも、好評のようだ。
ナタリアちゃんもノマちゃんも、入学前にはこの宿には泊まっていなかったようだけど、知っていたら間違いなく泊まっていたのに、と悔しがっていた。
こりゃ、元々ここを教えてくれたギルド受付の、おっぱい大きいお姉さんに改めて感謝だな。
「食堂のご飯よりおいしいかも~」
「あっはっは、嬉しいこと言ってくれるねぇ!」
お世辞抜きに、本当にそう感じる。
学園の食堂のご飯もそりゃおいしいけど、ここのはまた格別だ。
注文していた料理はみるみる減っていき、あっという間に空に。
「ふはぁ、食べた食べたー」
「とても満足ですわ」
食事を終えた私たちは、一様に満足。
初めてこの宿屋に来たナタリアちゃん、ノマちゃんも大満足の表情だ。よかった。
寮生活になって、離れたのは寂しいけど……こうして、休日に来られる距離にあるのは、いいことだよな。
「にしても、タリアさんも忙しそうだねぇ」
ちょくちょく顔を見せてくれるタリアさんだけど、店内は結構お客さんがいるからか、あちこち動き回っている。
従業員に任せるだけじゃなく、自分からも積極的に動いている。
それに、タリアさんが人気だってのもあるみたいだ。
常連のガルデさんたちからは、姐さんなんて呼ばれていたくらいだし。
「いやぁ、いいお母様じゃないか」
「うっ……あ、あんまりそういう、恥ずかしいこと言わないでよ」
「恥ずかしくなんかありませんわ、立派ですわよ」
その様子を見て、ナタリアちゃんとノマちゃんは感心している。
うーん……貴族の女性……母親って、どんな感じなんだろう。まさか全員が全員、肝っ玉母さんこそタリアさんみたいな感じじゃないだろうし。
階級を比べるわけじゃないけれど、二人ともいいとこのお嬢様なんだろう。貴族とはいえ下級であるアティーア家のこの様子は、二人にとって新鮮に映るんだろうな。
「でも、なんでこんなに賑わってるんだろう」
店が賑わうのはいいことだ。でも、少し不思議でもある。
私がここに泊まっていたときは、こんなにも繁盛していなかった気がするけど。
それに……利用しているお客さんの服装。一般の人というより……なんか、憲兵の人みたいのが多い。
あの服……そうそう、初めて会った門番のおじさんみたいに、鎧着ている人もいるしね。
おじさん元気かなぁ。
「悪いねぇ、慌ただしくて」
そこに、タリアさんが額に滲んだ汗を拭いつつ、やって来る。
「いえいえ。
それだけお店が賑わっている証拠でしょう」
「ま、結構珍しいんじゃないの、この賑わい」
「この子ったらかわいくないねぇ」
この宿屋の看板娘だったクレアちゃんは、ちょっと辛辣だ。そういやこういう子だった。
タリアさんもそれをわかってか、呆れ気味だ。
「最近物騒だからねぇ。
憲兵さんの見回り強化の影響で、人も増えてるのさ。嬉しいやらそうでないやら……複雑だよ」
周囲を見渡して、タリアさんは苦笑いを浮かべる。
最近物騒だから、そのために見回りの人間が増える。すると、休憩のためにここを利用する客も多くなる、ということだ。
客が増えるのは嬉しいが、それが最近の物騒さからくるもの……となれば、複雑なのもその通りだろう。
……というか。
「物騒って、なにかあったの?」
この宿屋にこれだけの憲兵さんがいるんだ、他の店も利用していることだろう。
となると、それだけの人数が動く"なにか"があったってことだ。
すると、タリアさんは声を潜めて……
「食事……は終わってるみたいだけど。あんまり気持ちのいい話じゃないよ?」
前置きを言う。
物騒って言うからには、まあそりゃ……そうなんだろうな。一応みんなに確認を取る。
「うん、ボクたちも気になるかな」
「えぇ」
「なら……って言っても、私も詳しいことは知らないんだけどね。
……ここいらで、妙な死体が増えているって話だよ」
「妙な……」
声のトーンを落とし、話すその内容は……なんとも、要点を得ないものだった。
死体、と聞いてゾワッとしたけど……うん、大丈夫。それよりも、だ。
妙な、とはどういう意味だろう。
ただ、それを聞いてもタリアさんは首を横に振るのみ。自分も、噂程度でしか聞いたことがないのだと。
「……さっきの……」
もしかして、だけど……さっき聞いた、"魔死"者という謎の単語。
それが関係しているんじゃないかと、妙な予感があった。
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