94 / 1,141
第三章 王族決闘編
92話 その力は下級魔導士相当
しおりを挟む『よかろう。それがキミ……いや、貴様の本気の表れだというのなら。それを、俺は受け止めよう』
『お、おいおい。お前こそ本気かよ、相手は新入生だぞ』
『無論、俺は常に本気だ。お前たちも知っているだろう。それに、言ったはずだ……俺は学年の差など気にしない、と。
……我、ゴルドーラ・ラニ・ベルザは、貴殿エラン・フィールドによる決闘の申し出を、受けよう』
……私が、ゴルドーラ・ラニ・ベルザに決闘を申し込み、彼はそれを受け入れた。
その報告を先生にして、こってり怒られというか呆れられ、詳しい話はまた後日だと解放されて……
クレアちゃんと、廊下を歩いていた。
「はぁー……」
「もう、いつまでそうやって落ち込んでるのさクレアちゃん。
気にしても、仕方ないって!」
「むしろエランちゃんは少しは気にしてほしい……」
王族に決闘を申し込む……さっきちょろっと説明はされたけど、その真意はクレアちゃんの方が私よりもよくわかっているだろう。
だからこそ、その深刻さに落ち込んでいるのだ。
私のことで、こうも感情を表してくれるなんて……こんな状況だけど、嬉しいな。
「それで……決闘の日は、いつなんだっけ」
「あれ、聞いてなかったの?」
「いきなり決闘申し込んだエランちゃんに驚いてそれどころじゃなかったわよ」
ふむ、そっか。
決闘は、基本的には受けた側が、日程や場所を決める。まあ、場所はほとんどが訓練所とか、さっき試合で使った会場とか……当然ながら学園内の施設で行うのが基本だ。
私はそれを承知で、決闘を申し込んだ。そして、ゴルドーラ・ラニ・ベルザが提示した決闘の日程はというと……
「一週間後だって」
「……はぁ」
よたよた、とクレアちゃんが壁に寄りかかる。危うく倒れてしまうところだ。
それに、額を押さえている。頭痛いのかな。
「いっ、しゅうかん……
たった、一週間……」
「短いの?」
「相手は、あのゴルドーラ・ラニ・ベルザ様よ!? 普通の生徒とはわけが違うの!
準備期間に、ひと月あったって足りないわ! それを、一週間……!?
そんなの、もう無理に決まってるじゃない! わかってるの!?」
「あ、え、はい……」
突如として、クレアちゃんが詰め寄ってくる。まるで、これまで溜め込んでいたものを一気に爆発させたかのよう。
いや、まるでじゃないなこれは。
その迫力に、思わず圧倒されてしまう。
そんな私に気づいてか気づかずか、クレアちゃんは次々まくしたてる。
「聞いた話じゃあ、この学園トップクラスの実力の持ち主……すでに、その腕前は下級魔導士に匹敵すると聞くわ!
魔法、魔術共に優秀で、なにより頭のキレがとんでもないって!」
「下級魔導士相当……」
ゴルドーラ・ラニ・ベルザのことは、正直王族、第一王子ということ以外知らない。けど、今のクレアちゃんの言葉の中に、興味深いものがあった。
魔導士とは、学園在中の生徒を魔導士見習いとして扱われる。学園を卒業して、見習いではなくなるわけだ。
そして魔導士には、上級魔導士、中級魔導士、下級魔導士の三段階に分かれると聞いた。
その、下級魔導士に匹敵するというのだ。ゴルドーラ・ラニ・ベルザは。
「エランちゃーん? なんで笑ってるのかな? ちゃんと聞いてるよね? この意味わかってるよね?」
「もちろん。
……下級魔導士くらい倒せないと、師匠を超えるなんて夢のまた夢、ってことだよね!」
「全然わかってない!」
クレアちゃんめ、なんだかんだ言って私のやる気スイッチを押すのがうまいんだから!
まさか、今度の決闘相手が下級魔導士相当とは!
師匠の所にいた頃は、想像すらしていなかった。
この学園に入って、魔導剣士だというダルマスと決闘をした。魔石採取の最中、乱入してきた魔獣と戦った。クラス対抗の試合で、たくさんの生徒やゴーレムとも戦った。
そして、次は……下級魔導士……!
「くぅー!」
「あのー、勝手に纏めないで……
あぁもうこれ、確かにこっちがあれこれ考えるだけ無駄だわ」
決闘は一週間後だけど、今からワクワクが止まらない。魔導士同士の真剣勝負、それが決闘!
ただ、私の知らないこともある。
どうやら、決闘にはなにかを賭けるものらしい。ただ、自分で自分のなにかを賭けるのではなく、相手が自分に対してなにを賭けるかを要求できるのだという。
例えるなら……向こう一週間あなたの財布で食堂の料理食べ放題できる権利、とか。賭けの対象に上限はなく、両者合意ならなにを賭けてもいいらしい。
決闘で賭けられたものは、絶対に覆せない。要求には従わなければならない。
……ということは……ゴルドーラ・ラニ・ベルザが、弟に謝罪するよう要求することも、可能だということだ。
「エランちゃん。一応言っておくけど、これって勝っても負けても問題になるわけで……」
「あのー?」
なにかを言おうとしたクレアちゃんのセリフは、別のセリフによってかき消される。それは、私のものじゃあない。
聞き覚えのない声だ。なんか、おっとりした感じの声。
一旦、クレアちゃんと顔を見合わせて……声のした方向へと、首を向ける。
そこにいた人物に、一瞬目を奪われた。
ふわふわの、腰辺りまで伸びたブロンドヘアー。思わず触りたくなってしまう魅力を持っている。それに、整った顔立ち、タレ目なのがどこか保護欲をかきたてる。
スタイルも抜群で、出るとこは出て締まるとこは締まっている。くそぅ。
「えぇと……?」
初めて見る女の子だ。かわいらしい。
今のって、私たちに話しかけてきたんだよね? 他に周りには誰もいないし……
私が首を傾げると、なぜか彼女も首を傾げる。
「あの……」
「あなたが、エラン・フィールドちゃんよね?」
「え。あ、うん」
初対面でちゃん付けか……まあ私が言えた話じゃないけど、距離感近いなこの子。
胸元のスカーフは……赤色。私たちと同学年か。つまり新入生。
……うーん、なーんかこの子、どこかで見たような……
「あばばばばば」
「!?」
突如、壊れたクレアちゃんが変な声を漏らしていた。どうしたんだ!?
肩を掴んで揺らすと、ちょっと正気に戻った。
「な、ななな、なんで……こ、こここ……」
「クレアちゃん? この子のこと知ってるの?」
呼びかけても、まともな返事が返ってこない。この子そろそろ頭がパンクしそうだ。
そんな私たちの混乱をよそに、話しかけてきた本人は……
「さっきの試合見てたよー、お兄様のゴーレムを倒したあの魔術、すごかった!」
なんて、言い出した。
「……お兄様?」
「うん。あ、自己紹介がまだだったね。
私はコロニア・ラニ・ベルザ。コーロラン・ラニ・ベルザの双子の妹で、この国の第一王女でーす」
「……」
予想外の人物が、予想外のこと言って、予想外にのほほんとしていた。
14
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる