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第三章 王族決闘編
96話 問われる貴族の価値観
しおりを挟む「おい、マジかよ……決闘って、あのゴルドーラ様と? 聞いた話だとゴルドーラ様に決闘を申し込んだんだろ? どこのバカだそんなの挑んだの」
「ほら、新入生で、最近いろいろやらかしてる黒髪の……」
「確か……そう、エラン・フィールドって名前だ。あのグレイシア・フィールドの弟子らしい」
「そりゃすげぇ。グレイシア様の弟子と、この国の第一王子が決闘か」
「そんなのんきなもんでもないだろ。よりによって王族に決闘申し込むなんてなに考えてんだ」
「それに、ゴルドーラ様もゴルドーラ様だ。なんでわざわざ、決闘を受けるなんて……」
「おい、あんまりそういうこと言うなよ。ゴルドーラ様にはなにかしら考えがあるんだろ」
「あぁ、考えなしはエランってやつだけだ」
「…………」
なーんか、あちこちでコソコソと話している声が聞こえる。内容も、それとなく聞こえる。それに、視線も感じるし。
私がゴルドーラ・ラニ・ベルザに決闘を挑んで、その翌日。どうやら決闘の話は広まっているらしい。
どこから話が広まったのか……先生からか、それとも盗み聞いていた人でもいたのか。はたまた、ゴルドーラ自らが言いふらして……そんな性格じゃないな。
まあ、話の出処を考えても仕方ない。実際に、広まっているのだから。にしても、こんなにも話が広るスピードが早いとは。
人ってやつは噂が好きだからなぁ。
王子であり、三年生でもあるゴルドーラの顔は、当然知れ渡っていることだろう。対して、私は新入生……本来なら、こうして人々の注目を集めることはないんだけど……
……どうにも、エラン・フィールド=黒髪の女の子、という話も広まっているらしい。
それだけじゃなくて、ダルマスとの決闘や魔獣騒ぎの件から、入学早々エラン・フィールドはいろんなことをやらかしている……と、そういう認識で通っている。
「……それにしても、決闘と試合が違うってのは、よくわかるなぁ」
人々の視線を浴びながら、私は考える。ちょいちょい、試合と決闘とは違うと聞いていたけど……その、本当の意味を。
試合は、あくまでクラス対抗の行事みたいなものだから、話が広まっても見物に訪れる人は少ない。私たちの場合は、私のクラスと王子様のクラスがぶつかるって興味が、人々を惹いたらしい。
だけど、決闘はまた違う。今回みたいに、決闘が行われるという情報はすぐに学園中を巡る。そして、試合を見物する場合は試合の会場にまで足を運ぶ必要があったけど……
決闘の場合は、決闘の様子がリアルタイムで中継されるらしいのだ。
決闘の勝ち負けは、貴族の価値観を左右する……とは、クレアちゃんの言葉だ。
決闘の様子から結果まで、学園中に中継される。なるほど、普通の試合とはわけが違うっていう本当の意味は、こういうことか。
「負けたら、それが学園中にさらされるんだもんね……」
そう考えたら……今更ながら、とんでもないことをしてしまったんじゃ、という実感が湧いてくる。
まあ、だからといって決闘を申し込んだことを後悔しているわけじゃないし、決闘を取り消そうとも思ってないけど。
挑んだ以上、負けるつもりもない。かといって、王族が負ける、というのも……王族的にはどうなんだろう。
いやいや、そんな相手の事情なんて考えることないよ私。それに、王族に敗者は必要ないと、他ならぬゴルドーラが言っていたのだ。それも、実の弟……コーロラン・ラニ・ベルザに。
自分が、どれだけひどいことを言ったのか。
それをわからせる意味でも、この決闘、負けるわけにはいかないよね!
「……ところで、さっきから気になってたんだけどさ。
なんで、ずっと私のこと見てるの?」
「……?」
「いや、キミだよコロニアちゃん。振り向いても誰もいないからね?」
さっきから、一人で歩いてはいたけど……周囲のものとは別に、私のことを見ている視線を感じた。そしてそれは、うまく隠れられていると思ってまったく隠れられていないものだ。
振り向くと、そこには柱の影に隠れた、コロニア・ラニ・ベルザちゃんの姿があった。
なにか言いたいなら、普通に話しかければいいのに。
「あちゃー、バレちゃったかー」
「バレないほうがおかしいと思うよ」
あれを尾行のつもりだと言うのなら、お粗末もいいところだ。
ただ、コロニアちゃん的には結構本気だったんだろう。
それにしても、わざわざ私を見ていたってことは、なにか私に用事があるということ……おっと、周囲がざわつきだしたぞ。
いきなり王女様が現れれば、そうなるか。ここで立ち話をするのも、あんまりよくないな。
「なんの話かは知らないけど、とりあえず場所を移して……」
「ねえ、エフィーちゃん。
私とやらない?」
私がここを移動しようと言い切るより先に……コロニアちゃんが、口を挟んだ。
それは、主語もなにもない、意味のわからない言葉。だけど……
「……やる、って?」
その意味は、なんとなくわかった。
「私と、試合……うーん、ちょっと違うなぁ。
訓練? 特訓? 鍛錬? とにかく、そういうの……やらない?」
意味は、わかっていたけど……なんで、突然そんなことを言い始めたのか。その理由は、まったくわからなかった。
なにを考えているのか、わからない。相変わらずポワポワした目で……
けれど不思議と、冗談は感じられなかった。
「……私と?」
「うん。ゴル兄様との決闘に向けて……
決闘までの間、私と……やらない?」
なぜ、そんなお兄さんの敵に塩を送るような真似をするのだろう……
不思議では、あったけど……それがありがたい申し出であることも、確かだった。
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