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第三章 王族決闘編
109話 経験値の差
しおりを挟む『いいかい、生物というのは、たとえ硬い皮膚を持っていようとも、魔力で身体を補強しようとも……内側からの攻撃には、弱い』
『ふんふん』
『身体は鍛えれば強くなるが、内側はそうにもいかないからね』
『じゃあ、魔物とかと戦うときは、内側から攻撃しちゃえば楽に倒せるってこと?』
『まあ、そうなるかな。もっとも、エランの魔力ならそんじょそこらの魔物には阻まれないだろうし……
魔獣なんかはまた別だけど、一人で魔獣と戦おうなんてするんじゃないよ。まず、安全が第一。逃げてでも、エランが無事でいてくれないと』
『もー、過保護だな師匠はー』
……いつの頃だったが、そんな会話を師匠としていた。その記憶が、頭の中に浮かんだ。
あぁ、そうか……体の中からの攻撃。これは確かに、防ぎようがない。
私の体の中で、ゴルドーラの放った魔法が爆発した。
一瞬、なにが起こったのかわからないほどの、衝撃があって。
「っ……かはっ」
口から、煙が出た。体の中が、熱い……!
さっき私は、サラマンドラの口の中へと攻撃しようとしたわけだけど……まさか、それの意趣返し?
なんにしても……
「普通……人の、お腹の中から……攻撃、する?
これ、死んじゃうやつだよ……?」
「安心しろ。結界の中以外で使うつもりはない」
私から距離を取ったゴルドーラは、こともなげに、安心しろなんて言い出した。なにが安心しろだよ。
確かに、結界の中なら、普通死ぬようなダメージを受けても死ぬことはない。一定以上のダメージは、結界が無効化してくれるのだ。
だからこそ私たちは思い切りやれている。相手を殺してしまうかもしれない、という心配をする必要もない。
……とは言っても、だ。
「限度ってもんが、あるでしょうに……」
「貴様とて、今しがたドラに同じことをしようとしただろう。
なんの問題がある?」
死なない、重傷にはならないとわかっていても、普通生身の人間相手のお腹の中に攻撃を撃ち込む!? しかもこんな美少女の!
結界がなかったら間違いなく死んでるし、生きていたとしても内臓はぐちゃぐちゃだよ。
さっきは、躊躇なく顔を殴ろうとしたり……ほんっとに、容赦がない……!
「けほっ」
「なんなら、降参しても構わぬが?」
「冗談」
まだお腹がヒリヒリするけど……これくらいで、根を上げるわけにはいかない。私は、まだやれる。
ただ、少しばかり動きは鈍るかもしれないけど。
だから……
「……回復魔術」
「ほぉ」
私は回復魔術で、ダメージを少し回復する。これで、ちょっとは気が楽になった。
本当は全快させたいけど、そんな隙をゴルドーラがくれるはずもなく。
水が、出現する。それも、ゴルドーラの杖の動きに合わせて動くものだ。
あれに呑み込まれれば、今度は窒息するまで閉じ込められるに違いない。もちろん、本当に窒息死はしないけど……そんなのは、ごめんだ!
私は、とにかく走り出す。走って、狙いをつけさせない……まずはこれだけでも、相手の目をかく乱するには効果的だ。
「言ったはずだ、見込みが甘いと」
「!」
だけど、逃げられない……水が、まるで壁のように私の行く手を阻む。この質量、とんでもないな……!
だったら、水を蒸発させて……と考えていたところ、無数の光の弾が水の壁の向こう側から放たれる。
「!?」
とっさに後ろに飛ぶけど、かわしきることはできず……いくらか、体に当たってしまう。
くっそ、水に呑み込まれることばかりに気を取られた! ただの、目くらましに活用するなんて。
攻撃が終わるまで、致命傷は避けて逃げ続ける。
「ふむ……やはり、な」
「はぁ!?」
くそ、こっちはいっぱいいっぱいだってのに……余裕な顔、しちゃってさ!
「その魔力量や、土壇場の状況判断は見事といったところだ。戦いのセンスも、磨けば目を見張るものになるだろう」
「そりゃ、どうも! だったらなんだって……」
「……だが、戦い慣れしていない」
……私を見透かすような視線が、私を射抜く。
それは、私も薄々感じていたこと……それを、この短時間で、この男は……!
「正確には、対人との戦闘経験が乏しい……といったところか。おそらく、魔物や魔獣とはそれなりの場数を踏んできた。
だが、人相手に……戦闘の経験は、少ないのではないか?」
「っ」
人相手の、戦闘経験が少ない……まるで、見てきたかのような言葉。そしてそれは、当たっている。
私は、今まで師匠と二人で魔導の訓練をしていた……時には魔物を、魔獣を相手に。それも、魔獣は師匠と一緒にだ。
もちろん、師匠との戦闘訓練なら何度もやった……だけど、それはあくまで訓練。実戦形式でやったこともあるけど、果たして師匠の本気を引き出すことができたのかどうか。
師匠との戦闘訓練は、多い。師匠との戦闘訓練は……だ。つまり、師匠以外の人との戦闘経験は、ない。当然だ、ずっと人と関わらない生活をしていたんだから。
「いかに膨大な魔力があろうと……真に魔導士に必要とされるのは、経験値だ。貴様はグレイシア・フィールドの弟子だと言ったな。なるほどそれならば、貴様の魔力、判断力、戦いのセンスにも納得だ。……が、経験がなければ、いかなる魔導士も並を出ない。
並の魔導士に負けるほど、俺は柔くはないぞ!」
「うわぁ!」
地面に着弾した魔法が爆発し、それに私は巻き込まれる。
しかも受け身も取れずに、地面に倒れ込んでしまう。うぅ、体のあちこちが痛い……
戦いの経験値……それが、魔導士には必要だと言った。私だって。師匠相手に何度も挑んだ。
でも、それで師匠の全力を引き出せたことがあったか? 師匠としか訓練したことのない私は、経験値が豊富だと言えるのか?
対して、相手は……ゴルドーラは、三年生。この魔導学園で、二年も魔導を学び、経験値を溜めてきた人物だ。
今回のような、決闘騒ぎはあんまりないにしても……数多くの教師に学び、生徒と時には切磋琢磨し。私なんかとは、経験値が段違いだ。
「はぁ、はぁ……!」
私は……負けちゃう、のか? このまま……
相手は三年生、相手は王族、仕方ないじゃないか……
……そんなの、嫌だ!
負けたくない……私は、勝ちたい……!
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