115 / 1,141
第三章 王族決闘編
112話 金的は男の人の弱点なんでしょ
しおりを挟む「う、ぐ……!」
あの、激しい魔術の衝突に躊躇なく突っ込んでいくなんて……この、変態め……!
首を掴まれ、その上持ち上げられている。これは……思った以上に、苦しい……くそぉ!
ていうか、いくら結界の中だからって……こんなか弱い女の子の首絞め上げておいて、表情一つ変えないって、人としてどうなんだ!
「このまま降参するか、意識を手放すまでもがき続けるか……好きな方を選ばせてやる」
「っ……どっちも、おこと……わり!」
息をするのは苦しい。けれど、まだ体に力は入る。杖も握れる。頭も働く!
師匠が言っていた……戦闘は、勝ちを確信した時が一番油断に繋がるって。今ゴルドーラは、私を締め上げて動きを封じ、もう勝ちまであと少しだと思っている。私に選択肢を迫ってきたのが、その証拠だ。
だから……その油断の隙を……つく!
「ふん!」
「!」
私は、力の限りを込めて、だらんとぶら下がっていた足を蹴り上げる。狙いはそう、ゴルドーラの股間だ。
ただ、ゴルドーラはまるで私の動きを予測していたかのように、私を突き放して……距離を取る。
いや……実際には見てから、反応した。恐ろしい反応速度だ。
おかげで解放されたけど、背中を打ち付けて倒れ込んでしまう。
「ぅっ……ったた、避けたか」
背中を擦りつつ、急ぎ起き上がる。
視線の先のゴルドーラは、わずかに驚いた表情を浮かべている。
「けほっ、けほ……
まるで、私がああすることがわかってた、みたいだね」
「なにかするだろうな、とは思っていた。動きを封じようが、頭が無事な以上、魔法は放てるからな。
まさか、あんな直接的な行動に出るとは思っていなかったが」
「金的は男の人の弱点なんでしょ」
なるほど。私がなにかすると思って、すぐに動けるように注意していたのか。
なんとか解放されたけど……状況は、なにも変わっていない。いや、あの厄介なゴーレムはいなくなったか。
……まあ、ゴーレムがいなくても問題ないくらいに、あのサラマンドラは厄介なんだけどね。
けど、これでわかった。ゴルドーラは、私が思いもしないことをやってくる。それに対するためには、まずは先手を取らないと……
「燃え広がれ」
「!?」
も、もう次の手を打ってきた!?
ゴルドーラの魔法により、私の周囲に火の手が上がり……まるで私の逃げ場を塞ぐかのように、火の壁が私を囲っていた。
あつっ……! 私を熱で倒す……とは、思えないな。ゴルドーラの性格から、そんな地味な決着を望むとは思えない。
なら、やっぱり私の逃げ場を塞ぐための……?
なにから……?
「灼熱に燃えし巨石よ、天から降りし火球となりて……」
「ぇ……」
ゴルドーラは、まるで最初からそうすることを決めていたかのような流れる動作で、詠唱を開始する。ついさっき、魔術を放ったばかりなのに!?
迷いのない詠唱は、一音一音正確に紡がれていく。
とっさに私は、ゴルドーラに向けて魔法を撃つけど……それらは、サラマンドラに妨害されてしまう。口から吐く炎に、すべてかき消されてしまう。
そうしている間にも、詠唱は完了する。
「その圧倒的な力を持ち、標的を押し潰せ!
星石落爆火!!!」
天高く掲げた杖の、その先には……
上空から降ってくる、炎に包まれた巨石の姿があった。ただの石じゃない……なんか、燃えている……
あれは……隕石!?
「! 火属性と土属性の、複合魔術……!?」
うっそでしょ……あんなでかいの、直撃したらとんでもないことになっちゃう。結界がなければ、私どころかここいら一帯が消し飛んでしまう!
私も魔術で対抗するべきか……魔法じゃどうにもなんないだろうし。でも時間が。
火の壁のせいで、逃げられないし……なら、浮遊魔法で回避する!
空なら、地上よりいくらか自由に動けるはずだし……
「なにを考えているかはだいたい予想がつく。
ドラ! 切断!」
「ゴォオオオ!」
ゴルドーラは、サラマンドラになんらかの指示を出す。すると、それに応えるように咆哮を上げるサラマンドラの口からは、まるで風の刃のようなものが出てくる。
それが、落下してくる隕石に向かって、放たれて……
……隕石を、切断した。それも、幾つもの個数に分けるように。
「げ……」
巨大な隕石は、幾つにも切断された。巨大な一個の隕石が、小さくなったけどその代わりに無数の隕石となって降り注ぐ。小さいと言っても、さっきのものと比較して、だけど。
まるで、話に聞いたことのある、流星群だ。
あんな隕石、サラマンドラの真似して風の刃で迎え撃とうとしても、普通の魔法じゃ傷一つつけられない。それを切断するなんて……
あのサラマンドラ、やっぱりすごいんだ。
「さあ、これをどうかわす」
「ぬくぐ……!」
周囲には火の壁、空からは無数の隕石……飛んでかわそうにも、難しい。さっきの、巨大だけど一個だけのものならともかく、無数に降り注ぐそれを全部かわすなんて。
魔法で対抗しようにも、効くかわからないし、魔術詠唱の時間もない。こうしてる間にも、火の壁の熱が集中力を奪っていくし……
……火の壁?
「そうだ!」
そうだ、この火の壁……魔法じゃないか!
魔法だというのなら、アレが使える!
私は収納魔法でしまっておいた、アレを取り出す。こいつなら……
「『魔力剣』ォオオオ!」
空間から取り出す勢いを乗せて、周囲の火の壁に向けて振り回す。すると、火の壁……いや魔法は、だんだん小さくなりやがては消えていく。
こいつなら、魔法を吸収できる。さっきまではゴーレムに阻まれて一旦収めてたけど……
魔法相手なら、『魔力剣』は強い味方だ!
「む……いかんな、その魔導具も警戒すべきだった」
火の壁が消え、ゴルドーラはポツリと声を漏らす。とはいえ、なにもかもに注意を向けるのは無理な話だろう。
それも、こんな極限の戦いの中で。
火の壁を吸収し、さらに私は自分の魔力を『魔力剣』に込める。大気中の魔力以外の魔力を吸収するので、自前の魔力を使って威力を上げることが可能だ。
狙うは、降り注いでくる隕石……! 巨大なままだったら難しかったかもしれない。けど、あの大きさなら!
出力全開……! 『魔力剣』が壊れないだろうギリギリのところまで魔力を込めて……
「いっ、けぇえええええ!!」
『魔力剣』を思い切り振り、刃の形を模していた高密度の魔力はまるで光線のように放たれる。正面広範囲に。
魔力のエネルギー派は隕石を呑み込み、消滅させていく。切断されたことで、一つ一つの防御力も低下していたのか。
……だけど、これですべてを防げるはずもなく。
「くぅ……!」
私に向かって降り注ぐものはなんとか呑み込んだけど、それも消滅しきれなかったものが新たに降り注いだり、エネルギー派から逃れた隕石はなんの障害もなく地面に降り注ぐ。
直撃こそしなかったけど、隕石の破片が所々に掠った。
ちなみに、砕かれた隕石の破片はゴルドーラにも被害が出るかと思いきや、それらはサラマンドラが防いでいた。
まあなんにせよ、なんとか複合魔術も防いで……
パキッ……
「あ」
軽く呼吸を整えて、もう一撃を放とうとしたとき……音を立てて、『魔力剣』が割れていった。
13
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる