188 / 1,138
第四章 魔動乱編
184話 それってもしかしてデートなのでは!?
しおりを挟む「はぁーーー……」
「……どうしましたのフィールドさん。そんな、魂が抜けたようなだらしない姿をして」
帰宅した私は、荷物を置いたあと、床に座って手足を伸ばし、ボーッとしていた。
それがどうやら、ノマちゃんには魂の抜け殻みたいに見えてしまったらしい。
「あ、口からなにか出てますわね。えいっ、えいっ」
ノマちゃんに心配はかけたくない、けど……今私の頭の中は、さっきまでのやり取りのことでいっぱいだ。余裕がない、ってやつだ。
ふと、数時間前の出来事を思い返す……ダルマスとの訓練、それが終わっていざ帰ろう、となったときだ。
ダルマスは、私にこう言った。
『ならその日、俺と、出かけないか』
その日、とは今度の週末のこと。事前に私に用事がないことを確認した上で、こう切り出したのだ。普通に考えれば、クラスメイトと休日にお出かけなんて、こっちから望むところなんだけど……
相手がまさかの、ダルマスとは。しかも、二人きり。
いやぁ、別にダルマス個人とお出かけするのがいや、ってわけじゃあ、ないんだけどさ……
これってあんまり、よろしくないんじゃないかなぁって。
「あのさ、ノマちゃん」
「あ、戻ってきましたわ。どうしましたの?」
「友達……の話なんだけどさ。
休日に、お出かけに、誘われたみたいなんだよ。男の子に」
「まあ! フィ……お友達が!」
私は、私の話を友達の話として、ノマちゃんに相談する。
この問題は、私一人で抱えるには大きすぎる。幸運にも、ノマちゃんは食い付いてくれたようだ。
「あらまぁ、殿方にお出かけに誘われるなんて……
それはもう、デートではありませんの!」
「で…………そ、うなの?」
「そうですわ! 男女で二人でお出かけするとなれば、それをデートと呼ばずしてなんと言います!」
熱を込めて答えてくれるノマちゃん。だけど、その答えは私にとってはやっぱりよろしくないものだった。
だって、デートってあれでしょ……私でも、その意味は知ってるよ!
いつも通りの私なら、デートと聞かされても、ふーんそうなんだ……と、軽く流していただろう。だけど、だ。
私の、認めたくないけどデート相手は、ダルマスだ。そのダルマスのことを気になっていると相談してきたのが、キリアちゃん。私の友達。
つまり、私は、私の友達が気になっている男の子と、デートに出かける、ということになってしまったわけで……これはやっぱり、よろしくない!
「それで、そのお友達は、デートのお誘いをお受けしましたの?」
ノマちゃんは、キラキラした瞳で私に詰め寄ってくる。
「まあ、うん……その子は、誘われたのがデートだなんて、認識してなくて。
いやそれ以前に、まさか誘われるなんて思ってなくて……あんまり驚いたもんだから、ついうなずいちゃって……」
そう、あのとき私は、突然の誘いに頭が真っ白になってうなずいてしまった。
その後、どこか上機嫌に見えたダルマスが帰っていったところで、ようやく我に返ったけどもう遅くて。
メッセージを送って断ろうかとも考えたけど、せっかく私を誘ってくれたんだと考えたら、断るのも忍びなくて。
「それで、フィ……そのお友達は、殿方とのデートがお嫌ですの?」
「……いや、っていうか。
その、友達の友達の子が、今回デートに誘ってきた男の子のことを、気になってるみたいで」
「まっ」
私の話を友達の話とごまかしている以上、友達がキリアちゃんであることや、男の子がダルマスであることも言えはしない。
いや、ごまかしてなくても、勝手に名前を出すのはだめだろう。
口元に手を当てているノマちゃんは、顔を赤くさせたり目を輝かせたりしている。
のんきな……とは思ったけど、私だって同じ立場だったら、同じような反応をしていただろうなぁ。
「それは……三角関係、というやつですわね! なんておもしろ……複雑なことになってますの!」
「今おもしろそうなって言いそうにならなかった?」
「そんなことありませんわ! えぇたまりませんもの!」
……本音隠せてないな。
そもそも、ダルマスはどういうつもりで、私をデートに誘ったんだろう。そもそも、ダルマスはこれをデートと認識しているのだろうか?
『あぁ、いや、その……わ、わざわざ訓練に、付き合ってもらっている、わけだしな!
その礼だ、礼! ただ出かけるというより、あれだ、なんか奢る!』
……こう言っていたしなぁ、唖然とする私を見てから。
ははぁん。つまり、私がデートだと誤解しちゃわないように、これはデートでじゃないですよ……と釘を刺していたってわけか。
危ない危ない。危うく、勘違いしてしまうところだったぜ。
考えてみれば、ダルマスが私をデートに誘うわけ……ないのか? 私は超かわいいんだし、男の子ならむしろデートに誘おうとするのが普通なのでは!?
「ぬぅうう……おぉおおお……!」
「フィールドさんったら、なんだかむつかしいことを考えてますわねぇ。
まあそれはともかくとして。フィールドさん、当日来ていく服は決まっていますの!?」
「ぬぬぬ……へ、いや、まだだけど……って、行くのは友達の話だからね!?」
「えぇえぇ、わかっていますとも!」
ノマちゃんは、私にグイグイ距離を詰めてくる。その表情は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のよう。
い、一応友達の話だってわかってくれてるんだよね!? だよねぇ!?
ただ、ノマちゃんはわかっているとうなずきながらも、今度はクローゼットの方へと駆け寄っていった。
「フィールドさ……いえ、お友達の、当日着ていく服を、今から見立てなければいけませんわね!」
「え? いや、いいよそんなの……」
「よくはありませんわ! 殿方とのデート、それも向こうからのお誘いを受けて、ですもの。
ここは、淑女の嗜みとして、デートに恥ずかしくない服装にしなければ!」
やたらと気合いの入っているノマちゃんには、すでに私の声は聞こえていないようだ。
淑女、嗜み……要は、おしゃれしろ、ってことだよね。
「いやほら、服を選ぶって、私の友達の話だし、私の服を選んでも似合うかわからないし意味ないんじゃないかなぁ……って」
……だめだ、反応がない。やっぱりもう私の話聞いてないよぅ。
その後、盛り上がるノマちゃんによる着せかえショーは、夜通し続いた。
13
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。
aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?
浅野明
ファンタジー
ある日突然天使に拉致された篠宮蓮、38歳。ラノベは好きだが、異世界を夢見るお年頃でもない。だというのに、「勇者召喚」とやらで天使(自称)に拉致られた。周りは中学生ばっかりで、おばちゃん泣いちゃうよ?
しかもチートがもらえるかどうかはガチャの結果次第らしい。しかし、なんとも幸運なことに何万年に一度の大当たり!なのにチートがない?もらえたのは「幸運のアイテム袋」というアイテム一つだけ。
これは、理不尽に異世界転生させられた女性が好き勝手に生きる物語。
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる