史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

188話 まるで家族みたい

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 ダルマスとのお出かけの最中、ビジーちゃんと再会した。相変わらず元気そうでなによりだ。
 私が驚いているのは、ビジーちゃんがペチュニアで住み込みで働いているらしい、ってところだった。

「行くとこがないなら、ここに住んだらどうかって。住み込みで働くなら、安心だろうって」

「タリアさんらしいというか、なんというか……」

 タリアさんなら、ビジーちゃんみたいな困った子は放っておけないタイプだもんなぁ。
 ビジーちゃんはどうやら、この国には一人で来たようで、行くあてもない。ならば、住み込みで働いてみては、とはまあ妥当な判断かもしれない。

 まあ、なんにしても元気でやっているなら、私も安心だよ。

「なら、今度ビジーちゃんが働いてるとこ、見に行かないとね」

「うん、来て来てー!」

 ふふ、まったくかわいいなぁ。
 このまま愛でていたい気持ちもあるけど、そういうわけにもいかないか。一人でここにいるってことは、ビジーちゃんにも用事があるんだろうし。

 ……ただ、また変な奴に絡まれないか、心配ではあるよなぁ。

「俺のことなら気にするな」

「!」

 ふと、ダルマスの声。それは、私の心配事を察してのものだったのだろうか。
 このまま、ここにビジーちゃんを放ってはいけないというもの。

 でも……

「気になっているんだろう、見ればわかる」

「うぅ」

 ダルマスは、私がビジーちゃんを気にしていることを見抜いている。
 なんていうか、よく見てるよねぇ。

「なんかごめん」

「いいさ。もう礼は済んだし、俺はこれで……」

「ねえねえ、お姉ちゃんとお兄ちゃん、一緒に行こうよ!」

「!」

 私の手を掴んだビジーちゃんが、反対側の手でダルマスの手を掴む。
 予想していなかったのか、ダルマスは目を見開いていた。

 ダルマスは、私はこれからビジーちゃんに構うため自分はこのまま去ろうとしていたようだけど……それを、ビジーちゃんが止めた。

「いや、俺は……」

「……だめ?」

 私からは表情は見えないけど、ダルマスは困った表情を浮かべているし、ビジーちゃんは目に涙を浮かべているのかもしれない。
 私も見てみたい。

 それから、ダルマスは軽くため息を漏らして。

「わかったよ」

 と、うなずいた。

「わーい!」

「なんか、すごいなついてる?」

 ダルマスも同行することに、ビジーちゃんはすごい喜んでいるように見える。それほどまでに嬉しいのか。
 初めて会ったというのに。無邪気にはしゃいでいる。

 そんなわけで、私とダルマス、そしてビジーちゃんは、一緒に行動することになったわけで。

「……なぜ、こんなことに……?」

「仕方ないじゃん、ビジーちゃんがこれがいいって言うんだから」

「~♪」

 現在、私はビジーちゃんと手を繋ぎ、ダルマスもまたビジーちゃんと手を繋いでいる。
 つまり、三人が並んで、私とダルマスの間にビジーちゃん。お互いに手を繋いでいる状態だ。

 なんか……なんというか、この状況って……

「なんだか家族みたーい!」

「!」

 あんまり気にしないようにしても、ビジーちゃんがはしゃいでいるため妙に意識してしまう。
 当然、ビジーちゃんはただはしゃいでいるだけで悪気はない。ダルマスはさっきから黙っちゃってるし、気まずいよぅ。

「と、ところでビジーちゃんは、一人でどこに行くつもりだったの?」

 とりあえず、場の空気を変えるためにも、話しかけよう。それに、気にもなっていたことだし。

「んっとね、おつかい!」

「一人で?」

「一人でって言ったの!」

 ……なるほど。ビジーちゃんにおつかいを頼んで、本当は誰か同行させるつもりだったんだろうけど、ビジーちゃんは一人で行くって言って聞かなかったわけか。
 ふーむ、ビジーちゃんにはもう少し危機感を持ってほしいな。まだ小さいからよくわかんないのかもしれないけど。

 まあ、なにかあってもこっからは私たちが守れば、問題ない……

「っと?」

 進んでいた足が、止まる。正確には、一緒に歩いていたビジーちゃんの足が止まり、それにつられて私の足も止まる。
 いったいどうしたのか。ビジーちゃんへと振り返ると、ビジーちゃんは前ではなく、どこか別のところを見ていた。

 目を輝かせ、その視線は一点に集中していた。
 私も、その先をたどると……

「クレープ?」

「お姉ちゃん、あれ食べたい!」

 屋台があった。そこでは、どうやらクレープを作っているみたいだ。クレープ屋さんだ。
 それを、食べたいとビジーちゃんはせがんでくる。小さい女の子だ、甘いものに目がないのだろう。

 そんなキラキラした目で見られたら、なんでも買ってあげたくなっちゃう。けど、いいのか?

「でも、おつかいがあるんでしょ?」

 やんわりと断ろうとすると、ビジーちゃんは見るからに悲しそうな顔をする。そんな顔をしないでおくれよ。
 仕方ない……と、私がうなずきかけたところへ、「ははっ」と笑いが聞こえてきた。

「いいさ、俺が買ってやる」

「! いいの!?」

「あぁ、好きなものを選べ」

「やたー!」

 思いがけない、ダルマスの言葉。まさか、買ってやるなんて言うなんて、思わなかった。
 え、なんだその柔らかい表情。もしかしてダルマスって、子供が好きなのか?

「いや、悪いよ」

「お前はこの子の保護者か?
 俺がしたいからしているだけだ」

「ぬぅ」

 ビジーちゃんとは、危ないところを助けただけの関係。だから、保護者とかではない。
 なので、そんな風に言われると、私はなにも言えない。保護者でもないのに、自分が出すから、と押し切るのも変だし。

 結局、ダルマスの奢りでクレープを買うことになった。

「わぁ、わぁ! どれにしよーかな!」

「お前も食うか」

「え……いいの?」

「ついでだ」

 実は私も、クレープを食べたいと思っていた。それを見抜いたのだろうか。ダルマスの言葉に、少し恥ずかしくなる。
 ビジーちゃんに続いて、私もクレープを奢ってもらうことになるとは。

「わーい! お兄ちゃん、ありがとう!」

「あ、ありがとう」

「あぁ」

 ビジーちゃんはバニラ、私はイチゴの味のクレープを買ってもらう。うーん、甘そうでおいしそうだ。
 なんか、いつの間にか気まずい空気もなくなったな。

 ダルマスのやつ、結構紳士じゃないか。ありがたく、いただくとしよう……

「いただきまーす!」


『わかってるってぇ……でも、あは……
 ……オイシソウダナァ』


「!?」

 突然、頭の中に流れてきた声……その衝撃に、思わず立ち眩みしそうになるが、なんとか耐える。
 大丈夫、変に思われてはいない。ビジーちゃんはクレープに夢中だし、そのビジーちゃんに勧められてダルマスはビジーちゃんのクレープを食べている。

 今の、声……映像……は……
 前に、夢で見た……ルリ―ちゃんの過去の続きと思われる、記憶……?
 なんで、こんなときに……?

 夢の中の、声の主は……確か、黒髪黒目の、少女だったっけ…………ビジーちゃんと、同じ特徴だから、無意識のうちに思い出しちゃったのかな。
 だとしても、ビジーちゃんに失礼すぎるだろう、私。

 いやいや、ちょっと疲れてただけだ。忘れよう。甘いものを食べて、忘れよう。

「……あま」

 口にしたクレープは、とっても甘かった。
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