202 / 1,138
第四章 魔動乱編
198話 信頼してくれた理由
しおりを挟むリーサとの会話で、今回の"魔死事件"の件は犯人がルランではないことが、確信できた。
それは、ルリーちゃんのお兄ちゃんが私の友達に手を出してなくてよかった……と思うと同時に、犯人への手掛かりもなくなったことを意味していた。
あんな殺し方、誰にでもできるものじゃない。先生たちが言うには、今回の事件もこれまでの"魔死者"と同じ現象が起こっていた、と言っていた。
ノマちゃんの場合、その後死ぬことはなく生きていた……という違いはあるけど。それに、ぐちゃぐちゃになった体の中も、元に戻っていたと。
たまたま、"魔死事件"と同じ方法で殺すなんてできるわけがない。だからこれは、魔石を人の体内に入れたら魔力が暴走する、と知っている人の犯行だ。
その上で、学園に侵入できた人物……
「ねえ、エランちゃん……ルリーちゃんから、どこまで聞いた?」
「ん?」
考え事をしていたところに、隣に座っていたリーサが話しかけてくる。
ルリーちゃんから、どこまで聞いたか、とは……ルリーちゃんの、いやみんなの過去をってことだろう。
あのあと、私ならルリーちゃんから話を聞くと、わかっていたのかな。
「仲のいい六人がいつも一緒だったこと、ダークエルフの中にエルフが混ざって生活を始めたこと、ある日人間が攻めてきたこと……
……その人間に、ルリーちゃんの大切な人が殺されちゃったこと」
「……そっか」
ルリーちゃんの過去を聞いて、ルリーちゃんのすごさがよくわかった。
ただでさえ、ダークエルフはいろんな人たちに嫌われているらしい。そして、ルリーちゃんは人間に大切な人を殺された……
人間を恨んでも、おかしくない。いや、恨まないほうがおかしい。なのに、ルリーちゃんは自分から、人間に近寄ろうとしている。
もしかしたら、憎しみを内に秘めているのかもしれない……そんな考えが及ばないほど、ルリーちゃんはまっすぐで、良い子だ。
……しかも……
「あの子は、ラティーアさんが好きだった。でも、あの人は目の前で殺されてて……それを見て、あの子は気を失った。
でも、あそこで気を失って、あの子は良かったんだと思う」
「……?」
意味深につぶやくリーサ。あそこで気絶しておいて、よかった?
それはつまり……あの光景より、さらにむごいことが、あの場で起こったってことだろう。
……そういえば、ダークエルフを襲った二人の人間。確かエレガとジェラ、って名前だったっけ。あの二人も、"魔死事件"と同じ方法で被害者を作り出していた。
いや、逆か。あれが"魔死事件"と同じなんじゃない。"魔死事件"が、あの経験を元にルランが真似したものだ。
ってことは……その二人こそ、"魔死事件"の原点とも言える。ルラン以外にも、"魔死者"を生み出せる者が……
いやいや、無理だろう。その二人は人間だもん。ルリーちゃんの過去がどれくらい昔か正確には聞いてないけど、さすがにもう死んでるか、でなければお年寄りになってるよ。
「どうかした?」
「へ、あぁ……
……あ、そういえば私、夢に見たんだ。ルリーちゃんから聞いた話の、その先を……」
「……話の、先?」
これも、気になっていたことだ。ルリーちゃんから聞いていないはずの話が、夢の中に出てきた。あれがただの夢と判断するのは、難しい。やけにリアルだったから……
ありえないと思うだろうけど、確かなことだ。
「ルリーちゃんは気を失ったから、ルリーちゃんから聞いていない話。でも、夢に見たのは……
リーサとルラン、ジェラが対峙しているところに……小さな、女の子が現れたんじゃない? ジェラたちと同じ、黒髪黒目の」
「! ……えぇ、そうよ」
半信半疑だったリーサは、私の指摘を受けて真剣な表情になる。
これは、ルリーちゃんが知りえないはずの情報だ。わざわざ、その後リーサたちが教えるとも思えないし、ルリーちゃんが気を失っている間の出来事は、ルリーちゃん本人は知らないし、誰にも話せない。
その内容を、私が知っている。それだけで、夢の証明をするには充分で……
これが夢ではなく、本当にあった出来事だということも、証明された。
「ただ、私が見たのは、その女の子が出てきたところまでなんだけどね」
「……そう」
その先が、気にならないと言えば嘘になる。でも、リーサがこう言うってことは、絶対にいい結末には終わっていない。
それを聞き出す勇気も、リーサが話してくれる義理もない。それに、そこからの話にルリーちゃんは絡んでいない。
ルリーちゃんが絡んでいない話なら、私がわざわざ積極的に聞く必要はない。
……私は、ルリーちゃんのことならもっと知りたい。でも、彼女の過去を聞いてから、気になっていたことがある。
「ルリーちゃん、なんで私と、仲良くしてくれるんだろ」
「え?」
ルリーちゃんは人間を恨んでいても仕方がない。しかも、私はルリーちゃんの大切な人を殺した、この世界で珍しい黒髪黒目の特徴をしている。
別に、特徴が同じだからって、私がそいつらの仲間ってわけじゃない。わけじゃないけど……
見ていて、いい気分ではないはずだ。
なのに、ルリーちゃんは私に心を許してくれるし、自分の過去まで話してくれた。
初めて会ったとき、私が助けたから……とは、本人も言っていたけど。
「……エルフ族には、その人の体内に流れる魔力の流れが見える。これは、知ってるわよね」
「! うん。"魔眼"、だっけ」
リーサがつぶやく。リーサが言っていることに、私は心当たりがあった。
師匠がそういうことを言っていた気がするし、なによりエルフの魔眼を持っているナタリアちゃんから直接聞いた。
エルフ族の目は、体内の魔力の流れが見える。魔力には種族ごとに微妙に違っていて、だからナタリアちゃんはルリーちゃんがダークエルフだとすぐにわかった。
「見えた魔力はね、その人の心によって質が違うの」
「……こころ?」
「心が汚い人は、魔力は濁って見える。そして、心が綺麗な人は、とっても澄んだ魔力をしている……
ルリーちゃんが、あなたを信頼している理由は、ソレ、かな」
魔力の流れは、その人の心の様子できれいか、濁っているか変わる……それは、初めて聞いたな。
その上で、理由はソレ……と言われた。それは、つまり……
私の心がきれいだったから、ルリーちゃんは私を信頼してくれた……ってこと、なのかな。
12
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?
浅野明
ファンタジー
ある日突然天使に拉致された篠宮蓮、38歳。ラノベは好きだが、異世界を夢見るお年頃でもない。だというのに、「勇者召喚」とやらで天使(自称)に拉致られた。周りは中学生ばっかりで、おばちゃん泣いちゃうよ?
しかもチートがもらえるかどうかはガチャの結果次第らしい。しかし、なんとも幸運なことに何万年に一度の大当たり!なのにチートがない?もらえたのは「幸運のアイテム袋」というアイテム一つだけ。
これは、理不尽に異世界転生させられた女性が好き勝手に生きる物語。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる