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第四章 魔動乱編
201話 信じてもらうということ
しおりを挟む「……行っちゃったね」
「……はい」
この場からリーサが去り、残されたのは私とルリーちゃんのみ。
結界を張ったリーサがいなくなったってことは、もう人払いの効果もなくなったってことだし。休校になったとはいえ、誰か通るだろう。
まあ、人払いしてたのは、ダークエルフであるリーサが他の人に見つからないために、だけど……
「って、ルリーちゃんはなんでここに?」
そういえば、ルリーちゃんはどうしてここに来たんだろう。おかげで、リーサと再会できたわけだけど。
するとルリーちゃんは、少し頬を膨らませた。
「もう、なんで、じゃないですよ。エランさんが戻ってくるのが遅かったから、心配していたんじゃないですか」
「そ、それで迎えに……あはは、ごめんね」
あちゃー、心配させちゃってたのか。
朝一で理事長室に呼ばれた私は、理事長室まで行って……その用件は終わったけど、すぐに帰るのもなんなので中庭を散歩していた。
そうしていたら……
「……まさか、リーサちゃんと会っているなんて、思いませんでした」
私もびっくりしたよ。いきなり、リーサが現れたんだもん。
けど、会えてよかった。私としても、ルリーちゃんとしても……
きっと、リーサとしても。
「それにしても、エランさん……本当に、リーサちゃんとは初めて会ったんですか?」
「へ? ど、どうして?」
「いえ、なんだか仲良さそうに見えたので……」
私とリーサの関係を、疑われている……さっきのリーサの説明だと、私とリーサはさっき初めて会ったようになっているもんね。
実際は、以前もう一回会っているけど。それを説明すると、またややこしいことになるからな。
なんて説明しようか、考えていると……
「……そういえば、以前私、"魔死事件"の犯人がダークエルフじゃないか、って言いましたよね」
「へ? う、うん」
「その後、エランさんは言いましたよね。犯人に会った、ダークエルフだったって。
誰かは教えてくれませんでしたが」
「うん、言っ……ん?」
「それって……もしかして、リー……」
「わ、ち、違う違う!」
むむ、とあごに手を当てて考えるルリーちゃんは、独自の推理を立てて……とんでもない結論を出そうとした。
私が以前会ったことがあるダークエルフが、"魔死事件"の犯人……これらの要素から、"魔死事件"の犯人がリーサではないか、と考えたのだ。
私はそれを、焦って否定する。それは誤った推測だよと。
それはとんでもない濡れ衣だよぉ!
「そ、そうですか……
……それもそうですよね。あんなひどい事件を起こした犯人と、エランさんが親し気に話しているわけないですもん」
「あははは……そ、そうだよー」
ルリーちゃんは納得してくれたみたいだけど……私の心中は複雑だった。
ルリーちゃんにとっては、やっぱり"魔死事件"は許せない事件なんだ。人間にひどいことされても、人間に歩み寄ろうとしているルリーちゃんらしい。
思いがけず、リーサがルリーちゃんの中で犯人にされちゃうところだったけど……それはなくなった。
ただ、その『許せない事件』を起こしているのが実のお兄ちゃんだと知った時、この子は……
「許せませんよね。たくさんの人を殺して、今度はノマさんまで……!」
「あ……それなんだけど、どうにもこれまでの"魔死事件"と、ノマちゃんを襲った犯人は、別人みたいで」
「え、そうなんですか?」
きょとんとしているルリーちゃん……そうだよな。なにも知らない人からしてみれば、これまでの"魔死事件"も今回の"魔死事件"も、同じ犯人が起こしたと思うだろう。今のルリーちゃんみたいに。
なんせ、犯行の手口ってやつが同じなんだから。
私だって、リーサと話をしなかったら、ルランを完全に疑いから外せなかった。
「でも、すごいです! エランさん、そんなことまでわかっているなんて!」
どうやらルリーちゃんは、私の言葉を信じたようだ。すごいすごいと連呼されるのは、少し恥ずかしい。
ただ……
「えっと信じる、の?」
これは、リーサとの会話で確信を得たとはいえ、ルリーちゃんにとっては確証のない情報だ。
それを、疑いもせずに信じている。
「え、だってエランさんが言ったことですし」
「……」
それに対して返ってきたのは、私が言ったことだから無条件で信じる、という類いのものだった。
なんて純粋な瞳で、なんてことを言うんだこの子は……
私は、この感情をどう表現していいのかわからず、ルリーちゃんの頭を撫でる。もちろんフード越しに。
「わっ……ど、どうしたんですか?」
「いや……嬉しい。嬉しいんだけど……私の言うことだからって、無条件で信じるのは、やめたほうがいいかな。私だって、間違えることはあるんだし」
自分のことを信じてもらえるというのは、嬉しい。だけど、そこに無条件の信用がつくというのは、ちょっと危うい。
私だって、人間だから間違えることもある。それを、信じられてその結果として悪い方向に物事が進んじゃったら……
そうならないためにも、ルリーちゃんにはちゃんと、私の言葉を判断した上で、自分の中で結論を出してほしいな。
「……そろそろ、戻ろっか」
「はい! ナタリアさんも、心配していますよ!」
いつまでも立ち話しているのも疲れちゃうし。ルリーちゃんが心配してくれたってことは、ナタリアちゃんも待ってくれているかもしれない。
誰もいない中庭、周囲をざっと見てから……私は、ルリーちゃんと共に女子寮へと、戻っていった。
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