史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

230話 その髪と目の色

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 魔力の感知できないルランは、無抵抗となったレジーへの追撃をやめない。
 視界が封じられ、魔力も感じられないとなれば、次はどこから攻撃が来るのかまるで読めない。だから、抵抗もできなくなってしまう。

 視界を封じる魔術と、魔力を感じさせなくするダークエルフの能力……これは、強力な組み合わせだ。
 このままであれば、ルランの圧倒で終わる。そのはずだ。

 けれど……なんだろう、この言いようのないモヤモヤ感は。

「とどめだ!」

 そう考えている間にも、ルランは剣を構える。今まで殴る蹴るばかりだったものが、鋭利な武器へと変わり……その言葉通り、それでとどめをさすつもりだというのが、わかった。
 ただでさえ、剣。しかもその剣は、触れたものの魔力を吸い上げるものだ。それをその身に受ければ、ひとたまりもないだろう。

 ルランは躊躇することなく、切っ先をレジーへと向けて……彼女の腹部へと、突き刺した。
 その光景に、私はたまらず目をそらしてしまう。

「っ、かはっ……」

「どうだ、これで……」

 あれだけ攻撃をかわしていたレジーも、これだけのことをされてはもう動く余力もないだろう。
 口から、刺した腹から、ぽたぽたと赤い血が流れて……

「……きひひっ、つーかまえた」

 レジーの腹に刺さっていた刀身が、掴まれた。他ならないレジーの手によって。

「なっ……」

「これなら、逃げられないよねぇ?」

 ……それは、寒気がするくらいに恐ろしい光景だった。
 目は見えない、魔力も感じられない。相手の位置を探る手段はない……ならば、相手を捕まえてしまえばいい。その確実な方法として……レジー、自分の体を刺したルランを、捕まえた。

 刺されたという感触が残っているなら、刺された箇所には相手が居るってことだ。その先に手を伸ばせば、相手を捕まえることができる……
 でも、そんな方法……自分の身を、犠牲にするような方法……

「いかれてる……」

「そうかなぁ? ま、アンタが私を殺すつもりでぶっ刺して来たらわかんなかったけど……
 アンタ言ったろ? すぐに殺しはしない、みんなと同じ痛みを与えて殺すってさ」

「!」

 殴られただけじゃ、相手の位置は正確にはわからない。けれど、剣に刺されれば確実に、相手がその先に居るとわかる。それでも、相手が本気で殺す気であれば、結果はわからなかった。
 だけどレジーは、ルランを信用した……お前をすぐには殺さないという、ルランの言葉を。

 敵の言葉を信用して、死ぬかもしれない一撃を受ける……それしか方法がないにしたって、そんなの……!

「ルラっ……」

「っ、だが、お前の魔力はいただくぞ……!」

 刀身を掴まれ、ルランは動けない。だけど、刀身に触れている以上、レジーの魔力は吸い取られているはずだ。
 そうである以上、いずれはレジーの魔力は尽きる。体力だって。これは、ただの時間稼ぎ……

「そうか……なら、試してみろや」

「っ!?」

 その瞬間、膨大な魔力がレジーからあふれる。意識的に、魔力を解放しているんだ。
 こんなに、魔力を秘めていたのか……いや、でもたとえどれだけ魔力があっても、あの剣の前じゃあ……

 だけど、ルランの表情は固い。なぜ……その疑問は、すぐに答えが出ることになった。
 ピシっ、と……音がした。さっき聞いた、なにかにひびが入ったような音。そしてそのなにかは、考えるまでもなく……

 ルランの、剣だ。

「ま、さか……」

「ほらほら、全部吸い取ってみろぉ!」

 困惑するルラン、その間も魔力の放出は止まることはなく……ついに、パキンっ、と音を立てて、砕けた。
 ビームみたいな刀身だったけど、砕けたその音は普通の剣と、同じだった。

「剣が……砕けた……!?」

「そういう、魔力を吸い取る類いの魔導具は、許容量以上の魔力を注ぎ込めば壊れるってのが、定石なのさ」

 刀身が砕けたことで、レジーの身も自由に。驚いているルランは、お腹に蹴りを入れられてしまい、強制的に距離を取らされる。
 まさか、あんな強引な方法でピンチを脱するなんて……

 ……確かに、魔力を吸収、測定するようなものは、それが許容できる魔力を超えると壊れてしまう。それは、ゴルさんとの決闘で使ったピア先輩の作った魔導具『魔力剣マナブレード』、組分けのときに使われた魔導具水晶。
 思い返せば、どちらも私は似たような魔導具を壊しているから、よくわかる。まあ、後者はヨルもだけど。

 まあ、そんなわけで。ルランの使っていた剣も、同じ方法で壊されてしまったということだ。

「だからって、アレを破壊するような、バカみたいな魔力を持つ者がいるなんて……!」

 ルランも、それは予想外だったんだろう。ただ、バカみたいな魔力って……なんだか自分のことを言われているみたいで、複雑だなぁ。
 でも、だ。魔力を吸い取る剣は壊されたけど、レジーに深手を与えたことに違いはない。

 そう思って、レジーの方を見てみると……

「傷が……ない……?」

 お腹を、刺されたはずだ。なのに、傷が見当たらない。服に血はにじんでいるけど、その奥に傷と思わしきものが見当たらない。
 私の見間違いか? それとも、傷はあるのに"傷がなくなった"ように認識されているだけ? いやでも、そうする理由なんてないし……

 ルランも、やっぱり驚いている。本当に傷がなくなっているのか。
 回復魔術で、気づかれないうちに超早く治したとかかな?

「なに驚いてるんだよ、アンタならわかるだろ」

「……?」

「アンタだよアンタ、エラン・フィールド」

「! え、私?」

 急に、話しを振られて、混乱してしまう。いや、わかるだろって、なにがだよ。わかんないよ。
 レジーは服を捲り、お腹を見せる。やっぱり、傷はない。

「そうさ。あ、それともすかしたふりでもしてんのかね」

「……なにを、言ってるの?」

「アンタも似た量の魔力は持ってんだろ。それだけの魔力量があれば、自然治癒くらいわけはない。
 その髪と目の色が、それを証明してる」

 レジーがなにを言っているのか、わからない。思い返せば、わからないことだらけだ。
 私と戦う気はないって言ったり、エレガたちの仲間じゃないのかと言ってみたり……私を知っているような、知らないような言い方だ。

 この人は……なにを、知っているの? 私は、この人に見覚えはない。向こうが、私を一方的に知っているのか……私の、記憶がない期間に会ったことがある人?

 それとも……この髪と、目に……なにか、あるの……?
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