史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

271話 真っ白な獣

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「ぇ……」

「ヒーダァ!!」

 なにが起こったのか、一瞬わからなかった。ただ、目の前で起こった出来事に無意識に声が漏れて、それから切羽詰まった別の声が響いた。
 視線を動かせば、ヒーダさんの背後から角のようなものが伸びて、背中を突き刺し……さらには腹まで貫通して、腹から角の先が突き出ている。

 その角は白く……けれど、ヒーダさんの血で、赤く染まっていく。

「この……!」

「!」

 その光景に体が固まってしまっていたが、すぐに動いたのはガルデさんにケルさん。二人は、腰に差していた剣を抜き、角へと振り下ろす。
 剣が打ち付けられ、ガキンッ、と音が響いた。

「っ、かた……!」

 思わぬ衝撃に跳ね返され、二人の表情が歪む。
 二人の斬撃でも断ち切れない……傷一つつかないなんて、どんな材質だ!?

 なんて、ただ見ているわけにもいかない!

「二人とも離れて!」

 二人の動きを見たおかげで、ようやく私の体も動くようになった。いくらびっくりしたとはいえ、情けない!
 魔法を撃ち込む……それはダメだ、ヒーダさんに当たる可能性がある。狙いをミスするようなヘマはしないとはいえ……

 ここは、確実に斬り落とす!

「せやぁ!」

 魔力を杖に込め、魔力強化。魔導の杖を剣のように硬くして、角へと振り下ろす。
 剣と違うのは、魔力を込めれば込めただけ強度が増す点。それに、杖であることに変わりはないから、片手で振り回せる点だ。

 それを、さっきガルデさんが剣を打ち込んだのと同じ場所に、打ち込む。
 ギィンッ……という音が響くけど、前もって二人が弾かれたのを見ていたおかげで、弾かれないために力を込め続ける。

「ぐっ、くぅ……!」

 でも、力を込め続けているのに、杖は先へは進まない。硬い角を斬ることはできず、火花を散らしてそこで止まってしまっている。
 これ、ホントどんな材質で……いや、考えるのは後だ。早くしないとヒーダさんが……!

 もっと、もっと魔力を込める。そのためには……!

「ぬぬぬ……」

 指にハメた魔導具"賢者の石"。それに、ありったけの力を込める……いや、念じる。魔力を、もっと高めてくれと。これは、自前の魔力を増大させてくれる魔導具なのだから。
 その気持ちが通じたのかはわからないけど、魔力は爆発的に増大し、杖に込めた魔力は凄まじいものになる。

 歯を食いしばり、腕にも身体強化の魔力を流す。自分でも、今までに出したことのないくらいの力を出して……


 ボギッ……


 ついに、角が折れた。

「おぉ!」

「やったぞ!」

 角が折れたことで、ヒーダさんの体はよろめき……倒れる寸前で、ガルデさんが支えた。よかった、あのまま前か後ろに倒れたら、刺さったままの角が深く突き刺さるところだった。
 私は、ヒーダさんの容態をチラッと確認。息はある、大丈夫だ死んではいない。

 でも安心はできない。まだヒーダさんの体に角は刺さっているし、折った先に角を刺した本体がいる。
 素早く、角の本体がいる方向へ、杖を向ける。

「! なに、こいつ……」

「シャァアアア……!」

 その先にいたのは、四足歩行……いや、八足歩行の白い獣。足が八本あり、首が二つ……そして、顔も二つある。全身が白い獣だ。
 その両方の額から、とても長い角が伸びている。片方はヒーダさんを刺したもので、私が折ったため途中で砕けている。

 なんだこの生き物……こんなの、見たことがない。大きさは、さっきの魔物と変わらないのに……この圧迫感は、なんだろう。

「な、なんだこいつは……!」

「ケル、落ち着け!」

 おびえたように、ケルさんは剣を向けている……冒険者でも、見たことがないってことか。
 モンスターじゃ、ないよな確実に。魔力を感じるから、魔物か、それとも……

「ぅ……げほ!」

「! ヒーダ!」

 まずい……早く、ヒーダさんに回復魔術をかけたいのに。この獣から、目を離せない。
 精霊さんにお願いすれば、たとえ私が近くに居なくても、魔術をかけてもらうことは可能だ。だけど……この獣の存在を認識してから、精霊さんがざわついている。

 こんなこと、今まで一度もなかった。魔獣を、前にした時だって……


『精霊の力が弱まる場所では、魔力を借りられない場合もある』


 ふと、師匠の言葉を思い出した。精霊さんには、精霊さんの力が弱まる場所があるという話だ。そしてそれは、場所だけ……というわけではない。
 信じられないことだけど、この獣は、精霊さんの動きを抑制するような力を持っている。そうとしか考えられない。

 精霊さんは基本的に、誰にでも近づいてくれる平等な存在だ。だけど、ダークエルフには近づかない。精霊さんにも、近づきたくない存在というのがいる。
 こいつがそれか……

「ガルデさん、ケルさん。私がなんとか隙を作るんで、その間にヒーダさん連れてなんとか逃げて」

「! な、なにを言っている! エランちゃん一人にそんなこと……」

「時間がないの」

 ここで、獣と睨み合う状態になるのは悪手だ。少なくとも、三人ここに留まるはめになるのは。
 なら、私が囮になって、その隙に逃げてもらう。それが、一番いい方法のはずだ。

 ヒーダさんは、角に貫かれて深手を負った……ただ、今は角が刺さったままだから出血もそれほどじゃない。
 それも、危なくないとはいえない。あんな深手を負ったんだ、体は弱っている。早く、治療しないと。

「なら、俺たちが! ケルをこんな目に遭わせたんだ、ただじゃおかない……」

「二人の攻撃で、あの獣に傷はつけられないよ」

「っ……」

 少し生意気な言い方だけど、二人を納得させるために仕方ない。現に、二人の剣は獣の角に傷一つつけられなかった。
 もちろん、角と体の硬さが同じだとは思わないけど……

「早く! ヒーダさんが死んじゃう!」

「くっ……すまん!」

「エランちゃん、すぐに戻るから!」

 背後で、二人が苦渋の様子で走り去っていく音が聞こえる。よかった、これでなんとかなるはず。
 その間、獣は動かない。唸り声が聞こえなければ、死んでるんじゃないかと思うくらいだ。

 やっぱり、こっちから仕掛けるか……魔術が使えなくても、"賢者の石"さえあれば……

「……ぇ……」

 私は、獣から一瞬たりとも意識を外していなかった。そのはずなのに……獣の姿が、消えた。
 どこに……と、考えるまでもない。背後から、獣の声が聞こえた。今の一瞬で、私の背後まで移動したのだ。足音も、気配も、一切を感じさせず。

 反射的に、背後に振り返る私の目に……獣の姿が、映った。グルルルと唸り、私を見て……お互いの、目があった。白色の体、しかし瞳だけは唯一赤色で……
 その口に、なにかを咥えていた……それは、細長いもので、肌色で、手があって、指先には杖が握られていて……

 ……私の右腕が、咥えられていた。
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