史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

272話 我慢我慢我慢我慢我慢

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「……!?」

 振り向いた先に、獣と目があった。その口には、腕らしきものが咥えられている。
 よくできたものだな……それに、手らしきところには、魔導の杖のようなものを持っていて。この場で杖を持っているのは私だけだけど、まさかそれが私の腕なわけ……

 ……どれだけ考えても、現実は変わらない。私の右腕が食いちぎられ、獣の口に咥えられている。それが、今起こった現象だ。

「っぃ……っ!」

 それを理解した瞬間、肩から先がなくなってしまった右半身を理解した瞬間……強烈な痛みが、身体中を駆け巡る。
 当然だ……体の一部を、欠損した。そんな経験、これまでにあるはずもない。

 痛い、痛い痛い! 声を上げて叫んでしまいたい。痛みにもがき、バタバタと暴れてしまいたい。
 でも、それはダメだ。そんなことをしたら、今走っていってるガルデさんたちに気づかれる! せっかく先に行かせたのに、戻ってきてしまっては意味がない!

 だから、我慢だ! 我慢、我慢、我慢! 我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢!!!

「つっ……ぅう……!」

 歯を食いしばり、痛みを噛み殺して……視界がじわじわと霞むのを我慢して、なんとか魔力を集中して、切断部へと意識を流す。
 魔法でも魔術でも、なくなった腕を生やす、なんてことはできない。せいぜいが痛み止めくらいだ。

 けれど、腕をくっつけることならば、できるかもしれない。そのために、腕を取り返さないと……

「っ、腕、返せ……!」

 傷口は止血し、痛みが止まる。でも、意識がふらつく……なくなった血までは、回復しない。
 それでも、このまま倒れてしまうわけにはいかない。

 魔導の杖も、千切られた手に握られている。だから魔法が使えない……なんてことはないけれど。
 魔導の杖は、魔導の制御を行うためのもの。制御を考えなければ、魔導は使える!

 制御できなくても、やるしかないか……それとも、腕が巻き込まれてしまう危険性から魔法は使わないほうがいいのか……

「なんて、考えるまでもない……!」

 原型さえ留めていれば、傷ついても回復魔術で治せる。腕を治せれば、問題なくくっつけられるはずだ。
 今問題とするべきは、私のことじゃない。このままじゃ獣に標的にされてしまう、ガルデさんたちを逃がすこと!

 そのためなら、少しくらい我慢できる!

「せやぁあ!」

 イメージするのは火の玉。いつもは、魔力を魔導の杖の先にイメージする形だ。だけど今回は、違う。
 イメージする先は手のひら。手のひらに、火の玉を浮かべる……!

 メラメラと燃え盛る火の玉が生まれる。けれど、これはいつもの感覚とは違う……いつもより、大きい。魔力を制御できない分、威力もなかなか安定しない。
 それでも、魔導の杖がないときのために、師匠と多少なりとも訓練してきたんだ!

「当た、れぇ!」

 ボールを投げる要領で、火の玉をぶん投げる。投げられた火の玉は、寸分違わず……とはいかず、フラフラと揺れ動きながら獣へと向かっていく。
 力の制御、それに動きの制御……それを杖により安定させていた。安定させるための杖がなくなり、それでもなんとか安定させようと力を込める。

 いつもより威力の高い魔法は、ブレブレの状態ながらも獣へと、衝突した。

「! 逃げなかった?」

 獣に、火の玉が当たる……それは喜ばしいことだけど、獣は避ける素振りも見せなかった。
 人じゃなくても。モンスターでも魔物でも魔獣でも……生物なら、火を怖がって当たり前だ。それが、生物の本能だ。なのに。

 あの獣は、火を避けることも、怖がることもしなかった。仮に、自分には通用しない威力だとわかっていたとしても。なんの動きもないのは妙だ。
 私の腕を奪うような、あんな機敏な動きを見せておいて……

「シュラララララ……!」

「!」

 爆炎の中から、唸り声が聞こえる。それは、仕留めたとは思ってないけど相応のダメージを与えたと思う獣のもの。
 その目は、煙の中にあっても赤く光っているのがよく見えて……

「……あれ?」

 メラメラと周囲を燃やしていた炎が、消えていく……いや、吸い込まれていく。どこに? 獣の体にだ。
 まるで吸い寄せられるように、炎が獣の体へと集まり……まるで、炎を吸い込むような光景だ。

 そして……獣の、真っ白だった体は。赤く色を変えていく。
 体毛も、足も、顔も、爪の先まで……すべてが、真っ赤になっていく。

「どう、なってんのあれ」

 意味がわからない。目の前で起こったことを説明するなら、私が撃った炎は吸い込まれ、獣の体が赤色に……炎の色に、変色したということ。
 攻撃を受けて、その魔法の属性の色に体が変色した? なんだよそれ、わけわかんない。

 そんな私の動揺をよそに……獣は私の腕を投げ捨て、大きく口を開いて口の中にエネルギーを溜める。あの畜生め……!

「ガァ、アァアアア!」

 そして、炎が放たれる……さっき私が撃ったのと、まるっきりおんなじ威力の。

「くっ……どう、なってんの!」

 まるっきりおんなじということは、威力も制御できていない手加減抜きの一撃ってこと。私はとっさに魔力防壁を張り、それを防ぐ。
 攻撃は魔導の杖がないと力も狙いも制御できないけど、防御だけなら問題ない!

 放たれた炎を防ぎきり、私は魔力強化を全身にかける。さらに、"賢者の石"の力で魔力を底上げして……

「あぁあ!?」

 そこで、重大な事実に気づく……今、私の指には、"賢者の石"はハマっていない。
 正確に言うなら、私の左手には……だ。今日は、"賢者の石"、というか石のついてる指輪は、右手につけてるんだった!

 その右手は……あの獣に、ペロペロと舐められてしまっている。
 あの畜生め……!
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