史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

310話 ゴルドーラとヨル

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 サラマンドラの巨体を蹴り飛ばしたのは、ヨル。その表情には、どこか余裕のようなものを感じさせる。
 サラマンドラほどの巨体が倒れれば、それだけで被害は甚大だ。倒れた風圧に、参加者たちは吹き飛ばされていく。

 それに伴い、司会の熱も上がっていく……が、あいにくとゴルドーラに、そちらを気にする余裕はない。

「いやあ、これだけ人数が居たら、どこに会長さんがいるんだろって思ってたけど。
 あんな大きい使い魔がいたら、すぐにわかったよ」

「俺を捜していた、と?」

「いんや、単純に戦ってみたくてさ。
 せっかくのこの力、全力で試すところがなくてうずうずしてたんだよね」

 話の間も、ゴルドーラはヨルの魔力を探ることを忘れない。
 やはり、身体強化の魔法を使っている。それも、全身にだ。

 身体強化の魔法は、魔法の基礎且つシンプルゆえに極める者は少ない。
 一部分を強化できる者は魔導を使える者なら当たり前にいるが、それを全身ともなるとその数は激減する。

 もっとも、一流の魔導士は、それも怠らないようだが。

「お前は、それなりに魔導を極めているようだな」

「え? あはぁ、まあねー。けどさ、この力確かにすんげー魔力だし転生特典ってのも納得する部分はあったんだよ。
 けど、いざ魔導学園に入ったらさ、俺に匹敵する魔力の持ち主がいるじゃん。エランも黒髪黒目だし、もしかして俺と同じ境遇なのかと思ったけど、なんか違うみたいだしさー。
 わーチートだーって喜んでたのにさ。エランもテンセイシャとかなら、まあ納得は出来たんだけど。あっさりと現地人に負けるのって悔しいじゃん」

「……?」

 口早に、ヨルがなにか話し始めたが……その内容が、ゴルドーラには理解できない。
 以前、エランからヨル……というか自分に変な迫り方をしてきた不審人物の話を聞いたが。
 これはなるほど、彼女の言う通りかもしれない。言っていることが、ちっとも理解できない。

 ただ、戯言を言っているにしては、どこか真に迫っている感じもする。

「で……結局お前は、どうしたいと?」

 まだなにかしゃべっているヨルに、問いかける……すると、ヨルの口が閉じ……
 ゴルドーラを見て、にやりと笑った。

「この大会で、エランとヤりたいってこと」

「ゴォオオオオオ!」

 ……蹴り倒されていたサラマンドラが、ヨルの背後から襲い掛かる。
 右足を振り上げている。それに踏み潰されれば、ぺしゃんこになってしまうことだろう。

 だが、ヨルは避ける素振りも見せず……


 ドォン……!


 まるで伸びでもするように、右手を空へと上げて……振り下ろされたサラマンドラの右足を、受け止めた。

「なに……!」

 その様子に、ゴルドーラが目を見開いた。
 避けたというならわかる。先ほどの身軽さなら、それも難しくはないだろう。

 だが、受け止めた……あの巨体から繰り出された右足を、あんな涼し気な表情で。
 それだけではない。

「よっ、と」

「ゴッ……」

 右足を受け止めたまま、ヨルはそれを掴みなおし……サラマンドラの巨体を、ぶん投げた。
 これまでにも、サラマンドラに対してなんらかの対応をしてきた者はいた。ある者はサラマンドラに返り討ちにされ、ある者はサラマンドラを倒すこともあった。

 だが……サラマンドラをぶん投げる。それをしたのは、ヨルが初めてだ。

「あは、そんな顔もできるんだね、会長さん」

「ちっ……
 ……邪魔だ!」

「ぐぇあ!?」

 サラマンドラが投げ飛ばされ、またも周囲には被害が生まれる……
 その隙をついて、ゴルドーラの背後から音もなく忍び寄った別の参加者が、あっさりとゴルドーラに背負い投げされてしまった。

 その様子に、ヨルは「ひゅう♪」と口笛を鳴らす。

「さっすが会長さん、魔導使わなくても、それくらいおちゃのこさいさいってわけだ」

「おちゃ……?」

 パチパチ、と手を叩くヨルは、バカにしているのかそれとも本当に感心しているのか。
 いずれにせよ、これ以上サラマンドラをぶつけても、意味がなさそうだ。

「お、やっと俺のことちゃんと見てくれた」

「……お前は言ったな。エランのことを、俺に匹敵する魔力の持ち主がいる、と。
 よもや、エラン以外は眼中にないと言うのではないだろうな」

「エラン以外眼中にないのは、どっちのことだろうね」

 ヨルも、杖を抜く。
 エランから聞くヨルの奇行はともかく、彼の魔力評判……そして、今しがた見た身体能力を見れば、決して油断していい相手ではない。

 いや、そうではない。ゴルドーラにとって、勝負ごとに関しての油断はありえない。エランとの決闘も、そうだった。
 そうだからこそ、あの決闘の決着が、自分の未熟さを認識することとなった。

「けどまあ、エランと渡り合ってたあんたにも、興味はあったんだよね!」

 瞬間、ヨルの魔力が大きな昂ぶりを見せる。
 ゴルドーラに、相手の魔力の流れを見る力はない……が、魔力を感じ取る力はある。

 これまでに、大きな魔力を持つ者とは何度も対面してきた。それこそ、魔導学園にはそのような人物はたくさんいる。
 エランも、その一人……いや、彼女はまた、飛び抜けてはいるが……

 ヨルのそれは、これまでに感じたものとはまた違った感覚があった。

「そりゃ!」

 魔法には、イメージする力が必要……ゆえに基本的には、詠唱も名も必要はない。
 ヨルが想像したのは光の玉。それは、ヨルにとっては無数のホタルをイメージした形だ。

「……」

 ヨルの周囲に浮かび上がる光の玉が、次々にゴルドーラへと放たれる。
 ゴルドーラはそれを避ける素振りもなく、棒立ちのまま杖を構えている。

 光の玉は、一直線にゴルドーラへと……

「あり?」

 しかし、光の玉はゴルドーラへは届かない。彼に届く前に、なにかに弾かれたように打ち消えたのだ。
 それは、ゴルドーラのイメージした壁。透明な壁をイメージし、自身の前に展開した。

 とはいえ、ヨルの魔力の威力ならば、ゴルドーラの盾とはいえそう長くは耐えられないだろう。
 時間稼ぎだろうか、なにを考えて……

「……まさか……」

「狂焔《きょうえん》乱舞に舞い焦がせ……!」

 先ほどから、ゴルドーラはしゃべらない……いや、口元は動いている。なにかを、しゃべっているのだ。
 いったいなにを……その答えに思い至ったとき、すでに遅かった。

 自身を魔法で守りつつ、魔術の詠唱を行っていたのだ。

「ま、じか……」

 魔法と同時に魔術詠唱など、普通ではない。
 かつてエランは、浮遊魔法と魔術詠唱を同時に使用した。が、あれは例外……エランほどの魔力と、そして集中力があって、初めてできることだ。
 そもそも、浮遊魔法自体が魔法の中でも難しいのだから、それと魔術詠唱を並行するのがおかしいのだが。

 ゴルドーラも、確かに相応の魔力を秘めている。
 しかし、ヨルの攻撃を受け切る盾を展開した上で、魔術詠唱ができるなどと、思っていなかった。

 はじめからできたのか。それとも、エランとの決闘を経て努力を重ねたのか……

狂炎太陽黒ベルセルクコア!!!」

 いずれにせよ……ゴルドーラの放つ、魔術が放たれたことに、変わりはなかった。
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