史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

323話 分身体でシッチャカメッチャカ

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「あはははは!」

「な、なんだあのガキ……ぶぇあ!」

 会場は、これまでにないほどの盛り上がりを見せていた。これを、単なる盛り上がりと言っていいのか疑問だが。
 暴れ回っているのは、一人……そして、十人。一人で十人の、同一人物。

 分身魔法で、己の姿を増やしたエラン・フィールドが、暴れ回っている。笑いながら。
 彼女は魔導の腕もさることながら、身体能力だって悪くない。身体能力を鍛えてこその魔導士、師匠の教えだからだ。

 ゆえに、その身体能力は並の冒険者をも凌駕する。
 なにせ、師匠の下に拾われてから十年。ひたすらに訓練を重ねてきたのだから。それも、Sランク冒険者だという師匠と。

「へぇー、やっぱり面白いねぇエランちゃんは」

「……めちゃくちゃだな相変わらず」

 十人のエランが暴れ回る姿に、タメリア・アルガとイザリ・ダルマスは感心と呆れを混じった声を漏らす。

 同じ生徒会かつそれ以前からの友人で、これまで負けたところなど見たことがない……ゴルドーラと渡り合ったのをこの目で見たタメリア。
 平民と侮っていたことを除いても、圧倒的な力の差を見せつけられ、これまで敗北を知らなかった己に敗北を突きつけられた……イザリ。

 互いに、エランに対しての認識は当時とは違う。自分と同等……自分より格上として、エランの動きをしっかりと見ていた。

 ただ、エランと初めて対峙する者、その姿を初めて見る者にとっては、笑いながら選手たちを殴り倒していく少女の姿はただただ恐怖でしかなかった。

「と、盗賊を三人もボコボコにしたって話は、本当だったん……げは!」

「く、来るな! 来るんじゃ……ぁが!」

 選手たちは魔法で対抗するが、それはエランには当たらない。身体強化の魔法をかけているからだ。
 エラン自身の魔力は激減しているため、身体強化の魔法を使ってもそれほど動きが上昇するわけではない。

 しかし、身体強化の魔法はあくまで、元々の身体能力を上昇させる魔法。身体を鍛えているエランならば、少々の身体強化であっても、並の魔法では捉えられない。

「ちぃ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 一人の魔導士が、一人のエランの前に出る。杖を構え、魔力を高めている。
 走りながらなにかをつぶやき……いや、詠唱しているそれは魔法ではなく、魔術だ。

「……、ぶっ潰せ!
 石重落下ロックロック!!!」

 杖を振り上げ、そして振り下ろす。空中に出現した大岩が、勢いをつけて落下してきた。
 それは微弱な身体強化魔法では避けられないほどに巨大で、また今のエランの魔力では防げないだろう。

 巨石は、エラン目掛けて地面へと激突、強烈な衝撃波を呼んだ。

「わー!」

「ぐぁっ……にゃろ!」

「うぉおおお!?」

 分身体は消え去る……しかし、被害はエラン分身一人を消し去るだけには留まらない。
 周囲にいた選手たちも巻き込む。ある者は巨石に潰され、ある者は衝撃波に吹き飛ばされ。

 ぜぇぜぇと肩で息をする男は、その光景に笑みを浮かべた。

「はっはぁ、どうだ! 俺の魔術の威力は……」

「えいや!」

「はふんっ」

 しかしその直後、男の首筋にビリリと電気のようなものが走り……間の抜けた声を漏らし、気絶した。
 男を気絶させたのは、背後から音もなく近づいていたエランだった。

「確かにすんごい威力だったけど、注意力が削れてたよ。私がいっぱいいることや、周囲にも気をつけないと」

 魔術の威力は強大だが、乱戦の場合隙が大きい。詠唱中の隙や、放ったあとも精神力が揺らぐからだ。

 ふぅ、と息を漏らし、エランは周囲を見る。
 さすがに、魔導大会と銘打つだけあって、実力者ばかりだ。最初こそエラン分身大暴れに翻弄されていた選手たちだったが、今では慣れたのか対処できている。

 ゴルドーラとの決闘では、ゴーレムを相手にしていたし、こうした多人数相手に分身を使うのは初めての経験だった。
 いくら身体を鍛えているとはいっても、それだけで切り抜けられるほど甘くはない。エランは、本体含め残り三人にまで減らされていた。

「さあて……おっと」

「気づいたか」

 分身たちに暴れ回ってもらっているうちに、もう一つかき回すとするか……と考えていたところ、エランは自分を見ている目があることに気づく。
 そちらを向くと、そこには剣を構える、一人の少年の姿があった。

「ダルマス」

「やりたい放題だな。ま、その方が数が減ってこちらとしても願ったりだが」

「……私、分身かもよ?」

「いや、お前は本体だ」

 剣を構えるイザリは、目の前のエランが本体だと確信を持っている。
 分身魔法は、本体と分身に大きな違いはない。あるとすれば、大きなダメージを受ければ分身体は消えてしまうこと、くらいだろうか。

 本体と分身とで視界も共有しているし、人によっては見分けなどつかないものだが。

「で、もちろんやるよね?」

 エランもまた、杖を構える。
 イザリがエランの下に来たと言うことは、そういうことだろう。

 しかし、イザリは首を振る。

「今のお前は、分身魔法で本来の力は減っている。そんなお前とやり合うつもりはない」

「あら紳士だね。なら、なんで私のとこに?」

「俺がやる前に、別の誰かにやられでもしたらつまらないからな」

「言うじゃん」

 お互いに、笑みを浮かべて話す。二人の間だけ、まるでなにもなく、誰もいないかのよう。
 ……そして、それは突然訪れた。

 エランの生み出した、分身体。それが全て、消え去ったのだ。
 それを合図にするように……エランとイザリは互いにその場から飛び出し、杖と剣とを激突させた。
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