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第五章 魔導大会編
338話 狙い狙われて
しおりを挟む「ギャウ!」
地に落ちた……いや落とされた黒き使い魔は、その衝撃に声を漏らす。
それを確認し、ラッヘは使い魔を始末しようと、即座飛びかかり……
「むん!」
「!」
振り下ろした拳は、ガンッ、と激しい音を立てて、止められる。
ラッへの拳を受け止めるのは、アルマドロン・ファニギース。腕に装着した鎧で、拳を受けている。
それも、ただの鎧ではない。ただの鎧ならば、今の一撃でおしゃかになっている。
だが、鎧は砕けるどころか、へこんでもいない。
「魔導具か……小癪な」
「そのような拳で殴られては、ウォーリーもただでは済まないからね」
にやりと笑い、アルマドロン・ファニギースはラッへを弾き飛ばす。
同時に自ら距離を取り、ラッへは着地。スッと鋭い瞳で睨みつけるが、その目が次の瞬間には見開かれた。
アルマドロン・ファニギースの背後から、エランから飛びかかっていたから。
「う、りゃあ!」
「ふん!」
振り抜いたエランの拳が、アルマドロン・ファニギースの背中に直撃する。
その衝撃で、服が弾け飛び、上半身が裸に。がたいのいいその体には、無数の傷が刻まれている。
銃弾、刀傷、魔導によるもの……それらが、形ある傷となって、彼の体に刻まれていた。
「んん、いい拳だ。だが……またまだ!」
「!」
上半身を回転させ、裏拳を放つ。迫る拳に、エランは自ら飛び退いた。
地面に、着地するその瞬間……足に、なにかが絡みつく。
「っ、なんだこれ……!」
危うくバランスを崩し、倒れそうになってしまうのを、なんとか回避。踏みとどまるが、足首を絡め取る黒いものに目を向ける。
それは、アルマドロン・ファニギースの使い魔のもの。黒く伸ばした触手のようなものが、エランを捉えている。
「ウォーリーの力の一旦さ。
キミも、彼……いや、彼女か? 戦いを邪魔されたくなかったと?」
ラッへに続いて、エランまでもアルマドロン・ファニギースに襲いかかった。
それほどまでに二人とも、互いの邪魔をされたくなかったのか。そう、問うた。
しかし、エランは首を振る。
「こんな強い人たちがいるのに、ラッへとしか戦わないのは、もったいないでしょ」
「……なるほど」
噂に違わぬ狂犬ぶりだ……と、アルマドロン・ファニギースはうっすらと笑う。
同じだ……自分と。自分も、強者との戦いを望み、そして高みを目指した。魔導士として……
彼女も、きっととんでもない力を持っている。それを直感した。
現に、Dブロックでは見たこともない、髪の色が変色し楽しそうに戦う姿が、映し出されていた。
「んーっ、はーっはっはっはっー!」
「!」
そこへ、なんとも陽気な声が響き渡る。
視線を向ければそこには、一人の男が走ってきている。ブルドーラ・アレクシャンが、怒涛の勢いで走ってくるのだ。
魔導をも弾く肉体、それをあの勢いでぶつけられては、ひとたまりもない。
アルマドロン・ファニギースは、さっとその場から移動した。
「えぇっ、ちょっ、待ってよ! せめてこれ外してから……」
「はぁーっ、はっはっはっ、はぁー!」
使い魔に捕まり、エランはその場から身動きを取ることができない。
足首を縛っている触手のようなものを破壊しようにも、なぜか魔導が発動しないのだ。
「言い忘れていたが、ウォーリーに触れると、触れられた者はその間、魔力を起こすことはできない」
「なんですと!?」
今更ながら告げられる衝撃の事実。使い魔ウォーリーに触れられていると、魔力が使えない。
つまり、魔法が使えないということだ。自分ではない、大気の魔力を使う魔術ならば別だろうが。
詠唱を唱える時間など、残されていない。
「我が肉体の前に散れ、エラン・フィールドォー! ケェーッヘヘヘヘ!」
「狙いは私かー!」
アルマドロン・ファニギースの使い魔ウォーリーがエランの動きを封じ、その間にブルドーラ・アレクシャンが突撃する。
もしや、はじめから二人は組んでいたのだろうか。
……いや、アルマドロン・ファニギースは会ったばかりだからわからないが、少なくともブルドーラ・アレクシャンが誰かと組むことは考えにくい。
彼とも会ったばかりだが、Cブロックの試合を見て、どんな人物かはおおかたわかっている。
これはきっと、偶然。偶然、二人の思惑が、エランを狙った結果として表れただけの……
「……むっ?」
数秒後に、エランの体が、無惨にも吹っ飛んでいく……その未来は、しかし訪れなかった。
ブルドーラ・アレクシャンが、急に動きを止めたからだ。
「……そいつは、私の獲物」
「ケヘヘ……!」
固き肉体を、ラッへが片手で止めていた。
それを確認して、エランは地面に着地……する前に、空中に足場を作り、それを蹴ってから少し離れたところに着地する。
着地する瞬間を狙ったのだろうが、空中で移動すれば、タイミングはずらせる。
「ちっ……」
「よほど、そっちの黒髪少女にお熱のようだ……だったらぁ!」
「!」
巨体を止めていたラッへが、振るわれた腕により弾き飛ばされる。
体の自由が効くようになったブルドーラ・アレクシャンは、エランへと狙いを定めて突撃するを
「お熱の少女を私が倒せば! どのような顔を見せてくれるかなぁ!」
「来た!」
ラッへがエランに執着するのなら、その執着の元を断てばラッへはどんな顔をするのか……それを想像し、ブルドーラ・アレクシャンはエランに突撃した。
迫る巨体に、エランは魔力弾を撃ち込む。
しかし、撃ち込んだ五発とも、その肉体にはまったく通用しない。面白いように、弾かれていく。
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