史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

346話 死した先になにがある

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「おいおい、死んだやつにいつまで回復魔術をかけてるつもりだ」

「……」

「聞いてんだろ、選択肢与えてやってんだから、さっさと選べや」

「……」

「……ちっ」

 先ほどから、なにを呼びかけても、少女……エランの反応はない。
 うつむき、一心に回復魔術をかけている様子に、エレガは舌打ちをする。

 なんと、無意味なことをしているのだ。どんな気持ちがあったって、気持ちだけじゃどうにもならないことはある。それが今だ。
 どんな凄腕の魔導士だって、回復魔術で死人を生き返らせることはできない。もう無駄なのだ。

 ……エランが抱きかかえている、クレア・アティーアは……もう、死んでいるのだから。

「う、うそ……」

 その姿に、ルリーが膝から崩れ落ちる。信じたくない、信じたくないのに……
 それが現実だと、周囲の全てが、訴えかけてくる。

 呼吸が、荒くなる。動悸が激しい。意識が揺らいでいく。

「ったくよぉジェラ、やりすぎたせいであのガキ壊れたんじゃねえか」

「脆いねぇ、ったく。たかが一人死んだくらいで」

「! たかが……?」

 聞こえた、心のない言葉。それに、エランが反応する。
 上げた顔、その瞳は、虚ろだった。

「いや、まだ、クレアちゃんは、死んでない……
 ……あ、そうだよ、魔石! 魔石を使えば、ノマちゃんみたいに、きっと、元気に……!」

 その表情は、虚、怒り、そして希望……いや、願望へと。様々に変化する。
 その様子は、誰の目から見ても、異常だとわかるものだ。

 以前、ノマが血だらけで倒れていたとき。あの原因こそ、体内に魔石を取り入れられたためだが、同時に魔石の魔力と馴染むことで、強靭な肉体を手に入れた。
 クレアにも同じように、魔石を使えば……と、支離滅裂なことを言い出してしまう。

 魔石の魔力に適応できる者など、そうほいほいいるものではない。数え切れないほどの犠牲者の中で、ノマだけが生き残ったのだ。
 そもそも、死人に魔石の魔力を取り込ませたところで、なんの意味もない。

 なにをしようと、死者がよみがえることは……

「ピギュアアアァアア!」

「ぐぅ!」

 少し離れたところでは、ウプシロンという魔獣を抑えるため、フェルニンたちが戦っている。
 だが、戦況は芳しくはない。なぜなら……

「魔獣が、魔獣を生むとか……聞いたこと、ないぞ!」

 ウプシロンは、強大な魔獣だ。だが、三人が苦戦するには理由がある。
 羽ばたく度に、舞い落ちる羽根……それが、一枚一枚が、小型の魔獣へと変化していくのだ。

 小型の、鳥型の白い魔獣。小さくとも、ほその殺傷能力は魔獣に違いないものだ。
 そのうちの一羽が、飛び、動かない標的……エランへと、迫っていた。

 無防備な背中に、鋭いくちばしが刺さる……と思われたが……

「……」

 後ろも見ていないエランが、飛んできた魔獣を手でキャッチし……握りつぶした。
 魔獣は声を上げることもなく……無惨に、握りつぶされ、消えていった。

「え、エランさん……?」

「……る、さない……」

 エランは、クレアを地面に寝かせ……ゆらゆらと、立ち上がる。

「お前ら……ゆる、さない……!」

「お、いい目になったな。けど、まだ答えを聞いてないな」

 鋭い眼光を、エランはエレガたちに向ける。常人であれば、これだけで怯んでしまうだろう。
 しかし、エレガは余裕の表情で応える。

 その態度が、またエランの神経を逆撫でし……まるで感情の昂ぶりに呼応するかのように。その髪は、黒色から白色へと、変化して……

「エランさん!」

「!」

 聞こえた友達の声に、はっとして……エランは、振り返った。
 そこには、倒れたクレアの体の近くに移動していた、ルリーがいた。

 ちなみにフィルは、ルリーに言われたとおりに目を閉じたままだ。

「……クレアさんは、もう……死んで、ます」

「……っ」

 それは、敵ではなく……友達から、改めて告げられる残酷な宣告。ルリーは、クレアの手首に指を当て、脈拍を測っている。
 その顔色は、悪い。

 エランも、薄々わかりきっていたことだ。だが、それを確定させる言葉を、このタイミングで言わなくても。
 思わず激昂しそうになるエラン。しかし……

「……治せるかも、しれません」

「……は」

 続けられた言葉に、ただ声が漏れた。わけがわからない。
 死んでいる。けれど、だからこそ治せる……と言ったのだ。なんの冗談だ。

 しかし、ルリーは冗談を言っている顔を、してはいない。

「どういう……」

「……死者を生き返らせる魔術。その存在を、ご存知ですか?」

「え?」

 聞いたこともない魔術の名に、エランは耳を疑う。
 グレイシアと暮らしていたとき、魔導のことはそれなりに勉強した。しかし、死者を生き返らせる魔術、なんて聞いたこともない。

 なおも、ルリーは続ける。

「知らなくて、当然です。この魔術は、ダークエルフにしか扱えません……闇の、魔術ですから」

「闇……」

 エランでさえ知らない、魔術の正体。それはダークエルフにしか使えない、魔術だからだ。
 ふと、思い出す。学園で魔獣が出現したとき、ルリーは見たこともない、黒いカーテンのような魔術を使っていた。

 あれが、闇の魔術。そして人を生き返らせるのもまた、闇の魔術。
 それさえ使えれば……クレアは、生き返る? 死んでいるからこそ、使える魔術。

 これを治す、と表現していいかわからないが、まだクレアを助けられる可能性は、残っている。

「……ダーク、エルフ」

 ダークエルフにしか使えない魔術……その存在に、エランは一つの疑念を抱く。
 同時に、一向に仕掛けてくる様子のないエレガとジェラの姿も、気になった。
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