史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

348話 拒絶

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「ひっ、い、やぁ!!」

「あっ……」

 これまでに聞いたことのないような……そして、おそらく本人も出したことがないだろう、悲鳴。
 エランもルリーも、あっけに取られている中で。ルリーの膝の上にいたクレアは起き上がり、ルリーの胸を押し、突き飛ばす。

 座っていたため、突き飛ばされてもたいしたダメージにはならない。
 しかし、それ以上に……立ち上がり、自分から距離を取るクレアを見て、ルリーはショックを受ける。

 そして、ショックを受けるのは……エランも、同じだ。

「く、クレア……ちゃん?」

「あ……え、エランちゃん!」

 目の前のダークエルフを見て、クレアは身を震わせている。足も、肩も……全身が震え、顔色は悪い。ひどく青ざめているのは、先ほど死んだ影響……とは思えなかった。
 そんなクレアの様子に、エランはポツリと言葉を漏らす。

 その声が届いたのか、クレアは肩をはねさせて、周囲をキョロキョロと見回す。
 その目に、ダークエルフではなくエランを認め……クレアは、エランへと駆け寄った。

「え、え、エランちゃ、ん! あ、あそ、あそこっ……だ、ダークエルフ、が……!」

「……っ」

 その怯え方は、やはり尋常ではない。
 ダークエルフ……ルリーを指差して、髪を振り乱し、必死に首を振っている。

 その姿に、いつものクレアの姿はない。ダークエルフが人々から嫌われている、という話は聞いていたが、ここまでとは。
 いや、クレアは混乱しているだけだ。彼女が友達……ルリーだとわかれば、落ち着くはずだ。

「あ、れ? いや、あれ……わた、し、さっき、刺され……あれ……?」

 ルリーは、魔導具による認識阻害で、自身がダークエルフだということを隠していた。
 さらに、なぜいつもフードを被っているのか、とあまり疑問に思われないように、していた。

 だから、ルリーがダークエルフだとわからないのは、当然のことだ。見知らぬダークエルフがいれば、誰だって混乱してしまう。
 先ほど刺され殺されたことも重なれば、なおさらだ。

 だからエランは、伝える。彼女はルリーだと……怯えるべき、相手ではないと。

「お、落ち着いてクレアちゃん! あの子はルリーちゃん、ね! クレアちゃんを、助けてくれたの! ルリーちゃんだよ、お友達だよ!」

 ……伝えて、しまった。

「……は……ル、リー……は? アレ……が……?」

 エランの言葉に、クレアは……虚をつかれたように、目を丸くして、固まった。
 エランの想像通り、落ち着いた。落ち着いてくれた。

 瞬間、クレアの頭の中で、様々なピースがハマっていく。
 いつもフードで顔を隠していたルリー……いつも聞いていたルリーの声……それが、あのダークエルフと同じ声であること……おどおどしている仕草が、見慣れた姿であること。

 ……ルリーが、ダークエルフであること……それが、エランの口から、もたらされた。

「……っ、いや、うそ……そん、な……うそで、しょ……?」

「クレアちゃ……」

「いや、ウソよ! うそ、うそうそうそウソうそうそ嘘ウソウソうそ嘘うそうそウソ!!」

 その事実を認められず、クレアは頭を抱える。目を見開き、その目からは涙が流れている。
 あまりに異常な光景。エランは手を伸ばすが、それが触れていいものなのか、わからない。

 ふと、ルリーが一歩、近づいた。

「来ないで!!」

「ひっ……」

 強い、拒絶。それを受け、ルリーは足を止める。
 今にも泣きそうなほど、その体を震わせて。

 ルリーにとって……もしかしたらそれは、初めてのことだったのかもしれない。
 ルリーは、世間のダークエルフに対する評判は、知っている。だからこそ身を隠してきたし、これまでに友達と呼べる存在は、同族以外にいなかった。

 初めて……同族以外の、友達ができた。
 もしかしたら……と、思っていた。たとえ自分がダークエルフだと知られても、もしかしたらクレアならば、受け入れてくれるのではないか。

 ……そんな淡い期待は、激しく向けられる拒絶……敵意によって、打ち砕かれた。

「あ、わ、わた、し……」

「っ、近寄らないで! "ダークエルフ"!!!」

 ルリーのか細い声では、クレアには届かない。
 はっきりとした拒絶は、ついにルリーの名前をも呼ぶことはなくなった。

 その態度に、カッとなるのはエランだ。

「く、クレアちゃん! ルリーちゃんに、なんてこと……今まで、仲良くやってきたじゃん! ダークエルフだからって、そんな、こと……関係ないじゃない!」

「わかってないのはエランちゃんよ! ダークエルフってのが、どんな存在か……わからないの!? それに、そいつは私たちを騙して……いや、もしかして、エランちゃん、知ってたの? 知ってて、なんで……」

「友達だから、仲良くするに決まってる!
 それに、ルリーちゃんはクレアちゃんを、助けてくれたんだよ! なのにあんなの、あんまりだよ!」

「……たす、けた?」

 お互いに、ここまで感情を露わにしたことなどない……エランとクレアの言い争い。
 それは、エランの一言を聞いたクレアが押し黙ったことで、一旦の中断を見せる。

 自らの両手を見て、クレアは、手を握り、開き、握り、開き……を繰り返す。
 その顔からは、血の気が失せていた。

「ま、さか……さっき、のって……気の、せいじゃ……」

 思い出すのは、自分が意識を失う直前の出来事。それを確認するために、クレアは腹を触る。
 傷は、ない。痛みも。やはり、気のせいか。

 次いで、視線を動かし……手で触れている場所を、見た。
 服が、破れている。服に血が、ついている。まるでそこだけ、なにかが刺さった痕のように。

 その瞬間、思い出した……自分が、刺されたことを。その瞬間、生命活動が止まったことを……理解した。
 なのに、今自分は、生きている。動いている。

 ……いや、生きて、いるのか……?

「はーっ……はーっ、はー……」

「クレアちゃん……?」

 額から流れる汗が、止まらない。激しくなる動悸が、止まらない。
 自分は、一度死んだ……それを理解した瞬間。言いようのない衝撃が襲ってきた。

 しかし、クレアが真に恐ろしく感じたのは、自分が死んだことではない……今こうして、生きていること。
 否、生き返ったことだ。

「や……いや、いやぁ……こん、なの……あんまり、よ……!」

「クレアちゃん、いったいどうし……」

「なん、で……! なんで私を、生き返らせ、たの!? なんで、こんな……こんな、こと……!」

 ひどく取り乱すクレア……ダークエルフの存在、ルリーの正体、生き返ったこの体。そのすべてが、クレアに重くのしかかる。
 あり得ない、認めたくない。

 クレアの言葉に、エランは言葉を失った。クレアは、自分が生き返ったことを喜ぶどころか……そんな自分を、そうさせたエランとルリーを、ひどく恐ろしいものを見る目で、見ていた。

「くく……くっふふ……」

 困惑する状況の中で、似つかわしくない笑い声が、聞こえた。
 エランが反応し、首を動かす。そこにいたのは……

「くふっ、ふふふ……あは、っはははははは!
 お、面白すぎるだろ……っ、くぁはははははは!」

「っふふふ……なんて、友達思いで……なんて、哀れなのか。
 あっははははは……!」

 抑えようとした笑いを、堪えきれず……腹を抱えて吹き出す、エレガ。そしてその隣に立つジェラ。
 これまで、状況に関与してこなかった……二人の人間だった。

 ゲラゲラゲラゲラと、邪悪な声で、邪悪に笑っていた。
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