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第六章 魔大陸編
357話 生きるか死ぬか
しおりを挟む歩き続けて、どれくらいの時間が経っただろう。
目的地はあるけど、それがどの方角にあるかもわからず、歩き続ける。
ただ歩き続けるわけじゃなくて、当然会話もするけど……ルリーちゃんとはともかく、ラッへはほとんど会話に混ざってこない。
聞いたことにはわりと、答えてくれるんだけどね。
時間の経過がわからないのは、空模様の影響が大きい。見上げても、そこに広がっているのは紫色の空……ずっとだ。
太陽の光もない、ただ一定の光が差し込んでいるだけだ。どういう原理かは、わからない。
「はぁ……なーんにも、見えてこないね」
「ですねぇ」
話題といえば、なにも見えてこないことと、残してきたみんなは無事なのか……主にこれだ。
どっちも、答えのない話題。他に内容がないとはいえ、答えのない会話を続けるのも、なかなかにしんどい。
せめて、なにか目の先に変化でもあれば、変わってくるんだけどなぁ。
「なにもない、なにもないよぉ。ねえラッへぇ」
「うるせえな! 少しは黙ってろ!」
「でも無心で歩くのって寂しいじゃん」
くぅ……
そして、恥ずかしいことにお腹も、鳴る。
ここに転移してきてから……いや、魔導大会決勝が始まるちょっと前から。なにも食べてない。
予選を勝ち抜いて、多少の食事はした。でないと、魔力の消費でお腹ペコペコだったからね。
でも、決勝で結構大暴れして……そのせいで魔力が減り、補給しないままに転移させられた。
「お腹空いたよぉラッへぇ」
「さっきから気安いぞてめえ」
よっぽど私と話したくないのだろうか。やっぱり言葉が強いような気がする。
それとも私がうるさすぎるんだろうか。
でもなぁ。私とルリーちゃんだけで話をしていたら、ラッへは寂しい思いを感じてしまうかもしれないし。
こうして話しかけるのは、悪いことじゃないと思うんだけど。
「それにしても、なにも見えませんね」
と、ルリーちゃん。
ルリーちゃんは大会に出場していなかったとはいえ、エレガたちの乱入に乱入してきた際、結構体力を使ったはずだ。
あの、死者を生き返らせる魔術だって、相当な体力と精神力を使っているはず。
……その後のやり取りで、心がすり減っていても、おかしくはない。
「そうだね。村とか街とか、集落とかでもいいけど……人が住んでるとこが見つかれば、安心して休めるし、ご飯だってわけてもらえるかも」
「……お前本気で言ってんのか?」
「ん?」
何気なく返した言葉に、ラッへが反応する。
振り向いて、私の顔を見た。そこには、呆れの感情が浮かんでいるように見えた。
「ここがなんつったか、もう忘れたのか」
「魔大陸でしょう? そんなすぐ忘れるほど、私バカじゃないよ」
「なら魔大陸にはなにが住んでるって言ったよ」
「魔族でしょう?」
「……誰かが住んでいるような場所があれば、そこには魔族が住んでるってことだろ。人なんかいない、そこにいるのは未知の種族だ」
「……あ」
ラッへに言われて、気づいた。そうだった……ここは魔族の住んでいる、魔大陸だった。
じゃあここに住んでいる人は、人じゃなくて魔族だ……
魔族がどんなのかはわからないけど……いやわからないからこそ、いきなり「こんにちはご飯ください休ませてください」なんて言って、受け入れてもらえるはずがない。
……いや人相手でも初対面の相手に、これは無理か。
「じゃあまさか、このまま野宿と食事なしで、ベルザ王国を目指せってこと?」
「知るかよ。魔大陸にあるもんなんてそもそも、私らが食えたもんかわかったもんじゃない。
幸い、水の魔法がありゃ衰弱死することだけはないんじゃねえか?」
周囲には、岩以外なにもない。木でも生えてれば、木の実がある可能性があるけど……
それでも、それが私たちが食べられるものなのか、わからない。うまいまずいの問題ではなく、だ。
人とエルフ族の味覚は似ているらしいから、食事もだいたい同じだ。
だけど、他の種族……特に人に近しくない種族は、食べるものも違う。
そう考えると、魔族の食べるものが私たちも食べられるのか、疑問だ。
「水魔法、かぁ……あれ、飲み水としての水じゃあないと思うんだけど」
「ないよりマシだろ。飯はなくても生きられるが、水はないと数日と持たねえ」
魔大陸にある食料が、私たちの口に合うかはわからない。
だから、飲み水だけでも確保できるのは、充分な功績……か。
試しに、魔法を使って、少量の水を手のひらに生み出す。魔法はイメージだけど、さすがに食べ物なんかを出すことはできない。
水や氷なんかは、大丈夫なんだけどね。
水を、飲む。
……ううん、特に異常はなさそう、かな。
「……ところで、ラッへさん」
「なんだ、何度も何度もしつけえな。会話してても体力使うんだ、しょうもない話は……」
「あなたはどうして、エランさんと同じ顔をしているんですか」
「!」
……その瞬間、ラッへの足が止まる。それに少し遅れて、私たちの足も。
ルリーちゃんからラッへへ、話しかけるなんてどうしたんだろう……そう思っていたら、予想以上の爆弾が放り投げられた気がした。
振り向くラッへの瞳は鋭く、ルリーちゃんと私を射抜いている。
いやそりゃ、私だって気になってたよ。ラッへってば、エルフとしての特徴を除けば、私と顔がそっくりなんだもの。
気になってた、聞きたかったよ。でも、今聞いちゃうの……!?
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