398 / 1,141
第六章 魔大陸編
390話 いつの間にか祀り上げられました
しおりを挟むこの国が、他国との戦争に突入することになる未来……それは、いったいいつなのか。
未来と言うからには、どこか遠い出来事なのかと思っていた。
それが……まさか、明日だなんて。
「明日戦争が起こるにしては、落ち着き過ぎじゃない!?」
その未来をいつ知ったのかはわからないが、戦争をするなんて未来を知っている割には、落ち着きすぎている気がする。
ガローシャも、ガロアズも。他の魔族も。
その疑問に、ガロアズが口を開いた。
「そもそも、ガローシャの未来予見の力は、わし含め、少数しか知らん。ほとんどの魔族は、明日戦争が起こるなど夢にも思っていないだろう」
「それはそれでどうなの!?」
未来を予見するなんて力、とんでもないものだというのはわかる。軽々しく話でいいものではないことも。
とはいえ、事が事だ。未来についてはともかく、明日戦争が起こると知りもしないのはひどくない!?
ほとんどの魔族は、明日になったらいきなり戦争に巻き込まれるわけか……
「戦争が起こる……そう伝えたところで、なにが変わるとも思えんのでな」
「少なくとも、戦いの準備はできるんじゃない!?」
「いや、そもそも我らは、いついかなる時も不測の事態に備えるよう、準備はしている。争いなど、いつ起こるかわからんのでな」
「うっ、それっぽいことを……!」
とにかく、明日戦争が起こる。今、下で魔物と紛争している魔族は、それを知らない。
そして、私たちがいれば、その戦争には勝てると言うのだ。
「つぅか、戦争ってなぁ……まさか、てめえらから仕掛けるんじゃねぇだろうな」
「いいえ。予見した未来では、その時、空を黒い影が覆い……強大な力に、我らは滅ぼされるのです」
「わしは、ガローシャの力を疑いはしていない。しかし、ガローシャが見た夢を、わしも見ることはできん。
話を聞く限りだと……それは、戦争と言うよりもむしろ虐殺に近い」
黒い影、か……それが、この国を滅ぼす。
どうやら、こちらから攻めるわけではなく、相手側から攻められるようだ。
「おそらくは、なんらかの兵器だと考えている。他国は、我らよりも技術が発展しているからな」
「戦争を仕掛けてくる理由って?」
「理由などいくらでもある。資金調達、領土拡大、人材確保……気に入らないから、というのもあるだろうな」
……おんなじ魔族同士でも、そんなことで争いが起こってしまうのか。
いや……人間だって、おんなじ人間なのに争ったりしている。おんなじ種族だって、みんなが仲良しなわけではない。
それにしても、明日戦争が起こるんだとして……
「……なんで私を見んだよ」
「いやぁ……ラッへの意見を聞きたいなって」
「ちっ。……まあ、明日ってんなら日にちの心配はねぇ。クロガネに乗ってりゃすぐに大陸を渡れるだろうが、どのみちどこかでクロガネは休ませなきゃいけねぇし。
どうせ、一日はどっかで過ごすはずだったしな」
明言こそしないけど、ラッへはここに残ることに賛成してくれたみたいだ。
どうせ魔大陸のどこかで一日過ごすなら、屋根もあるこの場所がいい。
クロガネも、ずっと移動しっぱなしで、疲れているだろうから。休ませてあげないといけないし。
「ま、ドラゴンなんてタフな生き物、普通のモンスターと比べて良いのかわかんねぇけどな。
普通、契約した使い魔を召喚し続けておくのは、魔力の消費が激しいんだ。なのに、てめえの魔力はどうだ、尽きているか?」
「ん……そういえば、あんまりしんどくないかも」
「つまりは、クロガネが自前の魔力で、現界し続けてるってことだ。
クロガネ自身の魔力が凄まじいのか、それとも魔大陸の環境が適してるのか……どっちにしろ普通じゃねぇな」
そういえば、師匠も言っていたな。使い魔を召喚しておくと魔力を使い続けるから、あんまり召喚し続けないように、と。
それは召喚者にも、使い魔自体にも、影響を及ぼす。
平気な顔をしているけど、クロガネも疲れているのかもしれない。
「ただでさえ契約からここまで、ずっと無理させてんだ。
戦争には、十中八九クロガネの力が必要だ……充分、休ませておくんだな」
「わかった。ありがと」
「けっ」
けど、こういうのって……どうすればいいんだろ。クロガネに、使い魔の魔法陣の中に戻って、と念じればいいのかな。
でも、今は確か魔物たちを相手にしているんだっけ。じゃあいきなり戻したら、迷惑だよね。
ひとまず、クロガネのところに行こう。
「あの、では……」
「ん、あぁそうだった。協力するよ、あなたたちに」
立ち上がる私に、ガローシャは声をかけてくる。
そういえばまど結論を言ってなかったなと、言葉を返した。
それを聞いた瞬間、ガローシャの表情が明るくなった。
「それは、ありがとうございます! では、早速行きましょう!」
「へ? 行くって……」
どこへ……と、言葉を続ける間もなく、ガローシャに引っ張られてしまう。
私はそれに逆らわず、ルリーちゃんとラッへも後についてきた。
長い廊下を渡り、向かう先は……少し、大きな場所に出た。壁がなく、いわゆるバルコニーのような場所。
下には、多くの魔族がいる。その更に下にクロガネ……地上には、魔物たち。
それを前に、一歩前に出るガロアズは、大きく息を吸って……
「注目!!」
と、言い放った。
大気を震わせるほどの大きな声。自然と、背筋が伸びてしまう。
それは魔族たちも同じようで、魔物すらあっけにとられている。
みんなの注目が集まったのを確認して、ガロアズは笑みを浮かべた。
「諸君らには突然の話となるが! 明日! 隣国のラゼーナ国から戦争を仕掛けられる可能性が高い! このまま行けば、我らは敗れるだろう!
しかし! ここにいる人間! エルフ! そしてダークエルフの力により、我が国は勝利する!」
……それは、いきなりの戦争の話……それだけじゃない。
私と、ルリーちゃんと、ラッへが……協力して、勝つってことまで、言っちゃってる!
なに言ってんのこのおっさん!?
1
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる