史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第六章 魔大陸編

【番外編ⅰ】 あたたかな日々

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 ――――――

「ししょー、ししょー朝だよ。そろそろ起きよーよー」

「んん……いいじゃないか、もう少しくらい……」

「だめー! 私が起こさないと、ずっと寝ちゃうんだから! えいみんだよ! おーきーてー!」

「わかった、わかったよ……まったく、朝から元気だなエランは」

 ゆさゆさと、小さな手に揺らされて……グレイシア・フィールドは、ベッドから起き上がる。
 その姿を見て、腰に手を当てている小さな女の子……エラン。

 彼女は、のんきにあくびをしているグレイシアのだらしない姿を見て、ぷくっと頬を膨らませていた。

「全く、ししょーは私がいないとだめね!」

「はは、そうだな」

 ボサボサの髪をかき、グレイシアは苦笑いを浮かべた。
 エランは口では悪態をつきながらも、その表情はどこか嬉しそうだ。

 グレイシアのお世話をするのが、好きなのだ。そうでなければ、恩人とは言え毎日世話はしない。

「さ、朝ごはんもできてるから、早くおきてよ!」

「はいはい。朝から元気だなエランは」

「さっきも聞いたよ!」

 行って、エランはリビングへと戻っていく。

 ベッドから立ち上がったグレイシアは、水魔法を使い顔を流していく。
 そして、クローゼットから服を取り出……そうとしたところで、傍らに畳まれている服が置いてあるのが目に入った。

 これは、事前にエランが服を選び、そしてグレイシアがすぐに着替えられるよう、準備をしておいてくれたのだ。

「小さいのに、立派なもんだ」

 用意されていた服に着替えながら、グレイシアはエランの成長ぶりに感心する。
 彼女と出会って……彼女を拾って、もう一年が過ぎた。

 旅をし続けていたグレイシアは、ある日一人の少女を見つけた。
 体はボロボロで、尋常ではない状態だとわかった。あのまま放っておくことは、できなかった。

 それに、彼女を拾ったのは、彼女を不憫に思っての理由だけではない。
 彼女は、黒髪黒目の少女だった。グレイシアは長いこと生き、各地を旅しているが、黒髪黒目の特徴を持つ人間と会ったことがない。

「……よし」

 用意されていた服に腕を通し、グレイシアは部屋を出る。
 黒髪黒目の小さな女の子を拾って、人里離れた場所に小さな小屋を立てた。

 今やここが、自分と彼女……エランと名付けた少女の、家だ。

「ししょー、目ぇ覚めた?」

「あぁ、おかげさまでね」

 リビングでは、テキパキと朝ご飯の準備をしている、エランの姿。
 まだ小さな女の子に、お世話をされている。それが情けなくもあり、同時に彼女のためにもなっていることを自覚する。

 彼女には、拾われる前の記憶がない。家族のことも自分がどうしてここにいたかも……自分の、名前さえもわからない。
 そんな空っぽの彼女に、役割が与えられたのは、よかったのかもしれない。やることがなければ、きっと彼女はいろいろ考えてしまう。

 それを、お世話してくれる免罪符にしてしまっている感は、あるが。

「おぉ、今日もうまそうだ」

「えっへん!」

 小さな少女は、小さな胸を張りご満悦だ。
 きのこのスープに、薬草から作ったサラダ。さらにはグレイシアが、近くの町から貰ってきたパンが並んでいる。

 グレイシアは、長いこと生きてきたが……料理は、得意ではない。
 なのでこうして、料理してくれる人がいるというのは、ありがたいのだ。

「いただきます」

「いただきまーす!」

 二人で食卓につき、手を合わせて、食事をする。
 こうしていると、まるで本当の家族のようだ。

 エランと名をつけた、この少女。
 エランとは、グレイシアの娘の名前だ。もうこの世にはいないが……

 一人の女性と恋に落ちたグレイシアは、彼女との間に子を設けた。その子に、エランと名付けた。
 だが女性は流行り病で亡くなり、エランも共に……

「んー、われながらおいしい!」

 ……亡くなった娘の名前を、この子につけたのだ。
 なんて女々しいのだろうか。グレイシアは、自分で自分を女々しいと評していた。

 それでも、この名前を付けたのは……

「ししょー、手が止まってるよ。わたしの料理が食べられないっての?」

「! いや、食べるよ。
 ……うん、おいしい」

 考え事に手が止まっていたグレイシア。彼に、エランは不機嫌そうな声を漏らした。
 いったいどこでそんな言葉を覚えてくるんだと、ちょっと心配だ。

 エランの作ってくれた料理は、どれもおいしい。グレイシアの好きな味付けなのは、もしかして覚えたのだろうか。
 話したことはないのに、たいしたものだ。

 エランを引き取り、グレイシアはそれまで続けていた旅をやめた。元々、目的のない旅だった。
 道中困っている人がいたら助け、それが結果的にエルフ族への信頼回復に繋がっている。

「そうだ、今日も魔導のこと、おしえてね!」

 エランは最近、魔導について興味津々だ。
 以前グレイシアが魔導を使っているのを見てから、自分も使ってみたいと目を輝かせていた。

 それ以降、知識として魔導について、いろいろ教えている。
 小さいうちからだと、物覚えがいい……エランの場合、記憶はなくても、地頭は良い方のようだ。

「エランは本当に、魔導が好きだな」

「うん! わたし、ししょーと同じくらいに魔導を使いこなせるようになるんだ!」

「はは、そりゃ楽しみだ」

 元気に目標を立てるエランに、グレイシアは頬を緩めた。
 愛した女性を、娘を亡くして、以来一人だった……失うのが怖くて、誰とも深く関わろうとしなかった。

 けれど、この子は……本当は寂しかったグレイシアの心に、ぬくもりをくれた。
 エランは、自分を救ってくれたのは師匠だと言うが。グレイシアこそ、自分はこの子に救われたと、そう思っている。

 だから、この子の頼みはなんだって聞きたくなる。

「じゃあ食べたら、外に出よう。そこで、いろんな魔導を見せてあげる」

「やったー!」

 グレイシアの言葉に、エランは両手を広げて喜ぶ。
 その姿を見てまた、グレイシアの心があたたかくなる。

 居心地の良い、空間……ずっとこのときが続けばいいのにと、グレイシアは願っていた。
 同時に、こうも思っていた。エランのやりたいことが見つかれば、それを全力で応援しよう……と。

 だってエランは……

「はむはむガツガツ……!」

「ほらほら、そんなに急いで食べると喉に詰まるぞ」

 まるで、本当の娘のような存在なのだから。
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