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第六章 魔大陸編
420話 魔法と魔術を組み合わせたもの
しおりを挟む「んぁあああああ、疲れたぁあ……」
私はクロガネの上で寝転がり、大の字に横になる。
今叫んだ通り……いや、ほんっと疲れた。なんかこれまでで一番疲れたかもしれない。
私がやったのは、要は魔法と魔術の合わせ技だ。
知識として、そういうものがあるとは知っていた。知識として、そういうことができるとは知っていた。
けれど、実際にやったのは、初めてだ。
『いいかいエレン。魔法と魔術……この二つを組み合わせて出せる魔導というものも、ある。
ただ、簡単に使えるものじゃない。そもそも魔術自体、簡単に使えるものではないんだけどね』
『へー。ししょーは、使えるの?』
『……さて、どうだろうね』
以前、師匠が教えてくれたことだ。
魔導には、魔法と魔術……そして、魔法と魔術を組み合わせたものが、存在すると。
ただ、あのとき師匠は……自分が、それを使えるのかどうかを、教えてはくれなかったな。
あのとき師匠は、どんな顔をしていたんだっけ。逆光に隠れて、よく見えなかったな。
『魔法は、魔導の知識と技術があれば誰にでも使える。魔術は、精霊との対話が必須条件になってくる。
そして、二つを組み合わせて放つ魔導に必要なのは、まず莫大な魔力だ』
『ほほぉ』
『エランも、すさまじい魔力を持っている。でも、それじゃまだまだだな。
次に、精霊との絶対的な信頼関係。精霊の力に、自分の力を上乗せするんだ。生半可な関係じゃ、力を貸してはもらえない』
『ふむふむ』
『最後に……これが、一番肝心な要素だ。
必要なもの。それは、自分の――――』
……あのとき師匠は、なんて言ったんだっけか。
『ワレも、これほどまでに魔力を消費したのは、初めてだな』
「ごめんねぇ、無理言って」
『気にするな。おかげで、面白いものも見れたしな』
さっきの魔導は、私一人じゃ使えなかったものだ。
魔大陸の影響で私自身の魔力は激減していたとはいえ、その分はクロガネが補ってくれていた。
さらにクロガネから魔力を借り受け、自分でもこれまでにないほどの力を感じた。
それで、ようやくだ。うぬぼれるわけじゃないけど、私でこれなんだから、使える人間はごくごく限られる。
その威力は、絶大だ。
杖から出た、光線。それに当たったものを、一切の痕跡を残すことなく消し去る。
使い方によっては、恐ろしい魔導だ。
私とクロガネの攻撃を耐えきった魔獣を簡単に消し去ったんだから、威力の高さを改めて語るまでもない。
「ふぁ……眠い……」
『気持ちはわかるが……』
「うん、大丈夫。まだ終わってないもんね」
本当なら、このまま泥のように眠ってしまいたい。でも、そういうわけにはいかない。
まだ、やるべきことが残っているのだ。
エレガたちを、倒したけどちゃんと拘束しておかないと。それに、ルリーちゃんとラッヘの様子も気になる。
分身魔法で片割れを向かわせていたけど、意識をほぼこっちに向けちゃってたからね。
下の魔族たちは……まあ、勝手にやってくれ。
「休んでいる暇は、ないよね」
私は、立ち上がる。クロガネにも、申し訳ないけどもう少し、頑張ってもらう。
こっちも、あっちも……私が、ちゃんとしないと……
――――――
「……っはぁ」
上での、魔獣プサイとの戦い。そっちにほとんどの意識を持っていっていた"私"は、行動を再開する。
向かう先は、ルリーちゃんとラッヘのところだ。
魔力が暴走したルリーちゃんを止めるため、ラッヘは一人残った。
その後、ラッヘの魔力が爆発的に上昇し、そして消えた。ルリーちゃんもまた、暴れている気配はない。
いったい、なにがあったのか。それを確認しないと。
「あぁん? なんでこんなところに、エルフとダークエルフがいるんだ?」
「さぁ、もしかしてあいつらの加勢か?」
「!」
二人のところへ向かっていると、二人に近づいている影があった。
あれは……魔族だ。人型の、でも異形の姿をした存在。
二体が、倒れているルリーちゃんとラッヘを、見ていた。
「おいおい正気かよ、いくら俺らに負けそうだからってよ」
「ま、どっちでもいいさ。邪魔者は、消すだけ……」
「だぁあああああああ!!」
魔族は、二人に対して明確な悪意……いや殺意を露わにした。それで充分だ。
私は勢いをつけて、魔族の一体に蹴りを入れる。
「ぐぉああ!?」
「な、なんだ!?」
蹴られた魔族は吹っ飛び、ボールのように飛んでいく。
残る一体にも、状況についていけていないうちに蹴りを放つ。
それは、魔族の首に衝突する。けれど……
「……!」
「ぁ……?」
魔族は、ビクともしない。
魔族の体は、私たちよりも硬いと聞いた。だけど、蹴りが通用していないのは、それだけじゃない。
私自身の、問題だ。
魔獣との戦いで、魔力も体力も、ほとんど限界まで使い果たしてしまった。
おまけに、分身魔法によって"私"の力は、半分になっている。
「やっば……」
つい、かっとなって出てきちゃったけど……これは、まずいのでは?
「っ、くそったれ……」
吹っ飛んでいった魔族にも、やっぱりたいしたダメージはない。
距離を取りたい……けど、そうしたらルリーちゃんとラッヘが無防備になってしまう。
「人間の、小娘?」
「人間までいんのかよ。舐めやがって、殺す!」
……どうしようっ。
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