史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
441 / 1,141
第六章 魔大陸編

430話 記憶

しおりを挟む


「……あなたは、だあれ?」

 ……その言葉は、私に、私たちにどれほどの衝撃を、与えたことだろう。
 だって、そうだ。眠ってしまってから、五日間ずっとベッドの上だったラッヘ。起きるのを、どれほど待ち望んでいたことが。

 今ようやく、ベッドから起き上がり……目を、開いた。エルフ族特有の綺麗な緑色の瞳が、私を見ていた。
 そして……先ほどの言葉を、言ったのだ。

「え、っと……」

 とっさのことに、私はなんと言えばいいかわからなかった。
 部屋の中にいたルリーちゃんに視線を向けるけど、彼女は不安げな表情を浮かべたままだ。

 対してガローシャは、驚きは見せていても平静を保ったままではあった。

「なにが、あったの?」

「……正直、エランさんの驚きとさほど変わりはありません。私たちも、ついさっき同じ衝撃を味わったばかりですから」

 私の問いかけに、ガローシャが答える。
 二人も、ついさっきラッヘが目覚めたのを、確認したってことか。

 そんで、目が覚めたら……こんな状態だったと。

「あの……ラッヘ?」

「……?」

 軽く深呼吸をしてから、ラッヘに話しかける。まずは、名前だ。
 まだ、さっきの一言だけだ。まだ、確信ではない。

 なにか、悪ふざけでもしていたのだろう。そうであってくれ。
 そんな願いを込めて、呼んだ名前は……

「……?」

 きょとんと首を傾げるラッヘの姿に、どこかへ吹っ飛んでいった。
 私たちのことどころか、自分の名前もわかっていない? もしかしてこれって……

「記憶が……」

「?」

 そもそも、見た目からしてなんかおかしい。いや、どこがどう変わったってほどじゃないんだけど。
 きょおんとしたラッヘからは、前までの刺々しい雰囲気が感じられない。以前は、触れるものみな噛みつくくらいの勢いがあった。

 なのに、なんだこのおとなしい生き物は。外見が変わったわけじゃないのに、まるで別人に見える。
 雰囲気が違うだけで、こんなにも……

 じゃなくて!

「えっと……状況を、詳しく教えてくれる?」

「は、はい。とはいっても、ガローシャさんが言ったように、私たちにもなにがなんだかなんですが……」

 今度は、ルリーちゃんが答える。ただ、本人たちも状況を飲み込めていない。
 私がこの部屋からいなくなったあと、ラッヘとガローシャとがラッヘの様子を見ていた。

 それからしばらくして、ラッヘが突然目を覚ました。驚きと、それ以上の喜びに襲われて……
 ……「あなたたちは誰だ」と……そう、言われたらしい。

「冗談なら、やめてくださいと言ったんですが」

「……とても、冗談には見えなかったと」

 その後もいろいろ質問したけど、全部こんな調子で……驚きに固まっていたら、あとは私が戻ってきて……
 そういう流れだ。

 これは、まいった。いや、予想していなかった。
 まさか今まで目覚めなかったラッヘが、突然目覚めたと思ったら記憶喪失になっていたなんて。

「ガローシャさんは、未来予見でラッヘさんが起きるのとかは、わからなかったんですか?」

「私が夢に見るのは、見たいと思って見れるものではないので。それに、エランさんたちが現れる関連の未来を見て以降は、まったくで」

「……ま、たとえラッヘの未来を見れたとして、どう対処もできないよ」

 もし、目覚めたラッヘが記憶喪失になっていたと、事前に知っていたとして……だから、なにができるって話だ。
 せいぜい、心構えが違うだけの問題だろう。

 そんで……その先は、頭が真っ白だ。

「いや、まあ、うん。ラッヘが起きたことは、嬉しいよ。素直に喜ばしいことだよ。でも、さ……まさか、こんなことんなると思わないじゃん」

「エランさん、気持ちは同じですけど……こうなってしまった以上、この先のことを考えないと」

 ルリーちゃんに宥められ、私は考える。
 ラッヘが起きたのなら、もうここにいる理由はないわけで。なら、まあ準備してからここを経つ。

 その際、エレガたちも一緒に連れ帰って、その先で処遇を話し合う。

「……」

 ちらりと、ルリーちゃんとラッヘを見る。
 ルリーちゃんのダークエルフ問題と、ラッヘの記憶喪失問題。問題事が増えてしまった。

 私も、記憶喪失ではあるけど……十年以上の記憶がないだけで、そっからはちゃんと育ってきている。
 でもラッヘは、自分の名前もわからないってことは生まれてからすべての記憶をなくしてる可能性があるわけで。

 しかも、ラッヘはエルフだ。ラッヘが何歳かは聞いていないけど……長寿のエルフ族は、見た目と中身の年齢が比例しない。

「何十……下手したら、百年分の記憶がなくなってるってことだよね」

 それは考えただけでも、恐ろしい。もし私が、今記憶喪失になってしまったら。
 今日まで培ってきた、友達とか知識とか、そんなものが全部なくなっちゃう。それを考えるだけでも、怖い。

 なのに、ラッヘの場合は……重みが、違う。

「ルリーちゃん、エルフ族が記憶喪失になることって、あるの?」

「……私は、聞いたことないです」

 きょとんとしたラッヘは、物珍しそうにあたりをキョロキョロ見ている。
 こんなラッヘを、放ってはおけない。かといって、誰が世話をする?

 私の場合は、家族とかわからなかったみたいだから、師匠が育ててくれた。
 そのグレイシア師匠が、ラッヘの親だというけれど。

「……師匠、今どこにいるのさ」

 どこにいるかもわからない師匠をあてにすることも……また、難しかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です

モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。 小説家になろう様で先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n0441ky/

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

処理中です...