446 / 1,141
第六章 魔大陸編
435話 人魚との出会い
しおりを挟む広大な『ウミ』を見ていたら、誰かが溺れているのを発見した。クロガネが。
そのため、溺れている人を救出するため、『ウミ』へと近づいていく。
『ウミ』との距離が近づくに連れ、先ほどまでは聞こえなかったザザァ……という音が、超えてきた。
水が波打ち、音を立てているんだ。
ここまで近付けば、さすがに誰かが溺れているというのは、私の目から見てもわかる。
バシャバシャと水を叩いて、沈んでしまわないように必死な姿だ。
「え、エランさんっ」
「わかってる。よい、しょ」
私は魔導の杖を抜き取り、魔力を込める。
魔大陸を抜けたおかげか、魔力の調子もいい。クロガネの補助がなくても、大丈夫そうだ。
私は、溺れている人に魔法をかける。浮遊魔法だ。
魔法にかかった人は、水から打ち上がり、宙へと浮いた。
そしてそのまま、クロガネの背中へと移動させるわけだけど……
「えっと……」
「これは……」
溺れていた人物の姿を見て、私もルリーちゃんも言葉を失った。
だって……その人の下半身は、お魚だったのだから。
本来人の足が生えている部分が、魚の尾ひれになっている……だと?
え、なにこれ。どういう状態なの?
「ぶぇっ、げぼ! ぶふっ、ぶぁっ、は! た、助かったぁ!」
下半身お魚さんは、しばらくぐったりしていたけど……口から大量の水を吐き出して、ぜーぜーと息をしていた。
背中に水をぶっかけられたクロガネは、あんまりおもしろくなさそうだった。
「えぇと……」
「おぉ、人魚じゃねぇか! 生で見るの初めてだ!」
彼女になにを聞こうかな、と思っていたところで、声を弾ませたのはエレガだった。
どうやら、この子のことを知っている……いや、この子の種族を知っている、のか。
なんかいろいろ知ってるなぁこいつ。
「ニンギョ?」
「なんだそれも知らねえのか。上半身が人間で、下半身が魚の種族のことだよ。実際に見るのは初めてだな」
なんだよ、見たまんまじゃないか。使えない情報だな。
それにしてもエレガのやつ、なにをニヤニヤして人魚を見ているのか……
……あっ、こいつ!
「な、なんで裸なの!?」
「?」
ニンギョは、服を着ていなかった。代わりに、おっぱいには貝殻が貼り付いていて、大事なところは見えないようになっているけど……
「服着てたら、濡れるからじゃねーの」
「それもそっか……じゃなくてっ、見るなばか!」
「っ、アーッ!?」
冷静に考えれば、服を着たまま水には入れない。まあそれが理由かはわからないけど。
ともかく、エレガがニヤニヤしていたのは、ほとんど裸のニンギョを凝視していたためだ。
なので私は、エレガの目に指先で目潰しをする。
エレガは倒れた。
「ふぅ。……それにしても、結構大きいな。ルリーちゃんとどっちがあるかな」
「エランさんまで変な目で見るのやめてください!?」
ルリーちゃんをちらっと見ると、ルリーちゃんは胸元を隠してしまった。
別に、そんなつもりではなかったんだけど……こほんと咳払い。
改めて、ニンギョを見る。上半身は人間、下半身は魚……髪の毛は薄い青色で、瞳は海のように深い青だ。
この子、さっきからきょとんとしたままだな……こんな格好でも、恥ずかしくないのかな。
「さっきはありがト! おかげで助かったヨ!」
「えっ。あぁ、うん」
初めて見るニンギョを観察していたら、いきなり明るい声をかけられてしまった。
て、テンション高いな、この子。
「いやぁ、リーは人魚なのに、泳げなくってネ! 泳ぐ練習をしていたんだけど、溺れちゃって、どうなることかと思ってたんだヨ!
あ、リーはリーメイって名前なノ! よろしくネ!」
……なんか、すごい喋るよこの子。
ニンギョ……リーメイという名前の、女の子。下半身が魚なので、泳げるんだろうと思っていたし、実際にニンギョは泳げるものらしい。
なのに、リーメイは泳げない。だから、泳ぐ練習をしていたと。
まあ、人には得手不得手があるから、そこのところは深く突っ込むつもりはないけどさ。
なんか、明るい子だな。それに、語尾がいちいち高く声を上げているのが、なんかかわいらしい。
見た感じ、私たちと同じくらいってところだろうか。
「ねえ、クロガネはニンギョ族って知ってる?」
『名前くらいはな。人魚族は、あまり人前に姿を現すものではない。主に水中で生活しているからな』
普段は水中で生活しているのか、ニンギョって。それを見ることができるのは、ラッキーってことなんだろう。
リーメイの場合、泳げないなら普段は陸地で生活しているのだろうか。
主に水中で生活しているってことは、ニンギョは陸地でも生活はできるんだろうし。
「あの、なんとなく助けちゃったけど……」
「うん、ありがト!」
「……どこか、近くまで送ったほうがいい?」
「ところで、あなたのお名前ハ?」
「えっ、あ、あぁ……まだ名乗ってなかったね。エランだよ」
「エラン! いい名前だネ!」
おおぅ、この子なんだかすごくマイペースって感じだ。
ただ、話していて不思議と楽しくなるな。
「エランたちは、ドラゴンに乗って魔大陸からお散歩?」
「いや、魔大陸に飛ばされちゃって、今から元の国に帰るところだよ」
クロガネに乗って魔大陸からお散歩……そう見えちゃうのか。
それは違うと否定して、軽く説明する。
するとリーメイは、目を輝かせた。
「エランの国! 人間の国!? リー、行ってみたイ!」
手を組むようにして、人間の国に行ってみたいと、口にした。
1
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる