史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
508 / 1,141
第八章 王国帰還編

496話 ここから出よう

しおりを挟む

「ねえ、ヨルはこれから、どうするつもりなの」

「……どうするって?」

「そりゃあ、ずっと捕まってるつもりなのかとか……」

 幸い、ここには見張りはいない。いたとしても、出入り口の扉の前によくて二人だ。
 なんたって、魔力封じの手枷を付けていて、唯一の出入り口は一つ。

 地下だから壁を壊して脱出することもできないし、そうしようと思えばあの扉を通るしかない。

「出ようと思えば出られる。そうでしょ?」

「……」

「え、そうなんですか?」

 私の問いかけに、ヨルは反応しない……けれど、ルリーちゃんが驚いた様子で反応した。
 自分の手首に嵌められた手枷を、じっと見つめる。

「でも、魔力を封じられているのにどうやって……」

「そりゃ、魔力を使わずに、だよ」

「?」

 ルリーちゃんが、きょとんとした様子で首を傾げている。

「えっと……」

「ほら、封じられてるのは魔力だけでしょ? だから見張りの兵士をぶん殴って気絶させれば、そいつが持ってる鍵を奪い取って手枷は取れるでしょう?
 こういうのって、見張りが鍵を持ってるのがお約束だし」

「な、なるほど…………ちなみに、この檻からはどうやって出るんですか?」

「へ? そりゃ、力任せにパキッと」

「……魔力を使わずに?」

「そりゃ、使えないからね」

「……」

 どうしたんだろう。ルリーちゃんの疑問に答えたつもりだったのに、ルリーちゃんが黙ってしまった。
 まるで私が、なにを言っているのかわからない……と言わんばかりだ。

 いやだって、この檻だって新品ならともかく所々さび付いてるし、力任せにぶん殴ったら壊せると思うんだ。
 ……壊せるよね?

「あはははっ、やっぱりエランは面白いな」

「!」

 ふと、さっきまで静かに答えていたヨルが高らかに笑い出す。
 そんなにも私はおかしなことを言っただろうか。

「ふぅ。なんか、相変わらずで安心したよ」

「それは褒めているのかい?」

「もちろん。
 というか、今までどこに行っていたのさ。みんな、心配してたぞ」

「それはまた、追々ね。
 それより、みんな無事なんだよね?」

「それも、追々な。
 ……ここから出た後に」

 どうやらヨルも、ここから脱出する考えになってくれたようだ。
 とりあえず脱出して身を隠す……それと同時に、今の状況を把握していく。

 黒髪黒目の人間は捕まえろ、なんてことになってるなら、兵士に見つからないように身を隠した方がいいもんね。
 ピアさんや街の人たちが私を見てもなにも言ってこなかったから、黒髪黒目の人間は捕まえろっていうのは兵士にしか伝えられてないものなんだろう。

 そうじゃないと国中パニックだもんね。黒髪黒目を探し出せーって。
 はぁ、私の分も認識阻害の魔導具買っておけばよかったなぁ。

「……」

 ……そこまで考えて、思う。エレガたちはここに置いていってもいいんじゃないか。
 元々、こいつらを引き渡すつもりでここまで連れてきたんだし。

 身を隠して行動するなら、人数は少ない方がいい。
 ……でもなぁ。

「んー……」

「なんだよ」

 こいつらから目を離すのは、なんだかよくない気がする。
 そもそもレジーを捕まえた時だって、いつの間にかエレガたちが助けて解放しちゃったみたいだし。

 考えたくはないけど、まだこいつらの仲間がいないとも、限らない。

「ま、仕方ないか。
 ……ヨル、ヨルって身体能力に自信はあるの?」

 とりあえずこいつらは連れ回すとしよう。
 この手枷さえ外れれば、『絶対服従』の魔法もまた効果を発揮するはずだ。

 ひとまずは、全員でここを出るか。

「そりゃもちろん。なんたって、異世界転生の特典で身体能力も大幅にアップしてるからな。
 魔力がなくても、その気になれば一人でも脱出できる」

 うん、なに言ってるのか半分くらいよくわかんないけど、自信があるというのならその言葉を信じよう。
 なるべく、手早く静かに済ませてしまいたい。だけど、それは難しいかな。

 それに手枷をしたままだから、なかなか難しいかもしれない。
 難しいかもしれないけど、やるしかない。

「よし」

 私は、目の前の柵を両手で掴む。
 そして力を込めて……両側へと、開いていく。

「ぬぐぐぐぐ……!」

 精一杯、力を込める……けど、柵はびくともしない。
 固く、冷たい柵。こんなの簡単に壊せると思ってたけど、わりと固いぃ……!

 魔力は封じられてるけど、筋力はそのまま……
 でもこれよくよく考えたら、筋力とかあんまり関係ないんじゃあ……!?

「うぎぎぎぎぎぃ……ぬ、ぉおおおお……!」

「わっ……?」

 目を閉じて、渾身の力を込めて柵を左右に引っ張っていく。
 ギギギ……という音が聞こえたけど、今はとにかく、力いっぱいに引っ張るだけだ!

 そうじゃないと、ルリーちゃんたちがここから、抜け出せな……

「す、すごいです! エランさん!」

「へ……?」

 隣から、喜んだようなルリーちゃんの声が聞こえた。
 私はゆっくり、目を開くと……そこには、まっすぐに立っていた柵がそれぞれ左右へと、ぐにゃりと開いた光景があった。

 これなら、人一人は通れる! ここから、出られる!

「すごーい、エランすごーい!」

「いやぁ、あははそうかなぁ」

「……化け物かよ」

 喜ぶ私たちを見ながら、エレガたちが顔をひきつらせてなにかを言っていたけど、私は聞いていなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。

さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。 荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。 一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。 これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...