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第八章 王国帰還編

497話 ぶん殴って速攻でキメるよ

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 とりあえず柵は一人分通れる感じに開いたので、一人ずつ通ることに。
 音をさせないように、慎重にだ。

「ふぅ……ヨル、そっちはどう?」

 ルリーちゃん、ラッヘ、リーメイ……と続いているのを横目で確認しつつ、私はヨルのいる牢屋へと話しかける。
 ヨルも同じように、力任せに檻から出てくるんだろうか。

 そんなことを思いながら、じっと奥を見つめる。

「あぁ……大丈夫、問題ないよ」

 そう言って、キィ……と鉄柵の扉が開く音が聞こえた。
 そういえば、ヨルはゴルさんの使い魔サラマンドラを投げ飛ばすくらいの力があるんだったな。よかった、ちゃんと開いて……

 ……開いた? 鍵が締まってるのに? こじ開けたんじゃなくて?

「ヨル、今のどうやって……っ、どうしたのそれ!」

 出てきたヨル、コツコツと聞こえる足音に問い掛けるけど……
 それが気にならなくなってしまうくらいに、私は衝撃を受けた。

 なぜなら、姿を見せたヨルの顔は……頬が、腫れあがっていたのだから。

「やあエラン、久しぶり。こうして話すの考えたら、それこそいつぶり……」

「そ、それよりも! その顔、どうし……」

「エランさんっ、声を……」

 あはは、となんでもないように笑うヨル。絶対なんでもない様子に私は疑問を畳みかけようとするけど、小声でルリーちゃんに注意される。
 そうだ、大きな声を出して気付かれたら、面倒だ。

 私は口を押さえつつ、ヨルに視線を送った。

「どうしたの、その顔」

「いやあ……たいしたことじゃないよ。ただ、ここに連れてこられる途中に、殴られたりして……」

「……!」

 たいしたことじゃない、と言いつつ告げられるその内容に、私は言葉を失った。
 ここに連れてこられる最中に、殴られた……だって?

 なんだそれ、なんだよそれ。

「どうやら、今回の犠牲者の中に、兵士の家族がいたみたいでね。まあ……憂さ晴らしみたいなものか」

 腫れた頬に触れつつ、ヨルは言う。
 つまり……今回、魔獣を放ち国中がパニックになった件で、犠牲になった人は当然いる。その中に、ヨルを捕まえた兵士の家族もいた。

 今回の事件の首謀者の仲間……だと思われたヨルが、八つ当たりで殴られたというのだ。

「そんな顔をするなよ。気持ちはわかるし……」

「だからって、顔が腫れちゃうまで……」

 家族を奪われた人の憎しみや悲しみは、計り知れない。
 だから、犯人の仲間に八つ当たりしたい気持ちも、わからなくはない。

 でも……これは、濡れ衣なのだ。ただ、髪と目の色が黒いだけなのに。

「エランさん、全員出ました」

「……うん」

 ルリーちゃんの言葉に、軽く深呼吸をして落ち着く。
 今はとりあえず、ここから出ることが先決だ。

 この場所は、出入り口は一つ。見張りは扉の外にいるとして、多くて二人……いや三人だろう。見張りなしってのは考えにくい。
 通路はまっすぐ狭い道。階段があって、二人が並んで通れる広さはない。

 この場所には何回か来たことがあるし、そもそも道は一つだから迷いようがない。

「とりあえず、この手枷を外れたらその傷治してあげるから。それとも、回復魔術は使えるの?」

「お、エランってばやっさしー。使え……るけどエランに治してほしいなぁ」

「……なんだ今の間は」

 さて、と。私と、サラマンドラを投げ飛ばす力の持ち主ヨルなら、魔力がなくても兵士くらい倒せるだろう。
 そして、倒した兵士から手枷の鍵を奪い取る。

 もし持ってなければ……その時は、その時だ。

「見張りが二人なら、私とヨルで一人ずつ。一人なら、一斉に。三人なら……」

「あー……多分、外にいる見張りは二人だ」

「……確かに、感じる魔力は二人分だけど。魔力を感じない場合も、あるじゃない」

 人間は、誰しも魔力を持っている。魔導を扱える扱えないは別として、魔力は誰でも持っている。
 だから、集中すれば相手の魔力を感じ取れる……それでも、完ぺきではない。中には、魔力が小さい人間だっている。

 感じ取りにくい人間だって、いるのだ。
 でも、ヨルは……断言、している。

「そこにいる人数くらいは、わかるよ」

「なんでさ」

「転生者特典ってやつ!」

 ……また出たよ、わけのわからない言葉が。

「……まあ、いいや。じゃ、二人って前提で行こう」

「お、信じてくれんの?」

「多くて三人だと思ってたし。いくら予想しても予想は予想だから」

「あの……私たちは、なにもしなくても?」

「うん、大丈夫。むしろ、大人数で暴れたらかえって動きにくくなるから」

 元々罪人を閉じ込めておく場所だから、暴れるような場所ではない。
 この狭い空間では、下手に暴れない方がいい。

「二人で、大丈夫なんですか? 相手が、魔法を使ってきたら……」

「そうならないように、ぶん殴って速攻でキメるよ。それに、こんな場所で魔法を撃つバカはいないよ」

 ……なんか、自分の胸にブーメランが返ってきたような気がする。
 以前、洞窟ダンジョンで魔術を放ったのは誰だって? あっはっは……

「速攻とか、すげー自信だねぇ」

「ヨルは、自信ないの?」

「まっさか。なんなら、どっちが先に仕留めるか競走する?」

「はっ、ガキだねぇ。いいよ、面白そう」

「えっ」

 ルリーちゃんが、驚いたような声を漏らした。
 私たちは扉の前に、屈みドアノブに手を伸ばす。

「じゃ、三、二、一で行くよ。
 ……そういえばさっき、どうやって扉の鍵開けたの?」

「そりゃ、鍵の部分を壊せば扉は開くだろう」

「……なるほどね。
 じゃあま、行きますか。三、二……」

 一……と、扉を開け放ち、私たちは外へと飛び出した。
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