史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第八章 王国帰還編

582話 本心はどこ

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 お城を出た私は、とりあえず魔導学園へと向かっていた。
 今日は、朝から学園に行って先生たちから私がいなくなった後のことを聞き、それからゴルさんのお見舞いに行って、みんなでお城に……と。
 なかなかのハードスケジュールだ。

 洗脳が解けたことで、ゴルさんが対応してくれている。どうやら、映像を流せる魔石を使って国中に状況を説明するみたいだ。
 今だって、あちこちでゴルさんがしゃべっている映像が流れている。

 こうして見ていると、やっぱりゴルさんって顔がいいよねぇ。

「……ま、こっちはゴルさんに任せておけばいいだろうけど」

 問題は一つ、解決した。でも私には、もう一つ問題が残っている。
 私にとっては、こっちのほうが大きな問題かもしれない。

 クレアちゃんのことだ。
 昨日会って話したけど、取り付く島もなかった。あのときは、あれ以上会話は続けられなかったけど……

 今度こそは、ちゃんとお話をしたい。
 とは思っているけど……

『契約者よ、浮かない様子だな』

 頭の中に声が響く。クロガネだ。

「うん……クレアちゃんのことを思うと、どうしたらいいかわかんなくなっちゃってね」

『らしくないな。考え事などせずに行き当たりばったりぶつかっていくのが契約者のやり方だろうに』

「……それは褒められてないよね?」

 まだ会って数日のクロガネにこう思われているのか、私。私だっていろいろ考えているんだよ。
 ……考えているんだよ?

「ま、いくら考えても答えが出そうにないってのはそうなんだろうけど」

『本人と話し、お互いに納得できるまで向き合う。それしかないと思うがな』

 お互いに納得できるまで、か。
 ダークエルフを恐れていることに加え、一度死んだ身で生き返った。それが、クレアちゃんに恐怖と混乱を与えている。

 本当なら、ルリーちゃんと話してもらいたい。ルリーちゃんだって、クレアちゃんに生きていてほしいと思ったから、生き返らせたんだ。

「……クロガネはさ、一度死んだ人が生き返ったら、どう思う? その子は、とっても仲良しの子なの」

『ふむ……それは難しい問いだな。我々にとって、同族であろうと馴れ合うことは基本的にはしない。
 仲の良い相手というのはいないし、いたとして死んでもわざわざ生き返らせようとまでは思わぬ。たとえ方法があったとしてもな』

「……そっか」

 クロガネの答えは、ある意味では予想通りのものだった。
 種族が違えば、考えも違う。クロガネはドラゴンだし、仲良しの子が死んだら……なんて言われても、ピンとこないんだろう。

 少しドライな考え方に思えるけど……でもま、そういうもんなんだろう。

『死した者が蘇る……世の理で考えれば、それは間違っていることなのだろうな』

「……間違ってる、か」

『それは時間の流れに逆らうも等しいことだからな。ダークエルフが好まれない理由の一つがそれだ。
 大昔には闇の魔術により死者を蘇生させ、死者の軍団で一国を滅ぼしたことがあるとも聞く』

 やっぱり、闇の魔術ってのも人々に受け入れられない理由なんだろうなぁ。
 だって闇の魔術って、言葉が悪いよ。闇って、絶対いいイメージが浮かばない。

 それに、大昔にそんな大変なことがあったのなら……それも、嫌われる理由に含まれている。
 クロガネが大昔って言うくらいだから、私には及びもしない年月なんだろうけど。

『ダークエルフの闇の魔術、蘇った者の魂の在り方、そして周囲の反応……それを思えば、蘇生した娘の心情は今や押し潰される手前だろうな』

「……やっぱり、生き返らせないほうがよかったってこと?」

『さあな。それは、本人に聞いてみねば。我は、契約者たちの人間関係にまで口を出すつもりはない。
 だが……結局は、自分たちがどう感じるか、だと思うぞ』

「……どう感じるか、か」

 生き返ってよかったのか、それとも……?
 クレアちゃんは、ダークエルフや闇の魔術で蘇生したことに押し潰されそうになっている。けど、クレアちゃん自身はどう思ってる?


『……こんな体にされるくらいなら、あのとき死んでたほうが、よかったよ』


 ……クレアちゃんはあのとき、あのまま死んだほうがよかったと、言っていた。
 それは、本心なのか……それとも自棄になってしまったから出た言葉なのかは、わからない。

 どちらにしても……死んでた方がよかったなんて、言ってほしくなかったな。

「死んでた方がいいって、言ったんだよ。クレアちゃんは」

『ならば、今からでも望みを叶えてやるがいい。契約者がやりにくいのなら、我が手を下そうか?』

「!」

 頭の中に響くクロガネの声は、とても冷たい。
 まさか、私にクレアちゃんを……殺せって言うのか? それがクレアちゃんの望みだから?

 そんなの、頼まれたってごめんだ。
 それに、クロガネに任せるのだって……

「クロガネ、私は……」

『……本当に死んだ方がいいと思うならば、自分から行動に移すはずだ。
 そうしていない時点で、本心は別のところにあるのではないか?』

「……!」

 さすがにクロガネの言葉でも、許容できない……だから、言葉をぶつけようとした。
 だけど、それよりも先にクロガネの言葉が響いた。そしてそれに私は、はっとさせられた。

 死にたいなら、そうするだけの時間はあった。でも、クレアちゃんはそうしなかった。
 部屋に引きこもって、食事にも行かない。でも、サリアちゃんが持ってきてくれる食事には手を付けた。

 もし本当に死にたいという気持ちがあるなら、なんにも手をつけず……いや、部屋から飛び出して、高い所から飛び降りるなりすればいい。
 でも、そうしなかった。
 それは、つまりクレアちゃんは……

『ついたようだぞ』

「……」

 そう、私の中で考えがまとまりつつあった時……クロガネの言葉に足を止め、視線を上げた。
 魔導学園に、ついていた。
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