史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第八章 王国帰還編

585話 協力してほしい

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「えっと……いい、の?」

 私は思わず、間の抜けた声を漏らしていた。
 でも、それも仕方のないことだとは思う。

 ルリーちゃんのことを、エルフ族だと勘付いていた先生。
 認識阻害の魔導具では、自分の種族としての認識をずらすことはできても、魔力まではごまかせない。

 先生の持つエルフ族の"魔眼"、それによりルリーちゃんの正体を知ったのだとすれば不思議はない。
 だけど、ダークエルフだとまではわかってはいなかった。
 私は、一か八かとそれを明かして、先生に協力を申し出たのだけど……

「いいよー」

 先ほどと同じ答えが、返ってくる。
 断られる前提ではあったし、もちろん断られたところで根気強く説得するつもりだったけど……

 なんともあっさりした、その承諾に。私の方がきょとんとしてしまった。

「ん、どうかしたいかい」

「あぁ、いや……まさか、そんなあっさりとうなずいてくれるとは、思わなかったから」

 エルフはダークエルフを恨んでいる……それくらいの認識だ。
 現に、ルリーちゃんの過去では……エルフがダークエルフを恨んでいないか、それを心配されていた。

 結果として、そのエルフはダークエルフの村に住むことになった。
 そこにいろんな考えはあったんだろう。エルフみんなが、ダークエルフを恨んではいないということだろうか。

「私が言うのもなんだけど……ダークエルフだよ? いいの?」

「ははは、本当にキミが言うのもなんだね。
 いいよ。だってそもそもオレオレ、エルフとダークエルフの確執とかどうでもいいし」

 ケラケラと笑いながら言うその姿に、やっぱり嘘は感じられない。

「だってもう何百、何千年と昔のことでしょ? そんなんで現在まで嫌うなんて、オレオレには馬鹿馬鹿しく感じられてね」

「……そうなんだ」

「あ、けど勘違いしちゃいけないよ。今のはあくまで、エルフオレオレがダークエルフに感じていることだから。
 人種族の感じている気持ちは、また違うものだからさ」

 かなり昔のこと……そのことで恨みを持ち続けるのは難しい。
 だから人種族も……そう思ったけど、やっぱりそううまくはいかないようだ。

 人種族には、ダークエルフに関して本能的な恐怖が刻み込まれているという。『呪い』だ。
 みんなのダークエルフに関する気持ちを整理するには、その『呪い』をどうにかする必要があるだろう。

「それで、協力……だっけ?」

「!」

 先生が、話を戻す。
 あまりにあっさりしていたから唖然としてしまったけど、元々は先生に協力を求めたのがきっかけだ。

「察するに、そのダークエルフの子と、ウチの組のアティーアちゃんが関係あるみたいだけど……
 ……場所を、変えようか」

「うん」

 今、学園に残っている生徒たちはほとんどが、集会場の中に集まっているだろう。
 とはいえ、こんな場所で話をするには、内容がよろしくはない。
 なので、移動する。

 私たちがやって来たのは、校内の教室の一つ。
 誰もいないことを確認して、教室に入り、扉を閉める。

「ま、人払いの結界を張ったから誰も来ないよ。安心していい」

「人払いの結界」

「そ。エランちゃんも、グレイ師匠に習ったんでしょ?」

 教卓に座り、得意げに話す先生。
 その言葉に、私はうなずいた。

 以前、校内で"魔死事件"が起こった時、私は人払いの結界を張った。
 なぜそんな結界を張ることができたか。それは、師匠に習っていたからだ。

 グレイシア師匠を師匠というこの人も、結界を習ったっていうことか。

「本当に師匠の弟子なんだ」

「あれ、まだ信じられてなかった!?」

「冗談ですよぉ」

 それにしてもこの人、魔導の腕もさることながら"言霊"なんて未知の力も使うし、こんな結界まで使えるなんて。
 胡散臭い変なエルフだけど、実力者であることは確かなんだよなぁ。

 ま、それは置いておいて。
 人も来ない、誰も聞いていない。二人きりのこの場所で、私は事情を話す。

 ルリーちゃんのこと。クレアちゃんのこと。二人の関係にヒビが入り、このままでは仲違いしてしまうこと。

「……なるほどね」

 事情を聞いた先生は腕を組み、何度もうなずいていた。
 考えてみれば、私やルリーちゃん、ナタリアちゃんとは違いちゃんとした大人だ。それも、エルフだからかなりの年月を生きている。

 ルリーちゃんも、エルフ族って点では私たちよりよっぽど長生きなんだろうけど、そこは今は考えない。
 どのみち、エルフ族の中でも子供のルリーちゃんと、大人の先生。ここにも差はある。

 大人として、どんな意見をもらえるのか。ちょっと興味がある。

「死者を生き返らせる闇の魔術ねぇ……聞いたことはあるよ」

「本当に?」

「ダークエルフの使う禁忌の術、ってね。
 ただ、実際に見たことはない。ダークエルフに会ったことさえ、ずいぶん昔に数度程度だ」

 それから先生は、天井を見上げた。
 考えをまとめているのだろうか。

「……これはちょっと、難しいんじゃないかなぁ」

 やがて、先生は……いつもの口調で、いつもなら言わないような暗い言葉を口にした。

「それって……」

「ただでさえ、人種族はダークエルフを嫌悪している。そこに加えて、ダークエルフの闇の魔術で動く死人になりました……
 こんなのもう、関係修復不可能でしょ」

 あっけらかんと言うその態度に、私はつい声を荒げずにはいられなかった。

「でも! 私はルリーちゃんとクレアちゃんに、また前みたいに仲良くなってほし……」

「それは……キミのエゴだろう? その、ルリーちゃんってのもそう思ってるんだろう。
 けれど、一番大事なのはアティーアちゃんの気持ちだ。今まで友人と思っていた子がダークエルフで、そのダークエルフに動く死人にされた。よほどの理由でもないと、話すらしてもらえないだろうね」
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