史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第八章 王国帰還編

598話 三日後

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「……そう、ですか」

 ルリーちゃんたちのところに戻った私は、迷った結果クレアちゃんの言葉をそのまま伝えることにした。
 下手にごまかしても、意味がなさそうに思えたからだ。

 それを聞いたルリーちゃんは眉を下げ、困ったように笑っていた。

「やっぱり、ショック、だよね」

「……それは、そう、ですね。でも、予想していた範疇ですから」

 予想していた、か。
 どれだけキツい言葉をぶつけられるのか。ルリーちゃんの中でも、覚悟はできていたのだろう。

 それでも……実際に言われたのは、想像を超えることだろう。

「……一応聞くけど、クレアくんの体がおかしくなるという知識は、あらかじめ持っていたのかい?」

「いえ……知りませんでした」

 ナタリアちゃんの質問に、ルリーちゃんは首を振って答える。
 クレアちゃんはあれ以来、眠くもならないしお腹も空かない。そんな体質の体になってしまった。

 クレアちゃんを生き返らせたルリーちゃんなら、事前に知っていたのかとも思ったけど……

「そんなことに、なっていたなんて……私……!」

 ルリーちゃんは青ざめ、顔を手で覆っていく。
 まさか自分の魔術で、クレアちゃんがそんな状態になっているとは、思いもしなかったのだろう。

 ただでさえ、あの直後に魔大陸に飛ばされて、クレアちゃんとは離れ離れになってしまったんだ。
 たとえ事前に知っていても、説明はできなかっただろう。

「しっかし、ダークエルフへの恨みもこれでいっそう強固なものになったんじゃないの」

「ちょっと先生っ」

 元々のダークエルフへの嫌悪に加えて、クレアちゃんの身に起こったこと。それを起こしたダークエルフを、個人的にも恨むだろう。
 それは事実かもしれないけど、ルリーちゃんに追い打ちかけるようなことは言わないでよ。

「大丈夫ですよエランさん。覚悟は、してますから」

「んん……」

 覚悟してるって言ってもなぁ……元々ルリーちゃんは、ダークエルフの立場を良くしたいからこの学園に来たんだ。
 現状、良くするどころか友達にさえ嫌われてしまっている。

「そ、それより、決闘の日時……ですよね」

「うん、そうだね……」

 ルリーちゃんの言葉に、意識を切り替える。
 クレアちゃんは、いつでもいいと言っていた。だから、これは本当にルリーちゃん任せだ。

 自然と私たちからの視線が集まる中で、ルリーちゃんはうんと考えるように顎に指を当てて……しばらく沈黙。
 それから、ゆっくりと顔を上げる。

「……三日後、はどうでしょう」

 と、私たちの顔を見ながらそう言った。

「三日か……思ったより早いな。なにか、理由でもあるのかい?」

「あ、理由というかその……あんまり期間を長くしても、お互いもやもやするだけなので」

 三日後と聞いたナタリアちゃんの質問に、ルリーちゃんは自分の指先を絡めながら答えた。

 三日という数字に意味があるわけではないけど……決闘までの期間が長いと、それだけお互いに気持ちの負荷が大きくなる。
 だったら、さっさと決闘をしてお互いスッキリしてしまおうというわけだ。

 たとえ勝っても、負けても。

「三日なら……なんとか、耐えられそうかなって」

 自分の、豊かな胸元に手を置いてルリーちゃんは話す。
 クレアちゃんの気持ちを知った以上、きっと今押しつぶされそうな気持ちになっているだろう。

 逆に、クレアちゃんも……ルリーちゃんがいなかった間、そして帰ってきてからと、二つの意味で負担がかかっている。
 それを解消するには、決闘をしてスッキリするしかない。

 ……三日後には、ルリーちゃんがこの国を去らなくちゃいけなくなるかも、しれないのだ。

「わかった。なら、クレアちゃんにもそう伝えるね」

「はい、お願いします」

 三日だと、準備らしい準備もそうはできないだろう。
 特にクレアちゃんなんか、大丈夫なのだろうかと思ってしまう。

 でも、いつでもいいと言っていたんだ。大丈夫なのだろう。
 準備期間が短いのは……お互い様ということだ。

「ただ、一つ懸念がある」

 すると、ナタリアちゃんが口を開く。
 どうやら、懸念があるみたいだけど……なんだろう?

「決闘に際して、別に細かなルールを決めようってわけじゃないけど……ルリーくんは、闇の魔術を使うつもりなのかい?」

 決闘では、いくつかルールを決めることがある。
 私とダルマスのときのような、授業の一環としてのものでも。武器は一つだけとか、そういうのがあった。

 たとえば、魔術は禁止だとか。そういうものもあるだろう。
 そして、クレアちゃんは魔術を使えない。だから公平を期すために……という理由では、ない。

 今クレアちゃんは、闇の魔術で生き返った体に苦しんでいる。そんなクレアちゃん相手に、闇の魔術を使えるのか。
 また新たなトラウマを、植え付けてしまいかねない。

「……いえ、魔術は使いません」

 ナタリアちゃんの疑問に、ルリーちゃんははっきりと、そう言った。
 ダークエルフは、普通の魔術は使えない。魔術を使うためには精霊さんと仲良くなることが必須だけど、ダークエルフは精霊さんではなく邪精霊に好かれるのだという。

 その関係で、ダークエルフは闇の魔術しか使えない。
 その闇の魔術を使わないということは……ルリーちゃんも、決闘では魔術を使わないということだ。
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