史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第九章 対立編

603話 お茶でも飲みなさい

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 ウーラスト・ジル・フィールド先生が師匠と言うほど尊敬しているという人間。彼が、この別空間に決闘の舞台を用意してくれた。
 部屋の奥から、その人は現れた。

「おー、よぉ来たのぉー、おー」

 間延びした声を持って出てきたのは、一人の老人。
 白いお髭は顎下まで伸びていて、眉毛もまた長い。というか太い。前見えているんだろうか、こっちから目が見えない。

 ローブを羽織っているその人は、私たちの姿を見てから最後に先生を見た。

「おー、みんなかわええ子たちじゃないか。お前もなかなかやりよるのー、おー」

「なんの話!?」

 なんか、マイペースな人だな……本当にこの人が?
 魔力も、人並みにしか感じないし……

 疑わしく思っている私の視線を知ってか知らずか、ジルさんは私を見た。

「おー、お前さんがグレイシア・フィールドの弟子だという、エラン・フィールドか」

「え、私のこと知ってるの?」

「おー、なかなこ有名人じゃからのー」

 ……なにが有名なのかは、聞かないでおこう。

「おー、せっかく来たんじゃ。お茶でも…という雰囲気でも、ないようじゃのぅ」

 場の空気を読み取ったのか、私たちの間に流れているのが和やかなものではないことを察したみたいだ。
 私としては、みんなとお茶をするのもやぶさかではないけど……

 クレアちゃんが、乗ってはくれないだろう。

「そうだね、悪いけど……早速、決闘の準備に取り掛かろう。
 といっても、必要なのは二人の心構えくらいだけど」

 先生がうなずき、それからルリーちゃんとクレアちゃんを見る。
 ルリーちゃんはナタリアちゃんの影に隠れるようにしながらも、クレアちゃんをチラチラと見ている。

 一方でクレアちゃんは……誰も見ていない。
 窓の外や天井など、興味なさげに見ている。今更だけど、とても人が変わってしまったようだ。

 いっそ別人だったらよかったのに、なんてことも思ってしまう。
 でも、クレアちゃんの中に流れる魔力は、クレアちゃんのものに間違いない。

「あ、えっと……」

「私はいつでもいい。さっさと終わらせましょ」

「ぅ……」

 ようやくルリーちゃんを見たかと思えば、クレアちゃんはギロリとにらみつけた。
 その視線に、すっかり萎縮してしまうルリーちゃん。

 これは……思ったよりも、ルリーちゃんの精神面が心配だ。
 考えてみれば、二人が再会するのは……ルリーちゃんがこの国に戻ってきてから、初めてのことだ。

 私からクレアちゃんの現状を聞いていても、それで覚悟をしていても……実際に会って、いつも通りにいられるわけがない。

「そうか。そっちのダークエルフの娘はどうじゃ?」

「あ、えっと……その……」

「……ちっ」

「!」

 クレアちゃんの答えを聞き、ジルさんは今度はルリーちゃんに問いかける。
 準備ができているか……その質問に、慌ててしまっている。そこに、クレアちゃんからの舌打ちが響いた。

 それを聞いたルリーちゃんは、固まって……徐々に、震え始める。

「ちょっと、クレアちゃ……」

「なによ。ここまで来てうだうだうだうだと……決闘日時を今日にするってあいつが決めたんでしょう。ならそれまでに覚悟は決めてきなさいよ。
 前からそうだったわね。いつもうじうじして後ろに隠れて。オドオドしてれば誰かが助けてくれると思ってるのか……そういうところが前から……」

「クレアちゃん!」

 あぁ、だめだ。このままじゃ、決闘云々の前にクレアちゃんの言葉にルリーちゃんが潰されてしまう。
 かといって、今の状態で決闘に臨んでも……結果は見えてる。どうしたら……

「おー、そういうときはまあ、茶を飲むといい。両者とも落ち着きなさい」

 すると、そこに割り込んできたのは……ジルさんだ。
 こんな修羅場に、先ほどまでと変わらない口調で。いつの間にか、手にはお茶が注がれた二つのグラスが握られている。

 表情は見えないけど、笑っているようだった。
 この場を和ませようとしているのか……

 でも、クレアちゃんはお茶を受け取らない。それを見て、ジルさんは……

「おー、ほいほい」

「! ぇ……」

 いきなり、クレアちゃんの体がふわりと浮いたかと思えば……近くの椅子に、座らされる。
 そして、お茶の入ったコップがクレアちゃんの口元に移動していく。

 まるで誰かがコップを持っているかのような丁寧な動きで、クレアちゃんの口にコップのふちが当てられ、傾き、お茶が流し込まれた。

「あれ……魔法で無理矢理座らせて無理矢理飲ませてるの?」

「そうそう。すごいでしょ、オレオレの師匠」

「うん、すごい」

 いろんな意味で。

 それからジルさんは、ルリーちゃんにも視線を向けた。
 肩を跳ねさせたルリーちゃんは、用意されたお茶に手を伸ばしごくごくと飲み込んだ。

「んくっ……ぷはぁ」

「おー、どうじゃ、少しは落ち着いたじゃろう」

「は、はい」

 正直、緊張でちゃんと味を確かめられたかは疑問だ。
 けれど、さっきまでの殺伐とした空気はなくなっていた。

「おー、それでは、決闘開始は今より三十分後としよう。それまで、心を落ち着けておくことじゃな」

 あんたが決めるんかい……とは思ったけど、それも仕方ない。それに、わりときりのいい時間だと思うし。
 二人とも、それで納得したようだ。まあクレアちゃんは不服そうだったけど。

 それに、クレアちゃんは一人小屋の外に出てしまった。心配したナタリアちゃんが、追いかけていったけど。
 ルリーちゃん、少しは落ち着けるといいけど。

 ……そして、あっという間に三十分が過ぎていった。
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