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第九章 対立編
605話 クレアvsルリー
しおりを挟む……舞台上には、二人の少女が立っていた。
一人は、ダークエルフの少女ルリー。もう一人は、下級貴族の家に生まれたクレア・アティーア。
二人の少女は、友達だ。……いや、友達だった。
少なくとも、ほんの少し前までは。
「く、クレアさん、あの……」
「なにもしゃべるな。構えろ」
おろおろした様子で話しかけようとするルリーに対し、クレアは取り合う素振りすら見せない。
魔導の杖を手に、腰を落として構える。視線はただ一点、憎きダークエルフのみだ。
二人の関係性が急激に拗れたのは、やはりあの魔導大会で起こった事件だ。
決勝の最中、無粋な乱入者が会場をめちゃくちゃにして……その中で、クレアは命を落とした。
「……っ」
物言わぬ死体となってしまった彼女を救ったのは、恐る恐ると魔導の杖を構えるルリーだ。
いや、この場合救ったのか……それともさらに苦しみを与える結果になったのか。あの時点では、誰にもわからなかった。
少なくとも、クレアは一度死に、ダークエルフルリーの手によって生き返った。
彼女の、闇の魔術によって。
「それでは両者、力の限りを尽くして戦うといい!」
二人の少女が構えたのを確認し、場に声が響いた。
この空間を作り出した、ジルによるものだ。老人とは思えないほどの声量。
場に緊張感が走る……が、それも一瞬だ。
「はっ!」
先に仕掛けたのは、クレアだ。
杖を前に突き出し、いくつもの氷の槍を放っていく。宙に生まれ出るそれは、狙いをルリーに定めている。
魔法とは、イメージが具現化したもの。使用者のイメージが魔力によって具現化し、それを魔法と言う。
氷の槍、火の玉、光の棘……イメージし、それらを具現化するための魔力が多ければ多いほど、魔法の手数は多くなり威力も上がる。
そう、イメージだ。イメージし、己の魔力を持って超常の現象を引き起こせば、それは魔法となる。
「……っ」
氷の槍は、ルリーを串刺しにする……そうなる未来は、訪れなかった。
ルリーに触れる前に、消えたからだ。いや、正確には防がれたからだ。
魔力障壁……自身の魔力を使い、透明な壁を生み出す。攻撃だけでなく、防御に転じることもできる。それが魔法だ。
さらに……
「あっ……!」
攻撃を防いでいる最中、ルリーが短く越えを漏らした。
視界に捉えていたクレアが、動き出したからだ。それも、並々ならぬ動きで。
身体強化の魔法。魔力を身体の一部または全体に纏わせ、文字通り身体強化をするというもの。
魔導を鍛えるにあたって誰もが通る道であり、シンプルな魔法。しかしシンプルゆえに、ある程度以上鍛えようとする者は少ない。
身体強化の魔法は、自身の魔力を操り身体に纏わせるもの。従って、ある程度魔力の扱いを覚えればそれ以上鍛えようとはせず、別の魔導を鍛える。
身体強化は、身体の一部に纏わせることができれば基礎は終了だ。
クレアは今、脚を魔力強化し、普段よりも数倍速く動いている。
「速い……けど!」
ただ真正面に突っ込むのではなく、右へ左へ、ルリーの気を散らそうとしている。
それを目で追うルリー。魔力障壁に阻まれる氷の槍が少し邪魔だが、その程度でクレアの姿を見失うことはない。
ルリーは……いや、エルフ族は目がいい。それは、エルフ族の目"魔眼"によるもの。
純粋な視力の良さはもちろん、魔力の流れを見ることもできる。
魔力強化で動いている相手を追うことなど、造作もない。
「せぇい!」
「そこ!」
一瞬姿を消したクレア。直後、ルリーの右側頭部へ蹴りが放たれる……が、それを魔力障壁で防ぐ。
バギィ……と鋭い音が鳴り、互いの魔力がぶつかった。
魔力強化されている脚から放たれる蹴りは、助走も加わり凄まじい威力を持っていた。
だが、ルリーの魔力もまた負けてはいない。一点に集中し障壁を作り出せば、それは膨大な盾となる。
「ちっ……」
蹴りを防がれたクレアは、無理に攻め込むことはなく一旦その場から飛び退く。
(私も、全身を魔力強化できればよかったんだけど……)
クレアは自身の脚をチラッと見て、再びルリーをにらみつける。
魔力による身体強化は、シンプルゆえに極める者は少ない。
だが、この学園に入って……いや、エラン・フィールドとイザリ・ダルマスの決闘を目撃し、少なくとも同じクラスの中での認識は変わった。
魔導剣士としてエランに挑むイザリ。それに対し、エランは魔力による身体強化……それも全身強化を持って対峙した。
それを見て、ただ基礎の通過点だと思っていた身体強化に、さらなる可能性があることを思い知らされた。
以降、クラスでは魔力による身体強化を極めるための練習があちこちで始まった。それはクレアも例外ではない。
だが、一部分のみの身体強化は簡単でも、全身となると難易度が跳ね上がる。早々に全身強化をものにしたイザリは、やはり魔導士として才能がある。
クレアは、まだ一部分の強化しかできない。
(ま、ないものねだりしてもしょうがないか……)
今の攻防、脚以外も強化できていれば、また違った結果が待っていたかもしれない。
とはいえ、使えないものを惜しむほど、無駄な時間もない。
クレアはルリーに注意しつつ、自分の拳を握りしめた。
(……力が、上がってる)
今出した速度、そして蹴りの威力。どちらも、クレアにとっては自分の予想を超えたものとなった。
もし魔導を鍛え、訓練していたなら、この結果にも納得がいっただろう。
だが、クレアは魔導大会の事件以降、部屋にこもっていた。魔導の訓練はおろか、体を動かすのだって久しぶりだ。
だというのに、以前よりも自身の魔力が上昇している。
これは、つまり……
「……っ」
クレアは奥歯を噛み締め……その原因となったであろう、ルリーを憎悪の瞳でにらみつけた。
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