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第十章 魔導学園学園祭編
700話 迷子はこちら
しおりを挟む「じゃーねー」
ガルデさんとフェルニンさんの二人に手を振り、見送る。二人は、これから私のクラスに向かうのだという。
二人のデートの邪魔をせず、かつ自分のクラスの宣伝もする。完璧だ。
ちなみに二人は、私たちのクラスの場所をパンフレットで確認していた。
その時、道に迷っていた私の脳内に電気が走った……パンフレットで現在地確認すればいいじゃん、と。
「いやあ、こんな簡単なことに気付かないなんてなーっと」
ポケットに突っ込んでいたパンフレットを取り出し、広げる。
適当に突っ込んでいたのと、走ったせいでくしゃくしゃになってしまっているけど、まあ見れないことはないし気にしない気にしない。
「うーん……わ、ずいぶん遠くにまで来たな」
師匠と思わしき人物を追いかけて走り回っていたけど、元いた場所から結構遠くにまで来ている。
私ってばどれだけ夢中だったんだよ。
……少し休んだのと、ガルデさんたちと話したおかげで、ちょっとは落ち着いたみたいだ。
「せっかくだし、私もいろいろ回ろうかな」
ネクちゃんたちには悪いけど、せっかく一人になれたんだ。お友達と学園祭を回るのは、私としても全然望むところだけど……
学園祭は五日あるんだ。だったら、今くらいは……
一人で、いろいろと回ってみようかな。
「わ、あれなんだろ」
近くに気になるものを見つけては、そちらに駆けていく。
一人だからこそ、自由気ままに動けるというものだ。
買い食いをしたり、初めて顔を合わせる人とお話をしたり……
学内学外、種族関係なく……楽しい時間を、過ごせている。
この中に、エルフ族もいればもっと楽しいんだろうけど……国内にいるエルフは多分、ウーラスト先生だけだ。
ダークエルフはまた、難しいんだろうけど。
「えーん、えーん!」
「お?」
お肉団子をもしゃもしゃ頬張っていた私の耳に、小さな子供だろう泣き声が聞こえてきた。
きょろきょろと周囲を見回して……いた。あそこだ。
駆け寄っていくと、確かに居た。小さな男の子が、座り込んで泣いている。
その周りには、困ったように数人の人たちがいた。
「どうしたんですか?」
私は、その中の一人に声をかけた。
「おや、この学園の生徒さんかい? それがね、どうやらこの子迷子になってしまったらしくてねぇ」
鹿顔のおばちゃんが、状況を説明してくれる。なるほど迷子か。
どうしたもんかと、みんな困ったように立っていたわけだ。
その中でも、男の子に目線を合わせて声をかける人はいるけど……
「泣いちゃってて、会話が成り立たないと」
これは……もしかしなくても、私の出番かもしれない!
「なら、ここはこの私にお任せくださいよ!」
「あら、いいのかい?」
「えぇ! 私、生徒会の一員ですから!」
どん、と胸を張る。
生徒会の一員として、迷子の保護というのは立派な仕事だ。自分のクラスの宣伝だけでなく、生徒会の仕事までしてしまうなんて私ったら偉い!
ま、生徒会じゃなくてもこの場面なら助けるけどね。
「生徒会……なにやら奇抜な恰好をしているけど、それは生徒会の装いなのかい?」
「いや、これは自分のクラスの……あ、よければどうぞ」
すかさず私は、自分のクラスの宣伝のためにチラシを一枚一枚配る。
宣伝のために、めいど服着て回っているだけの私ではないのだよ。
この場にいる全員にチラシを手渡し終え、泣いている男の子の側に屈んで頭を撫でる。
「とにかく、この子は私が保護しますんで。皆さんは、学園祭楽しんで下さい」
「そうかい? じゃ、お願いねぇ」
この子は私が保護し、お客さんには気にせず学園祭を楽しんでもらう……うん、完璧!
……で、あとはこの泣いている男の子だけど。
頭撫でただけじゃ泣き止まないか。
「うーん……キミ、名前は? 誰とはぐれちゃったの、お父さん? お母さん?」
「ぅえーん」
「うーむ……」
なるほど、こりゃ確かに会話が成り立たないな。
どうしたもんかな……あ、そうだ。
「これ、食べる?」
私は、手に持っていた肉団子を差し出す。最後の一個だけど、仕方ない。
すると、男の子は肉団子を見て、だんだん静かになり……
こくりとうなずいてから、それを受け取りパクパクと食べ始めた。
「ほっ」
うんうん、こういうときは食べ物が大事だよね。お腹空いてたから悲しくなっちゃうんだ。
お腹が膨れれば、少しは落ち着くさ。
「キミ、迷子でしょ? なら、お姉ちゃんについてきて」
「……うん」
迷子は、迷子を保護する場所がある。そこまで連れて行けば、安心だ。
私は男の子の手を取り、ゆっくりと歩き出す。男の子も、ちゃんとついてきてくれている。
……犬耳の、獣人の男の子か。フィルちゃんと同じくらいの年かな。
人も多いし、はぐれたら不安になっちゃうよね。
「えっと、キミ名前は……」
「はぐはぐはぐ」
「あはは、食べてからでいいよ。ゆっくりね」
男の子は肉団子に夢中みたいだ。おいしいもんね。
目的地につくまで男の子から話を聞きたかったけど、目的地につくほうが早かったみたいだね。
あとは、職員さんに事情を話して……
「あの! 獣人の男の子が、ここに来てませんか!? 犬耳の獣人で……」
すると、切羽詰まったような声が聞こえてくる。迷子を捜している、女の子のもの。
その特徴は、この子に一致している。もしかして……
そう思いながら、声の下へと向かうと……
「いえ、そのような特徴の子は……」
「なら、捜してください! あぁ、どうしよ、あの子一人で……」
「お姉ちゃん!」
困惑しているその子に、男の子は声をかけた。お姉ちゃん、と。確かに知り合いなのだ。
すると、女の子は驚いた様子で、声の方を……こちらを、見た。
……黒い髪が、揺れていた。
「あ、あぁ、よかった……よかった!」
そして女の子は、目に涙を溜めて、男の子に駆け寄ろうとして……
……足を、止めた。そして……
「……ニ、ル……?」
と、驚いていた表情がさらに動揺に染まっていくのが分かった。
ニル、と男の子を見つめながら…………
あれ? なんか私のこと見てない?
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