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第十章 魔導学園学園祭編
754話 魔導士のお姉さん
しおりを挟む……生徒会室へと向かいながら、私はカルさんに話しかけた。
「そういえば、そのスキンヘッドって冒険者じゃなかったっけ。でも、さっき周りの人が元、って言ってたし、カルさんもそんなこと言ってたよね」
そう、スキンヘッド男ことグリムロードは、Bランクの冒険者。Bランクとはつまり、ガルデさんたちと同じということだ。
こんな奴があの人たちと同じなんて、すごく納得がいかない。
実力はあるのかもしれないけど、あんな態度じゃあなぁ。
「あら、これが冒険者だってことは知ってるのね。
……そういえば、エランちゃんは冒険者ギルドのお手伝いに行ったことがあるのよね」
相変わらずスキンヘッド男をこれ扱いのカルさん。
私は以前、生徒会のメンバーとして冒険者の手伝いに行ったことがある。手伝いっていうまあ、社会科見学みたいなもんだ。
いずれ学園の生徒を冒険者と一緒にいろんな経験を積ませたいから、いわばそのテスト段階って感じかな。
生徒会と冒険者ギルドでそういう話があったようで、カルさんは私がそこでスキンヘッド男と知り合ったと思っているようだ。
「こいつは、前々から素行の悪さが問題になっていたんだけど……町中で、小さな女の子に絡んでいるのが問題になって、冒険者資格が剥奪されたみたいよ」
カルさんが言っているのは、以前憲兵のおじさんが言っていたことと同じだ。
スキンヘッド男の素行の悪さは、度々問題になっていた。本来なら、冒険者資格を取り上げるほどに。
でも、人手不足によりなかなか冒険者をやめさせられなかった。
ちなみに、人手不足の原因には"魔死事件"も大きく関わっていたようだ。あれで、冒険者も犠牲になったから。
「なんか、人手不足だったって聞いたけど」
「えぇ。それでも、今後も問題を起こすリスクを考えたら、冒険者で居続けさせるわけにはいかないっていうのが、ギルドの判断ね」
なるほどね。まあ、小さな女の子にまで絡むような素行の悪さなら、さすがに冒険者資格も剥奪されるか。
これもちなみに、その小さな女の子ってのはビジーのことだろう。
「で、冒険者でいられなくなって、なにをしていたかと思えば……」
「お祭りで人に絡む、か。どうしようもないな」
「あ、アニキを悪く言うなよぉ」
スキンヘッド男を連行し、ついでにヤモリ亜人にも着いてきてもらっている。
こいつは特になにかしたわけでもないけど、連れだし一応ね。
見た目は怖いけど、中身は全然そんなことない。
なんで、こんなのをアニキと呼んで付き従ってるんだろう。
「あなたは悪い人には見えないし、別にこんなのについて回る必要ないんじゃない?」
「な、なにを!? 小娘め……お、俺とアニキの秘話を聞いたら、そんなこと言ってられなくなるぜ! アニキがどんだけすごい人かって話をぉ……」
「あ、結構でーす」
なんか勝手に盛り上がり始めたヤモリ亜人は放っておいて、私はもう一人に視線を移す。
私たちと一緒に歩いている、女性。スキンヘッド男に絡まれていた人だ。
絡まれた被害者ってことで、一応話を聞くために着いてきてもらっているわけだ。
あと、個人的に気になることもあるし。
「お姉さんも魔導士、なんだよね?」
「はい」
お姉さんは、私を見て同じ魔導士、と言った。
この学園は魔導を使える生徒が集まっているし、魔導大国のこの国で魔導士同士ってのは珍しい話じゃない。
だけど、私が気になっているのはそんなことじゃなくて……
「ところで、なんだか警戒されていません?」
と、お姉さんは私の気持ちに気づいている。
ま、隠していたわけじゃないんだけどね。
「お姉さんは見た感じ、いい人なんだろうなってことはわかる。
それはそれとして、黒髪黒目の人間に私、いい思い出がないので」
「自分も黒髪黒目なのに?」
そう、警戒の理由はお姉さんの目の色にある。
黒い瞳……それだけで、私が警戒する理由は、これまでいろんなことがあったからだ。
黒髪黒目の人間はエレガたちのような、ダークエルフにひどいことをした人間ばかりだ。
さっきのスキンヘッド男が以前絡んでいたビジーだって、無垢な少女に見せかけて本当はエレガ側の人間だったし。
いい人に見える、ってのも残念ながらあてにはならない。
黒髪黒目と言っても、ヨルはそういうのとは無縁だ。それはそれとして、初対面で私に迫ってきたヤバイやつだ。
なんか『イセカイ』とか『メガミ』とか口走ってたヤバイやつだ。
「なにがあったかはわかりせんが、そんな警戒しないでくださいよぉ。ほら、私髪は黒じゃないんですよ」
困ったようにそう言って、女性は帽子を脱ぎ自らの銀色の髪を見せる。
銀髪って言うとダークエルフを意識しちゃうけど、銀髪ってだけならわりとどこにでもいるのだ。
「あ、本当だ……って、あれ。さっき目は黒じゃなかった?」
「あぁ、いつもは魔法で色を変えているんです。黒の瞳は目立ちますから」
「じゃあ髪も色変えてるんじゃないの」
「そんなことしませんよぉ」
銀髪も目立つには目立つが、それは私が身近にいるダークエルフを知っているからだろう。
本当に目立つのは、黒い瞳。黒い髪も目立つけど、それそれとして銀髪プラス黒い瞳ってのもなんだか人目を引きそう。
だから、魔法で瞳の色を変えているというのだ。黒い瞳は、本当に珍しいから。
「……めちゃくちゃすごいことやってる」
私はぼそっと、つぶやいた。
魔法によって、姿を消したり変装したりと、周囲と自分の認識をずらすことはできる。でも、それは形だけだ。
姿を消しても実体が本当に消えるわけじゃないし、変装してもその人の魔力の在り方まで変えることはできない。人は人、エルフはエルフみたいに。
瞳の色を変えるのは、実はかなり難易度が高い。
エルフの魔力の源が"魔眼"と呼ばれているけど、人の魔力が一番集中しているのも瞳だ……と聞いたことがある。
失明したら、大半の魔力が失われると言われるくらいに。
なので、魔力がもっとも集まっている部分に別の魔法をかけるのは、本当に難しいのだ。
「……」
この人、本当に何者なんだろう。
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