791 / 1,141
第十章 魔導学園学園祭編
778話 魔導と触れ合う場
しおりを挟むゴルさんのいるだろうクラスについたと思ったら、ここは違ったみたいだ。
なのでそれなりに楽しんでから、隣のクラスへ。
今度こそ本当に、ゴルさんがいるクラス。
ゴルさんと、そしてリリアーナ先輩も同じクラスだと言うし。二人はここにいるわけだ。
「さ、行こうかネクちゃん!」
「うぅ、生徒会長いませんように……」
クラスの出し物も楽しみだがゴルさんにも会いたい私と、逆にゴルさんには会いたくないらしいネクちゃん。
生徒会長であり第一王子でもあるゴルさんは、尊敬されると同時に恐れられてもいる。
ネクちゃんがその典型例でもある。
まあ、私も一緒だし大丈夫だ。
ということで、いざゆかん!
「こんにちはー」
元気よく声を出して、教室に入る。すると……
「わぁ……」
私のものかネクちゃんのものか、思わず声が漏れた。
だって目の前には、見渡す限りの草原が広がっていたから。
ここは……異空間だ。ナタリアちゃんのクラスと同じ原理なのだろう。
ただ、ナタリアちゃんのクラスとは違って巨大な迷路があるなんてこともないし。
「人がいっぱいだ」
見ると、そこら中にたくさんの人が居た。
これ全部、このクラスの出し物を見に来た人たちだろう。
そして、このクラスの出し物はなんなのかというと……
「魔法の……お披露目?」
生徒による、魔導を使ったパフォーマンスだ。
火を、水を、雷を……あらゆるものを操作しながら、それらを披露していく。
決闘や魔導大会で使っていた攻撃的なものではなく。人に魅せるためのもの。
天には光の炎が弾け、氷の玉がさんさんと降り注ぎ、雷が凍り氷像ができあがる。
お客さんたちは、それらを感心した様子で眺めていた。
「どうです、ウチの出し物は」
「! リリアーナ先輩」
いつの間にか、隣にはリリアーナ先輩が立っていた。
クラスで披露しているものを見つめながら、その表情は柔らかに笑っていた。
教室の外と中とを結界で分断し、一歩足を踏み入れればそこに広がるのは異空間。
そこでなら、大人数が入ることができるし。周りへの被害も関係なく、魔導を使うことができる。
「なんというか……すごく、きれいですね」
「でしょう。ここなら思い切りやれるだろうって考えて」
魔導とは本来こうあるべきだ……というのを表現したような出し物だ。
なんというか、うん……すごくいいよね。
それに、魔導のレベルもかなり高い。さすがは三年生だ。魔力の練度や使い方など、一つ一つの作業が丁寧だ。
「それに、異空間も広いし」
「これ自体は中庭やグラウンドでやってもよかったんだけど、他の場所の迷惑にもなるからね」
確かにここなら誰の邪魔にもならないか。
魅せるためにも、景色は綺麗だし。そういえば、異空間ってのは、天気とかどうなってるんだろ。ずっと晴れなのかな。
もしそうなら、天候が悪くなる心配もしないでいいわけだ。
「こんな広い空間を作れるなんて、さすがゴルさん」
「……いえ、この結界を作ったのはゴルドーラ様ではありませんよ?」
私が何気なくつぶやいた一言に、リリアーナ先輩が反応する。
そして、衝撃的なことを言うのだ。まさかこれが、ゴルさんの手によるものではないだと。
てっきり、ゴルさんがやったものだとばかり……でも、そりゃそうだよね。他にも魔力が高い人、いるよね。
三年生だもん。すごいのはゴルさんだけってわけじゃない。
私が知らないだけで、すごい人はたくさんいるんだなぁ。
「ここは、体験型ってよりも見るの専門家って感じなんだね」
「えぇ。お客さんに魔導に触れてもらい、様々な感性を刺激し楽しんでもらう。それが、このクラスの目標です」
なるほど。今までのクラスとはまた違った感じだけど、こういうのもいいよね。
まだ小さい子供はこれを機に、魔導に興味を持ち始めるかもしれない。大人だって、少しでも癒やしになってくれればいい。
みんなが見て楽しめる。これってすごく大事なことだよね。
「それに……ほら、使い魔と触れ合うこともできるんですよ」
「わぉ」
リリアーナ先輩が指したところでは、生徒の使い魔が召喚されそれとお客さんが触れ合っている。
その中でも、ひときわ目立つでかいモンスター……
サラマンドラが、いた。ゴルさんだ。
「でも意外と子供に人気?」
サラマンドラは、とにかくでかいし……なにより、怖い。それは、決闘で対峙した私がよくわかっている。
言っちゃ悪いけど、あんなの子供には怖がられてしまうのだと思ったけど……
サラマンドラの周りには子供たちが集まり、キャーキャーと楽しそうに笑っていた。
そして傍らのゴルさんも、それを見て微笑んでいる。
「ご、ゴルさんが笑っている……!?」
なにか不吉なことの前触れ!?
「失礼ですよエラン。ゴルドーラ様だって嬉しい時には笑います。少し仏頂面で表情に出すのが苦手なだけで、本当はとても豊かな方なのですよ」
「そ、それほ、褒めてるのか……?」
ともあれ、ゴルさんも満足しているならなによりだ。あんなに子供に群がられて嫌じゃないかと……
……いや。もしも嫌なら、そもそもサラマンドラを出してはいないか。
ここでは魔導、そして使い魔と触れ合える場なのだから。
10
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる