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第十章 魔導学園学園祭編
784話 反省の気持ちでいっぱい
しおりを挟むクロガネとサラマンドラの対決は、ウーラスト先生の介入で中断となった。
いいところだったのに、という気持ちがなくはないけど、決闘や試合でもないのに勝手にこんなことをしてお客さんを怖がらせて……反省の気持ちでいっぱいだ。
「まったく……」
すでにクロガネとサラマンドラの姿はない。魔法陣の中に戻っている。
私とゴルさんは、ウーラスト先生からのお小言を受けていた。
私はともかく、ゴルさんが誰かに叱られるというのもなんだか想像していなかった光景だ。
「今後は、こういうことは控えること」
「はぁい」
「わかりました」
ちなみに、私たちが隅の方で説教を受けている間、お客さんの対応はリリアーナ先輩たちがやっていた。
先輩たちも、私たちの行動を止めろと注意はされていたけど。
悪いのは私たちなので、グサグサ突き刺さっている。
『すまないな、契約者よ。つい、我を忘れてしまっていた』
「いや、それは私もだから」
頭の中で、クロガネが謝罪してくる。
確かに勝負に乗ったのはクロガネだけど、私も止めなかったし……むしろ、ノリノリだったし。
それにしても、すごい戦いだった。先生が止めてくれなければ、確かにどうなってしまっていたかはわからないくらいに。
「……先生は、あれどうやったの?」
だから私は、聞いていた。
あそこで先生が、なにか言って……それで、クロガネとサラマンドラの攻撃がかき消えたんだ。
……あれ? なにか"言って"……?
「あぁ、あれは"言霊"の力だよ」
なんだか思い出しそうなことを、先生の言葉で思い出す。
そうだそうだ、ことだまだ。それで、さっきの現象を起こしたってわけか。
以前、私はウーラスト先生に勝負を挑んだことがある。仮にも教師と生徒って立場だから、勝負というより授業の一環みたいな形になったけど。
そこで先生が使ったのが、"言霊"って魔導だ。
「"言霊"……言葉に魔力を宿し現象を起こす、といったものでしたか」
「そそ、そんな感じ」
ゴルさんの言葉的に、"言霊"ってのは三年生でも使える人はいないのかな。
そう。言葉に魔力が宿り、今までとは違ったアプローチで魔導を使うことができるようになるのが"言霊"。
言葉に宿った概念的な力を、精霊が物理的な力に変えてくれるんだとか。
だからあのときは、私の魔導のことごとくを"言霊"によって打ち消された。確かあのときは、"キャンセル"って言葉で言葉をかき消したんだっけ。
「"言霊"が強力なものだってのはわかってたけど、クロガネたちの攻撃まで消しちゃうなんて」
さっき言った言葉は……そう、"キャンセル"ではなくて"そこまで"だった。
それほどに強力なのが"言霊"ってやつなのか、それとも言葉によって性能が違うのか。
どっちにしろ、クロガネたちのあの攻撃を言葉一つで消すことができるってのは、とんでもないことだ。
しかも、"言霊"は魔法じゃなく魔術に近い。自分の魔力ではなく大気の魔力を使うって言ってたから、"言霊"を使うのは無制限……ということだろうか。
「ま、これが"言霊"の力よ。っても、さすがにあれを打ち消すのは堪えたよ」
得意げにしながらも、さっきのは堪えた、とも言う先生。
あははと笑ってはいるが、どことなく疲弊が見える。
……もしかして、"言霊"は使う度に精神力が疲弊するんじゃないだろうか。
魔術に近いって言うなら、使用の度に精神力が削れていっても……おかしくはない。
それも、あの規模の攻撃を打ち消したんだ。疲労がかかるとしたら、相当なもののはず。
「先生に無理を強いてしまい、申し訳ありません」
「わかったから次からはああいうことやめてね~、ホントに」
どうやらゴルさんも、同じようなことを思ったようだ。
さっきの"言霊"は、先生に結構な負担をかけてしまった。ぱっと見そうだとわからないのは、さすがと言うべきか。
言葉に魔力を宿す"言霊"。言葉に魔力が宿すことができれば、誰でも使えるのだろうけど……
「難しそう……」
その、言葉に魔力を……ってのがいまいちピンとこない。
もしかしたら魔力に敏感なエルフだからこそ、使えるものなのかもしれない。
……そう考えると、魔力の流れを感じ取る素質が高いキリアちゃんは"言霊"を使える可能性が高いのかも?
「そういえば、今さらだけどなんで先生がここに?」
「オレオレは一応生徒会副顧問だからね、やることがいろいろあんのよ。
で、見回ってたらこのクラスが騒がしいことになってるって聞いたわけ」
「おぅ……」
先生からのジト目に、私はつい視線をそらす。
悪かったよぉ、反省しましたよぉ。
これにはゴルさんも、やっぱり申し訳なさそうにしている。
「最後にもう一度言うけど、もう勝手にああいうことしたらだめだよ。やるならせめて、今度の他学年試合でやりなさい」
と、至極まっとうなことを言われた。
その後私たちは、三年のクラスメイトたちに謝った。みんなにも、迷惑をかけてしまったわけだし。
それから、残っていたお客さんにも。
「ネクちゃんもごめんね、巻き込んじゃって」
「きき、気にするな。あんなん、な、なんてこと、ないしっ」
ぐっ、と親指を突き立てるネクちゃんだけど……声がめっちゃ震えていた。
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