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第十章 魔導学園学園祭編
789話 負けてほしいっていうか
しおりを挟むまあ他クラスで"賢者の石"を使えるかは、まだわからないかな。
隠していても、これが魔導具だってわかる人はわかるんだろうし。
別に内緒にしろとは言われてないけど、国宝と呼ばれる魔導具をひけらかすのも良くないと思うしなぁ。
ていうかそもそも、魔導大会で使わなかったのだって、自分だけの力でどこまでいけるのか試したかったからだし。
そう言ったら、同じ学生相手に自分の実力でって思う気持ちもあるしなぁ。
「うーん」
「わぁ、きれいな石ですね」
「わっ」
後ろから、ふと声がした。
振り向くとそこにいたのは、ペルソナちゃんだ。私の後ろから、覗き込むようにしていた。
その視線が注がれているのは、"賢者の石"だ。
「どうしたんですか、それ。とってもきれい」
「えーっとね……」
どうやらペルソナちゃんは、これが魔導具だとは気付いていないっようだ。
魔導具は日常的に使われているから、わかる人はすぐにわかる。でも、それは魔導具だって知っているから。
こんな石みたいな魔導具もないから、すぐにはわからないか。
「これは……私にとって大事なもの、かな」
大事なもののわりにはあんまり使ってないけど。
いや、大事だからこそあんまり使わないという見方もあるか。
とはいえ、王様に貰った大事なもの……だから間違いではないはず。
「へぇ……そうなんですね」
ペルソナちゃんは、まじまじと"賢者の石"を見ていた。
まあ、見た感じきれいな宝石だもんなー。石とは言うけど、そもそも赤く光っている石なんて普通の石じゃないし。
それに女の子はきれいなもの……こういう宝石が好きだって言うし。
ペルソナちゃんも例に漏れず、ってことだろう。
「本当に、きれい……」
きれいに赤く輝く、"賢者の石"……それを、ペルソナちゃんの赤い瞳はじっと見つめていた。
「ねえねえ、エランちゃん。今度さ、それよく観察させてくれない?」
ぽん、と私の肩を叩くのはピアさんだ。
魔導具技師として、こんな珍しいもの是非とも観察したい。
その気持ちは、わからなくもないんだけど……
「ピアさん、なんか目が怖い」
「えっ!? そ、そんなことないでしょ! はぁ、はぁ……」
目が血走っているし、なんならなんかはぁはぁ言っている。
未知のものを前に、すっかり興奮してしまっている。気持ちはわからなくはない、でもそれはそれといて怖い。
「ま、まあ……いつか、ね」
「本当!? 約束だからね!」
ガシッと手を掴まれる。すごい勢いだ。
鼻息荒く、その目は私……じゃなくて"賢者の石"を見ている。
なんか、ほっといたら石を破壊して中身を調べそうな勢いだな……
「それにしても……ただでさえエランちゃんはとんでもないのに、使い魔に黒竜と契約して、そんなものまで。もうエランちゃんに敵う人この学園にいないんじゃにゃい?」
「そうかな」
手を離したピアさんが、ため息を漏らす。
その口調は、どこか呆れているようにも感じるのは私の気のせいだろうか。
「そうだよ!」
ビシッと私に指を突き立てるピアさん。人に向けて指差しちゃいけないんだぞー。
「そんなことないよ。ゴルさんやウーラスト先生にだって負けてるんだよ私は」
「でもどっちも、使い魔やそれを使ったわけじゃないんでしょ?」
「ん、まあ」
ゴルさんとの決闘のときは"賢者の石"は持ってなかったし、クロガネとも契約していなかった。
ウーラスト先生のときは"賢者の石"はもらったあとだったけど、使いはしなかったし。魔導大会だって同じだ。
確かに、"賢者の石"やクロガネがいる状態で本気でやったらどこまでいけるか……それはまだわからない。
「っても、ゴルさんの他にも強い三年生はいっぱいいるよ」
「その、強い三年生の頂点がゴルドーラ様だって、わかって言ってる? そのゴルドーラ様と、あと一歩のところまで行ったんだよ?」
ぐぐっ、と顔を近づけてくるピアさん。私は思わずのけ反る。
ゴルさんとの決闘は、私は負けたと思っている。でもゴルさんは、自分が勝ったなんて思ってないようだ。
先に限界が来たのは私だし、負けだと思うんだけどなぁ。
「あのゴルドーラ様が本気で、使い魔のサラマンドラまで出して、当時のアンタさんといい勝負をしたんだよ!? ってことは、当時よりも遥かに強くなったアンタさんならゴルドーラ様なんか余裕で倒せると思わない!?」
「近い近い近い!」
なんでピアさんはこんなに興奮してるんだよ! ちょっと怖いよ!
とはいえ、ピアさんの言うこともわからないでもない。あの頃に比べれば、私は遥かにパワーアップしただろうし。
この"賢者の石"で魔力は底上げできるし、魔大陸での経験が私を強くした。なにより、クロガネとの契約は大きい。
それに、さっきだって……クロガネとサラマンドラの戦いは、単体だとクロガネに軍配が上がってたように見えた。もちろん、単体と一緒に戦うのとでは違うけど。
もし、またゴルさんと戦ったら……
「って、ピアさんはなんでそんなゴルさんに負けてほしいみたいな言い方を……」
「いや、負けてほしいだなんてそんな。でも、あいつは昔から鼻持ちならない奴だったし、どっかで痛い目見た方がいいと思うんだよね。
それにアンタさんは、アタシの魔導具を褒めて実際に使ってくれたし、アンタさん本人を応援しているって意味でも……」
「ほぉ、誰が鼻持ちならないって?」
「……!?」
だんだん興奮していくピアさんだけど、聞こえた声にまるで冷や水をぶっかけられたようにおとなしくなる。
そして、ゆっくりと振り返ると……
「ずいぶんと、楽しそうな話をしているな?」
と、話の中心に居た本人が立っていた。
ていうか、今の言い方……ピアさんって、ゴルさんと知り合いなの? それも昔から。
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