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第十章 魔導学園学園祭編
801話 感極まって
しおりを挟む学園祭も終盤に差し掛かった頃……どこからともなく映像が流れ、そこに映っていたゴルさんは言った。
……リリアーナ先輩との婚姻を、発表すると。
「お、おぉ……?」
あまりの事態に、私の頭はショート寸前だ。
今までゴルさんはリリアーナ先輩とは、婚約していた関係だ。それは結婚前提のもの。そして今回、婚姻すると言ったのだ。
婚姻……つまり結婚。その内容に驚いているわけではない。
だって私は……私たち生徒会メンバーは、前もってゴルさんから聞いていたから。学園を卒業したらリリアーナ先輩と婚姻すると。
でも、みんなにはいずれ話すと……そう言っていたのみだった。
「……まさか、この状況で……」
いつ、どうやって発表するのか。私が考えることではないにしても、やっぱり気になるものだ。
まあゴルさんにもゴルさんのタイミングがあるんだろう、と思ってはいたけど。
まさか、学園祭って言う人が多く集まる場所で、あんなものまで使ってなんてね。
「おい、本当かゴルドーラ様が……」
「本当もなにも、この放送がそう言う事だろ」
「おぉ、なんかすげえ!」
放送を見ていた人たちも、頭が追い付いてきたのかそれぞれ感想を口にする。
素直に信じられない者、困惑する者、喜びを露わにする者……
ただ一つとしているのは、誰もがそれを祝福していること。いきなりのことに驚いていても、悲しんだりしている人は一人もいないってことだ。
「みんなから愛されているってことかな」
自分たちが幸せなのはもちろんだけど、それをみんなが祝福してくれるって言うのはとても嬉しいことだと思う。
しかも、ゴルさんみたいな立場の人間ならなおさらだ。
なんだか、私も自分のことみたいに嬉しくなっちゃうな。
『み、皆様。この度、ゴルドーラ様と婚姻することとなりました。カロライテッド家長女、リリアーナ・カロライテッドです』
映像の中では、次にリリアーナ先輩が挨拶をしていた。
いつもみたいに凛としている……ように見えるけど、生徒会でいつも見てきた私にはわかる。あれは、かなり緊張しているな。
それでも、あそこまで気丈に振る舞えているのは、さすがと言うべきだろう。
なんにせよ、めでたいことだ。こりゃ、あとで個人的にお祝いしないと。
『私は魔導学園を卒業し、この国の次の国王になる。その際、彼女を妻として迎え入れ、この国の八手に向けてさらなる尽力を……』
「これが重大発表かぁ……確かに、国に関わる一大事だもんね」
現在国王の座は空席になっている。
聞いた話だと、アルミルおじいちゃんやカゼル・オートライン……それにマーチさんや秘書のジャスミルおじいちゃん。みんなが協力して、国の運営を支えているとか。
その空いた席に、次の国王としてゴルさんが座る。
その隣には、リリアーナ先輩が立っている……ということだ。
……にしても、重大すぎる発表な気もするけど。学園の一行事で発表していいものだったのだろうか?
ただ、後から聞いた話だとどうやらこの放送は、国中に向けられていたらしい。すごいや、さすが王族。
『また近いうちに、放送ではなく直接みなに知らせるつもりだ。今日は、これを伝えたくてな』
誰が言うでもなく、パチパチパチと……拍手が、鳴り響く。
それははじめは小さいものだったけど、徐々に大きなものへと変わっていく。みんなが、二人の結婚を祝福しているのだ。
うんうん、二人はお似合いだし、祝福されるのも当然だよね。
今だって、二人並んでいる姿はとてもお似合いだ。
後日、ゴルさんが直接姿を見せて話すという話を最後に、映像は切れる。
あとに残されたのは、放送を聞くために静かになっていた人々。
……それが、遅れて賑やかになっていく。
「わぁ」
みんな。手を上げて喜んでいる。
それだけで、ゴルさんやリリアーナ先輩がどれだけ愛されているのか、わかる。
こうしちゃいられない。私もこの喜びを誰かと分かち合いたくて、走り出す。
見回りだとか、そんなことは頭にはなかった。今はただ、走った。
「シルフィ、なんで泣いてル?」
「な、泣いてなどいない!」
「おや?」
聞き覚えのある声が聞こえ、私は足を止めた。
人がたくさんいて声を上げているけど、聞こえた。私はかわいい子の声は聞き逃さないのだよ。
声のした方に向かうと、そこには……
「やっぱり。リーメイ」
「あ、エランダー」
「それに……」
そこにいたのは、やっぱりリーメイだった。ひらひらと手を振っている。
そして、その隣には……背を向けているけど……
「シルフィ……ドーラ先輩?」
「! そ、その声は……!」
間違いない、シルフィ先輩だ。
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「だ、だから泣いていない!」
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「いや、それは……」
……この男、本当に泣いているのか? この人が泣いてるとこなんて想像できないんだけど。
「なにがあったの?」
「それが、さっきの放送見てから、急ニ……」
「だ、だから言うな! 別に、ゴルドーラ様とリリアーナ先輩の婚約発表に、感極まったわけではないからな!」
わぁ、こっちも言っちゃってる。
にしても……感極まって、かぁ。
シルフィ先輩、ゴルさん大好きだもんねぇ。
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