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第十章 魔導学園学園祭編
802話 果し状かよ
しおりを挟む「うんうん、気持ちはわかるよ。私だって感極まっちゃったし」
まあ泣いてはないけど。
背を向けていたシルフィ先輩は、ようやく私の方を向いた。
その目元は赤くなってはおらず、本当に泣いていたのか疑わしいくらいだ。
まあ、リーメイは嘘つかないから本当なんだろうけど。うまく隠しやがったな。
「一緒にするな。お前とはゴルドーラ様と共に過ごした年月が違う」
「先輩も今年から生徒会入ったんでしょ? それまでゴルさんと交流があったのかはわからないけど、先輩の性格的に学年も違う憧れの人にグイグイ行けるとは思わないし……そんなに変わらないと思うけどなあ」
「ぐっ……」
確かに、私は一年生でシルフィ先輩は二年生。おまけに私はこの国に来たばかりだったし、ゴルさんと過ごした時間なんて学園に……生徒会に入ってからのものだ。
でも、それはシルフィ先輩も同じだと思うな。学園に入る前や、入ってからの一年間はわからないけど。
でも、言葉に詰まっているしどうやらそれまで交流はなかったみたいだな。
「それに、私はゴルさんと決闘もしたしぃ? 昨日だって……
私の方がゴルさんと、濃密な時間を過ごしていると思うなぁ」
「なっ、おま……」
「はいはい、二人ともそこまデー」
ふふん、と勝ち誇る私に噛みつこうとするシルフィ先輩。そんな私たちの間に入り止めるのは、リーメイだ。
そこまで、と私とシルフィ先輩がこれ以上近づかないように腕を伸ばしている。
それから呆れたように、私と先輩を交互に見た。
「もう、シルフィ突っかからないノ。エランも、必要以上に煽らなイ」
「す、すまない……」
「……ごめん」
真っ当な正論で叱られてしまった。
私たちの謝罪を受け、リーメイはにっこりと笑った。
「うん、よシ! じゃあ仲直りの握手! はい手!」
「手……」
「……手」
有無を言わせないその笑顔の前に、私もシルフィ先輩も手を伸ばす。
その手をそれぞれ取り、リーメイは私と先輩の手を引き寄せ……握手させた。
その力強さに、少し驚く。
「り、リーメイってこんな強引だったっけ……?」
「仲が悪いのは悲しいかラ。仲良くしてほしイ」
ぎゅ、と私たちの手に自分の手を重ねるリーメイの言葉を聞いて、私は初めてリーメイと会ったときのことを思い出す。
魔大陸から帰る途中。大きな大きな水……いや、ウミにいたリーメイは。ニンギョなのに泳げなかった。
多分、その件で同じ種族の仲間にいろいろ言われてきたんだろうことは、想像できる。あのとき、リーメイは一人だったし。
だから……喧嘩とか、言い争いとか、してほしくないのかな。
「……も、もういいだろ」
「だメー」
「ぬ……」
それにしても……あのシルフィ先輩が、リーメイの前じゃタジタジだな。
いつも私に対してツンケンしていたり、生徒会の先輩たちに対してもド真面目な態度でいるシルフィ先輩が。
天真爛漫なリーメイに、振り回されている。
「そダ。エラン、走ってるみたいだったけどどこか行く予定だっタ?」
しばらくの握手のあと、リーメイがきょとんと首を傾げた。
さっき、ゴルさんの放送を見た私はとにかく走り出したのだ。目的地はぶっちゃけない。
でも、リーメイからしたら自分たちが私を呼び止めてしまったみたいに感じているのかもしれない。
「ううん、ゴルさんの発表聞いて、とにかく誰かと喜びたかっただけだから」
「じゃあ、リーと喜ボー!」
「わー!」
リーメイと両手を繋ぎ、わいわいとはしゃぎ合う。
正直、この国に来たのも学園に入ったのも私よりずっと後のリーメイにとって、今回の重大発表はピンときてないのかもしれない。そもそもゴルさんと関わる機会なんてなかったし。
それでも、こうして喜んでいる。
……私が喜んでいるからそれに合わせて、という可能性もあるけど。
「まったく……」
「あ、そういえば先輩はこのこと知ってたの?」
「知るわけないだろう。おそらく先輩方もな。知っているとするなら本人たちだけだろう」
それもそっか、知ってたら感極まって泣いたりは……いや泣くかもなぁ。
同じ三年生とはいえ、口が軽そうなタメリア先輩と真面目なメメメリ先輩には話しているとはわからない。
私たちみたいに、みんなと同じ状況で聞いてたかもしれないし。
確かなのは、発表すると決めていたゴルさん本人。それにリリアーナ先輩だろう。
もしいきなり婚姻しますって発表になったら、さすがにあんな凛としてはいられないだろうし。
「じゃあ、ゴルさんたち今どこにいるのかな。お祝いしたいんだけど」
「さあな。ただ、第一王子の婚姻発表……それも、現国王がいない今次の国王はゴルドーラ様と決まっている。祝いなど、それこそ国民全員で行われるだろう」
「個人的にだよー。それとも先輩はお祝いしたくないの?」
「したいに決まってるだろ!」
叫んだ……そんなに気持ちが抑えられないなら難しいこと言わなくてもいいのに。
だけど……そうだよなぁ。周りのみんな浮足立ってるし、ゴルさんを見つけたら一気にそっちに走っていっちゃいそうな勢いだ。
ってことは、ゴルさんはみんなに見つかりにくいところにいるのかもしれない。
「ん?」
そんなときだ……ポケットに入れていた端末が、震える。
学園の端末だ、連絡事項から友達とのやり取りまで、これ一台でできちゃう優れものだ。
こんなときに誰だろう、と思いながら端末を取り出す。
見れば、シルフィ先輩も同じくポケットを探っていた。もしかして……
『生徒会メンバーへ。屋上で待つ』
「……果し状かよ」
ふふ、なるほど……こんなとき、だからか。
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