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第十一章 使い魔召喚編
879話 試したい魔法
しおりを挟むラッへの……というかエルフのあの技は、自分の魔力を限界まで引き上げる魔法だ。要は、身体強化の魔法の上位版。
ただ、魔法を限界まで引き上げるという性質上、あの技発動中は他の魔法は使えない。はずだ。
だったらおそらく"言霊"もない。魔法を打ち消される心配はないということだ。
「じゃ、行くよ!」
私をぶっ飛ばし、なおも準備運動を続けていたラッへが私に向かって走り出す。
時間制限付きの、超強化。多分エルフ族だけが使えるその魔法……エルフ族の魔力量は膨大とは言え、あれだけ魔力を放出してたら長くは持たないだろう。
だからラッへも、急いで決着をつける必要がある。
現段階でラッへが焦ってあれを使う必要はなかった。とはいえ、これは手合わせだ。試したかったと言っていたように、試すには絶好の機会だ。
それに、魔力を限界まで引き上げるということは、残っている魔力がどのくらいかで持続時間も変わる。
魔力が八十パーセント残ってる状態と、五十パーセント残っている状態じゃ違うだろう。
「おぉりゃあ!」
ラッへは、その場から動かずにいた私に拳を振り抜く。
けれど、その拳が通ることはない。すぅ……と、拳はすり抜けた。
「! 幻影!?」
そう、そこに残っていたのは私の幻影……幻影魔法だ。
そこに居ると思わせて、あるのは実体のない形だけのもの。相手を惑わずには充分だ。
「なにか仕掛けてるなと思ったけど……じゃあ、本体は……」
私が突っ立ったままだったことが引っかかってはいたのだろう。驚きはしてもそれを引きずることはなく、右へ左へと首を動かす。
そこに幻影があるなら、本体は別のところにいるはずだからだ。
「! 上!」
「あ、バレたか」
私は、振り下ろした杖がラッへの手に受け止められたのを見た。
魔力で杖を強化し、剣のように武器にしたものだ。私はダルマスみたいに剣を扱えるわけじゃないから、これくらいしかできない。
にしても、これを素手で受け止めるか……
「いつの間に、上に居たんだか……おっ、わぁ!」
杖を受け止めたまま、逆に私を引き寄せようとするラッへ。けれど、それはわかっていた。
だから私は、自ら手を離した。
杖ごと私を引っ張ろうとしていたラッへは、私という重みを失ってバランスを崩す。
「杖を、離すなんて……!?」
「杖がなくても、やりようはいくらでもあるから、ね!」
バランスを崩したラッへの顔に向けて、蹴りを放つ。魔力強化した蹴りだ。
けれど、ラッへは紙一重の反射神経でそれをかわす。私は、狙いを変える。
私の杖を持っていた、ラッへの手首を蹴りつける。
「あっ」
「おかえり!」
衝撃で杖を手放し、落ちていく杖を私は掴む。
身体強化じゃなくても魔法は放てたけど、杖もない上にあの距離から魔法を撃てば自爆しちゃうからね。
私は素早く、杖の先端をラッへに向けて攻撃……ではなく、強い光を放った。
「!? 目が……」
攻撃が来ると思って防御態勢を取っていたラッへは、思わぬ光に目を細める。
魔力を限界まで引き上げている身体には、大抵の攻撃は意味がないだろう。さっきの蹴りだって、衝撃こそ与えてもダメージはないはず。
魔術級の攻撃でないとダメージを与えられない。でも、いくら身体が強くても急な光には対応できない。
「せい!」
ラッヘが怯んだその一瞬。私はラッヘの懐に潜り込み、二発三発と拳を打ち付ける。
もちろん、魔力で強化している拳だ。
よろよろとよろけるラッヘは、けれどその場で回転蹴りをした。思いもしなかった動きに私は反応が遅れ、足首に蹴りが当たってしまう。
「あうち!」
痛みに耐えながらも、少し距離を取る。
目をこすりながら、ラッヘは目を開く。思ったよりも、目が見えるようになるのが早かったみたいだ。
「まさか、目くらましからの打撃とは……」
目を見えなくさせれば、強烈な魔法がおみまいされると思ってしまうだろう。そこを狙った。
おかげで油断していたラッヘに打撃は当てられたけど、代わりにこっちも貰ってしまった。
「ラッヘこそ、見えないのによく蹴りを出してきたよね」
「これでも、魔力には敏感になってるからね」
……今のラッヘの状態は、魔力を感じ取る力にも長けているのか。
だから私の位置がわかったし、蹴りを繰り出した。
ま、位置がわからなくても一か八かでやっていたきもするけどね。
「やっぱすごいね、エランちゃんは……私がいろいろやっても、簡単にさばいてくる。
……けど、これはどうかな」
ふぅ、と軽く息を漏らすと、その場からラッヘの姿が消える。
透明……になったわけではない。パッと消えたのだ。いったい、どこに……
……いや、これは消えたんじゃない。超速度で移動しているんだ。まるで消えたように感じるくらいの速さで。
「おりゃああああ!」
突然響くかわいらしい声。
けど、私の前に現れたのは……とてもかわいらしいそれではなかった。
「えぇえ!?」
……五人のラッヘが、一斉に飛びかかってくる姿だった。
「ど、どうなってんのこれ!」
私は驚きながら、身体強化の魔法で後退する。当然追ってくるラッヘたち。
これは、分身魔法……いや、動きが見えないくらいの速さで動いているんだ。だったら、このうち四人は残像か?
限界魔力中に他の魔法は使えるのか。それは私の中では答えは出ない。
もし分身魔法だとしても、分身の数だけ力は落ちているはず。残像なら、そこにいるのは実質一人だ。
どちらにしろ、五人に見えていても実質一人だ。焦らず落ち着いて対処を……
「ふん、りゃぁああああ!!」
「へぶら!?」
……消えるほどに速い動きだ、簡単に避けられるはずもなく。
追いつかれた私は、繰り出された"五人分の"拳をもろにくらい、地面に叩きつけられた。
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