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第十一章 使い魔召喚編
887話 ゆっくり腰を据えて
しおりを挟むコーロランの名前に反応したセーリンちゃん。ソファーに寝転がったまま、お尻丸出しにして紅茶を乗せている姿はなんともシュールだ。
「あなた、コーロラン様とお知り合いなのですか!?」
「え、うん」
さっきまでお尻ぺんぺんでダウンしていたというのに、食い気味にすごい反応を見せているな。
というか、心なしか目がキラキラしているし、ほっぺたも赤いような気がする。
……この反応って、もしかして……
「はぁあ、コーロラン様……」
「……」
間違いない……ノマちゃんとおんなじ反応だ。
ってことはこの子、自分のお姉ちゃんの婚約者に……
これにサライアちゃんは気付いているのかな?
「まあ、セーリンは本当にコーロラン様がお好きなのですね」
「! そ、それはまあ、人として、好んでいるというだけという話でありますが……」
……口じゃあああ言っているけど、これは……気付いてそうだなぁ。うわぁ、修羅場ぁ。
とは言っても、サライアちゃんは「子供の戯言ですわねうふふ」程度にしか思ってなさそうだけど。
怖ぁ。
「はは、私は同じクラスじゃないから、元気かってのは人づてにはなるんだけどね」
そう、同じクラスならともかく、別のクラスなんだから状況はわからない。……普通なら。
でも、私にはノマちゃんという、頼んでもいないのにコーロランの様子を教えてくれる子がいる。
気持ちはもう、理解はした。自分の好きな人の話を、とにかく誰かに話したいのだろう。
その誰かこそ、ルームメイトの私になってしまったわけだ。
いやほんと、毎日のようにコーロランの話聞かされるんだもん。今日も爽やかでしたとか、横顔が素敵だとか、勘弁してくれって感じの。
「そう。私も婚約者として、常に彼のことが気がかりなのですよ」
紅茶を手に取り、それを口に運ぶサライアちゃん。その紅茶はもちろんセーリンちゃんのお尻に乗っていたものでは、ない。
所作一つ取っても、惚れ惚れしてしまうくらいだ。
それにしても、やっぱりこうして話していると……いい婚約者だと思うけどなぁ。
コロニアちゃんは、コーロランとサライアちゃんの仲がよくないって言ってたし。ゴルさんも、サライアちゃんに対してなんか渋い顔していたけど。
「さ、エランさんもどうぞ」
「あ、うん。いただきます」
勧められて、私は紅茶を飲む。ふふん、紅茶に関してはうるさいよ私は。
なんてったって、師匠のところにいる時は毎日のように紅茶を淹れていたし。生徒会では、リリアーナ先輩の紅茶を味わっているからね。
うーん、いい香りだ。まずは香りを楽しみ、カップに口を付けてからずずっと紅茶を飲む。
「わ、おいしい」
「恐縮でございます」
ごくりと飲み込む。すると、紅茶の香りが口全体から喉の奥にまで広がる。
これは、とてもおいしい紅茶だ。自然と、口に出ていた。
それを聞いた使用人のおじいちゃんが、礼を言う。あの人が作ったのか。
「ふふ、そうでしょう。爺やの紅茶は天下一品ですもの」
「もったいないお言葉です」
あのプライドの高そうなサライアちゃんが素直に褒めるあたり、本当においしいんだろうな。ただのj変態爺じゃなかったのか。
「あなたとは、こうしてゆっくり腰を据えて話してみたかったのです」
「それは、コーロランの……あ、コーロラン王子の話を聞くために?」
「それもありますが……うふふ、そんなにかしこまった言い方をしなくても大丈夫ですよ。どうぞいつも通りに」
婚約者のことをなれなれしく呼ぶのもどうかと思ったけど、かしこまらなくていいと言うのなら……お言葉に甘えて、いつも通りにさせてもらおう。
「それもある、とは?」
「あなた自身に興味がありまして。なんせ、今や国中で知らない人はいないほどの有名人ですもの」
……私、国中で知らない人はいないほどの有名人なの? なにそれ、照れるような怖いような。
学園中や、少しばかり学園外で知られてるってのは知っていたけど……国中でかぁ。
それって…………心当たりが多すぎるなぁ。
「聞くところによると、あなたは魔導学園に入学するまではこのベルザ国に住んでいなかったようですね」
「うん。師匠と二人で国の外……遠くに暮らしていたよ」
「にも関わらず、この短期間で名前がこうも知れ渡るなんて。
ゴルドーラ様やダルマス様、王族や上級貴族ならいざ知らず、まったく無名のあなたが」
まー……私、カテゴリー的には貴族になるみたいだけど、これだって師匠から名前を貰っただけだし、私個人としては貴族でも平民でもいいっていうか。
それにしても、ダルマスってやっぱすごいんだな。それほどに有名人なのか。
それに比べると、私はいくら師匠の弟子っても無名だよな。
「相当、学園内外で大立ち回りをしたとか」
「あはは、いやあお恥ずかしい」
「エランさんのような方が私の学園にもいたら、退屈はしませんのに」
私みたいな人が……か。つまり私がもう一人。
……なんだろう。頭を抱えている先生やゴルさんたちの姿が見える。
「ねえ、エランさん」
コト、と紅茶をテーブルに置く。サライアちゃんのその仕草を見て、今から本題を話そうとしているのを察した。
私はじっと黙って、続く言葉を待って……
「エランさん、私の通っている学園に転校しませんか?」
「……へ?」
思いもしなかった言葉に、私は間の抜けた声を漏らしてしまった。
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