901 / 1,141
第十一章 使い魔召喚編
888話 転校の話
しおりを挟むサライアちゃんの言葉は……というか提案は、私にとって予想もしていないものだった。
ぽかんとして口を開けた私は、じっとサライアちゃんを見る。
……冗談で言っているようには、見えない。
「えっと……4ごめん、あんまりいきなりすぎて……」
「あ、そうですね。すみません私ったら、つい話を急いてしまって」
話を急いでしまった。そう言うサライアちゃんは、はっとした様子で口元に手を当てた。
それから、こほんと咳払いをする。
「私、最近学園生活がつまらないんです」
「はぁ」
「由緒正しい、お嬢様学園。周りは皆、気品に溢れたお嬢様ばかり……実につまらない日々なのです」
サライアちゃんは本当に、退屈そうに話している。
お嬢様学園、か……どんなところなのか私にはわからないけど、刺激のない毎日を過ごしているってことだろうか。
「だから、エランさんが学園に来てくれれば、学園のつまらない空気も幾分変わると思いまして」
「それだけのために!?」
「あら、私にとってはそれだけのことではありませんよ。深刻な問題です」
私に転校を勧めた理由。それは要は、自分が退屈だから……
だから私に、学園を転校しろって!? それはちょっと乱暴じゃない!?
さっきまで普通に見えていたサライアちゃんが、急にとんでもない人物に見えてきた。
「いや、お誘いはありがたいんだけど……」
とはいえ、そんな理由で転校を受け入れるわけにはいかない。
いや、そんな理由じゃなくても、だ。どんな理由があったって、転校はしない。
だって、魔導学園はこの国で一番魔導を学べる学園……師匠に勧められて、私はそこに入った。そこを途中で投げ出すなんて、師匠にも私自身にも申し訳が立たない。
なにより……魔導学園には、友達が多い。みんなと別れるなんて、私には考えられない。
「お断りするよ。みんなと離れたくないし、お嬢様なんて私には性に合わないよ」
「……そうですか。エランさんならば、磨けば立派な淑女になれると思いますが」
まあ、私みたいなのが異常なんだろうなとは思う。一応立場としては貴族なんだけど、まったくお嬢様らしくはない。
でも、今更お嬢様っぽくなろうともそれは無理だし。みんなだって似合わないと思うでしょ?
「誘ってくれたのは嬉しいんだけどね」
「良い話だと思いましたのに。誰でも入れる学園ではありませんのよ? けれど、私が推薦すれば転校も容易でしょう」
「あははは」
サライアちゃんが私を誘ってるのって、私が居ると退屈しないからだしなぁ。
私以外にも、面白い子が居れば誘ってサライアちゃんの退屈も紛れると思うんだけど。
「でも、そんなに退屈だって言うならなんでその学園に」
「入学する前とした後で感じ方は変わるものですわ。それに、お父様からの言いつけですし」
それぞれ事情があるってことか。あんまり人の家の事情には立ち入らないことだ。
ただ、さっきからあの使用人おじいちゃんは普通に聞いちゃってるけど、それはいいんだろうか。
お父様に、チクられたりはしないんだろうか。まあ、その心配がないからここに居るんだろうけど。
「サライアちゃんも、たくさんお友達を作ればいいんだよ。お嬢様って言っても、他にも同じこと思ってる子がいるかもしれないよ」
「お友達……ですかぁ」
「そうそう。共通の話題とかあれば話しやすいんじゃないかな。たとえば音楽とか」
サライアちゃんだって、学園で友達を作れば退屈に思うことはないだろう。
お嬢様っても自分と同じ人間だし、なにか共通の趣味くらいはあるはずだろう。
「そうですね……私から友達を作る。つまり、私が頑張る必要があると」
「そうなるね」
「私、頑張るのって好きじゃないんですよ」
「……それは、少しくらいはなんとか……がんばろうよ」
うーむ……同じお嬢様って言っても、ノマちゃんなんかとは全然雰囲気が違うなぁ。
ノマちゃんは私がなにか言わなくても、自分から進んで友達を作るタイプだし。
ノマちゃん成分が一割でもあればなぁ。
「ま、それはおいおいと考えるとします。せっかく来ていただいたのに、私の愚痴に付き合わせるわけにもいきませんもの」
「愚痴って自覚はあるんだ」
パンパン、とサライアちゃんは手を叩く。
すると、さっきまで部屋の隅に待機していた使用人おじいちゃんが近寄ってきて、なにかをテーブルの上に置いた。
「わ、おいしそう」
「洋菓子です。確か……クッキー、という呼ばれ方をしているみたいですね。どうぞ」
目の前に出されたお菓子に、私は釘付けになる。
うん、お菓子大好きだよ私。
それを手に取り、さっそく食べる。うん、おいしい!
「おいひいー」
「それはなによりです」
「わ、私も食べたいー」
……さっきから意図的に意識から外していたけど、やっぱりお尻丸出しのセーリンちゃんはシュールだ。
目の前にお菓子があるのに、動くことが出来ない。なんという苦行。
「ところで、コーロラン様のことなのですけど」
「さらっと話変えたね」
お菓子を欲しがるセーリンちゃんは華麗にスルーし、紅茶を飲むサライアちゃん。
婚約者であるコーロランの名前を出すと、紅茶を置いてから私を見た。
「彼、あんまり私のこと好きじゃないみたいなんですよね」
……と、どこか妖艶さを思わせる笑顔で、そう言ったのだ。
10
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる