史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十一章 使い魔召喚編

888話 転校の話

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 サライアちゃんの言葉は……というか提案は、私にとって予想もしていないものだった。
 ぽかんとして口を開けた私は、じっとサライアちゃんを見る。

 ……冗談で言っているようには、見えない。

「えっと……4ごめん、あんまりいきなりすぎて……」

「あ、そうですね。すみません私ったら、つい話を急いてしまって」

 話を急いでしまった。そう言うサライアちゃんは、はっとした様子で口元に手を当てた。
 それから、こほんと咳払いをする。

「私、最近学園生活がつまらないんです」

「はぁ」

「由緒正しい、お嬢様学園。周りは皆、気品に溢れたお嬢様ばかり……実につまらない日々なのです」

 サライアちゃんは本当に、退屈そうに話している。
 お嬢様学園、か……どんなところなのか私にはわからないけど、刺激のない毎日を過ごしているってことだろうか。

「だから、エランさんが学園に来てくれれば、学園のつまらない空気も幾分変わると思いまして」

「それだけのために!?」

「あら、私にとってはそれだけのことではありませんよ。深刻な問題です」

 私に転校を勧めた理由。それは要は、自分が退屈だから……

 だから私に、学園を転校しろって!? それはちょっと乱暴じゃない!?
 さっきまで普通に見えていたサライアちゃんが、急にとんでもない人物に見えてきた。

「いや、お誘いはありがたいんだけど……」

 とはいえ、そんな理由で転校を受け入れるわけにはいかない。
 いや、そんな理由じゃなくても、だ。どんな理由があったって、転校はしない。

 だって、魔導学園はこの国で一番魔導を学べる学園……師匠に勧められて、私はそこに入った。そこを途中で投げ出すなんて、師匠にも私自身にも申し訳が立たない。
 なにより……魔導学園には、友達が多い。みんなと別れるなんて、私には考えられない。

「お断りするよ。みんなと離れたくないし、お嬢様なんて私には性に合わないよ」

「……そうですか。エランさんならば、磨けば立派な淑女になれると思いますが」

 まあ、私みたいなのが異常なんだろうなとは思う。一応立場としては貴族なんだけど、まったくお嬢様らしくはない。
 でも、今更お嬢様っぽくなろうともそれは無理だし。みんなだって似合わないと思うでしょ?

「誘ってくれたのは嬉しいんだけどね」

「良い話だと思いましたのに。誰でも入れる学園ではありませんのよ? けれど、私が推薦すれば転校も容易でしょう」

「あははは」

 サライアちゃんが私を誘ってるのって、私が居ると退屈しないからだしなぁ。
 私以外にも、面白い子が居れば誘ってサライアちゃんの退屈も紛れると思うんだけど。

「でも、そんなに退屈だって言うならなんでその学園に」

「入学する前とした後で感じ方は変わるものですわ。それに、お父様からの言いつけですし」

 それぞれ事情があるってことか。あんまり人の家の事情には立ち入らないことだ。

 ただ、さっきからあの使用人おじいちゃんは普通に聞いちゃってるけど、それはいいんだろうか。
 お父様に、チクられたりはしないんだろうか。まあ、その心配がないからここに居るんだろうけど。

「サライアちゃんも、たくさんお友達を作ればいいんだよ。お嬢様って言っても、他にも同じこと思ってる子がいるかもしれないよ」

「お友達……ですかぁ」

「そうそう。共通の話題とかあれば話しやすいんじゃないかな。たとえば音楽とか」

 サライアちゃんだって、学園で友達を作れば退屈に思うことはないだろう。
 お嬢様っても自分と同じ人間だし、なにか共通の趣味くらいはあるはずだろう。

「そうですね……私から友達を作る。つまり、私が頑張る必要があると」

「そうなるね」

「私、頑張るのって好きじゃないんですよ」

「……それは、少しくらいはなんとか……がんばろうよ」

 うーむ……同じお嬢様って言っても、ノマちゃんなんかとは全然雰囲気が違うなぁ。
 ノマちゃんは私がなにか言わなくても、自分から進んで友達を作るタイプだし。

 ノマちゃん成分が一割でもあればなぁ。

「ま、それはおいおいと考えるとします。せっかく来ていただいたのに、私の愚痴に付き合わせるわけにもいきませんもの」

「愚痴って自覚はあるんだ」

 パンパン、とサライアちゃんは手を叩く。
 すると、さっきまで部屋の隅に待機していた使用人おじいちゃんが近寄ってきて、なにかをテーブルの上に置いた。

「わ、おいしそう」

「洋菓子です。確か……クッキー、という呼ばれ方をしているみたいですね。どうぞ」

 目の前に出されたお菓子に、私は釘付けになる。
 うん、お菓子大好きだよ私。

 それを手に取り、さっそく食べる。うん、おいしい!

「おいひいー」

「それはなによりです」

「わ、私も食べたいー」

 ……さっきから意図的に意識から外していたけど、やっぱりお尻丸出しのセーリンちゃんはシュールだ。
 目の前にお菓子があるのに、動くことが出来ない。なんという苦行。

「ところで、コーロラン様のことなのですけど」

「さらっと話変えたね」

 お菓子を欲しがるセーリンちゃんは華麗にスルーし、紅茶を飲むサライアちゃん。
 婚約者であるコーロランの名前を出すと、紅茶を置いてから私を見た。

「彼、あんまり私のこと好きじゃないみたいなんですよね」

 ……と、どこか妖艶さを思わせる笑顔で、そう言ったのだ。
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