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第十一章 使い魔召喚編
886話 お仕置き
しおりを挟むそれから少しして。
「セーリン……これはどういうことなのかしら」
「ごめんなさいお姉ちゃああん!」
「お姉ちゃんじゃなくお姉様でしょ? 貴族の娘たるもの、言葉遣いはしっかりしないと」
「ごべんなさぁあい!」
ぱちーん、と景気の良い音が響き渡る。とても気持ちのいい音だ。
私の目の前で、少しピンクの混じった白い桃が揺れる。
……いや、それは桃じゃなくてお尻だ。小さくてぷりぷりのお尻が、手で叩かれるたびに揺れている。
お尻丸出しにしてお尻ぺんぺんをされているのは、さっき会ったばかりの小さな女の子。セーリンちゃんだ。
そしてセーリンちゃんのお尻を叩いているのが、姉であるサライアちゃんだ。私の正面に座り、膝にうつぶせになった妹を乗せている。
「お客様に無礼を働いたどころか、部屋をこんなに散らかして……」
と、サライアちゃんがご立腹なのも納得ではある。部屋の惨状を見れば。
部屋の中は砂があちこちに撒かれている。特に私の座っていた豪華なソファーに。私には服の中にまで入っちゃったし。
それをやったのが、せーリンちゃん。部屋に入ってきたサライアちゃんは、さぞ驚いたであろう。
……正直、魔法を使えば部屋をきれいにできたし、証拠隠滅も可能だった。
でも、やったことは悪いことだとわからせるためにも、敢えてやめた。結果がこれだ。
「せーリンちゃんはまだ魔法は使えないんだね」
もし魔法が使えたなら、部屋を綺麗にすることはできただろう。ま、私がそれをさせないけど。
……それとも、不審者と思ったとはいえいきなり人に砂を投げつける子だ。後のことまで考えてなかったのかもしれない。
「ふぅ。反省しましたね。なら、エランさんに改めて謝りなさい」
「……」
多分、日常的にやってることなんだろうな。せーリンちゃんは年相応と言えばそうだけど、小生意気なところがある。
それが貴族の人間としては、アウトなわけだ。
貴族の躾ってこんなんなんだ?
「まあまあ、私ももう怒ってないから。子供のやったことだし、部屋も綺麗になったんだからその辺で。ね? せーリンちゃんも反省したよね?」
「! ゆ、許さないんだから! わたしを叩いて、こんな目にあわせて! こ、こうかいさせてやるんだから!」
「やってみろよ」
「ひぃいいん!」
肩を震わせるセーリンちゃん。そんなに怖いかね。
あと叩いたのは私じゃない。まあ原因を指しているんだろうけど、原因をと言うならそれは自分自身だ。
あと、お尻丸出しで凄まれても怖くもなんともない。
「セーリン!」
「ごべぇええんなさぁい!」
再びバチーンと音が鳴る。白かったお尻も、すっかり赤く熟してしまっている。あれじゃ桃じゃなくて林檎だ。
それにしても、叩かれる度にお尻は揺れるし身体は反るし、面白い。なんかのおもちゃみたいだ。
「あぅ……」
「ごめんなさいエランさん。この子、まだお生意気なところもあって。貴族として態度も言葉遣いもなっていなくて」
サライアちゃんはどこか恥ずかしそうに言った。
やっぱり貴族として、自分にも妹にも厳しくあるってことなのだろう。
正直、さっきの態度よりも今のお尻丸出しの方が恥ずかしいとは思うけど。
「あはは、気にしてないよ。かわいいもんだよこんなの」
「き、気にしてない……ゆ、許してくれるのおばちゃん?」
「はぁ?」
「ひっ」
私はおばちゃんじゃない。お姉ちゃんだ。それをわからせる必要があるかな?
「まったくこの子は」
……それにしてもサライアちゃん、学園で会った時とはまた雰囲気が違うな。
やっぱ家と外とじゃ、気の張り方も違うよな。貴族の場合、周りの目もあるだろうし。
ましてサライアちゃんは、第二王子の婚約者。外で気を抜けないのだ。
……そういや結局、第一王子のゴルさんが国王になるから……今後コーロランの呼び方は、どうなんだ?
とりあえず卒業までは、今のままでいいのか。
「こちら、どうぞ」
「あ、どうも」
事態が一段落したことで、部屋の隅にいたスマートな執事さんが紅茶を私の前に置く。わ、いいにおいだ。
それを、サライアちゃんの前にも。横で赤くなったお尻を丸出しにしているセーリンちゃんをちらっと見て、軽くお尻を撫でた。セーリンちゃんの身体が軽く揺れる。
おいなにしてんだ爺。
そしてお尻の上に、紅茶が入ったカップを置く。絶妙なバランスで乗っている。
だからなにしてんだ爺。
「あの……」
「気にしないで。お仕置きですわ」
どんなお仕置き!? 動いたら熱々の紅茶がお尻にこぼれちゃうってこと!? ヒリヒリのお尻が熱くなっちゃうってこと!?
……まあ、人様の教育方法に口出すこともないな。ていうか出したくない。
「本日はご足労いただき、ありがとうございます」
すげー、隣の妹を気にせずに挨拶が始まった。
その隣のセーリンちゃんはうつぶせに脱力したままだけど、執事さんは髪の毛を縛ったりして明らかに遊んでいる。それなにやってんだ爺、絶対それ教育方法関係ないよね!
「あー、うん。学園祭や使い魔召喚も終わって、一段落したから」
「そうですか。あの、私の婚約者様はお元気ですか?」
「え? うん、元気だよ」
なんだ、やっぱりコーロランのことが気になるのかな。
学校は別々だし、気軽に会える関係でもなさそうだもんな。
「! コーロラン様……!?」
その名前に反応したセーリンちゃんが、ばっと顔を上げた。さっきまで脱力していたのに。
顔だけ、私に向いていた。お尻には紅茶が乗っていることを意識はしているんだろう。
なんだこのシュールな光景。
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