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第十一章 使い魔召喚編
885話 私権力に屈さないタイプの人間だから
しおりを挟む「はぁー、ここかぁ」
次の日の休日。私は大きなお屋敷の前にいた。
私のファンクラブについては、そもそもタメリア先輩が言っていたことを思い出した。魔導大会での私の活躍を見て、一部の生徒たちが立ち上げたとか。
つまり、個人が立ち上げたんじゃなくて集団で立ち上げたんだ。怖いね。
ま、そんなことは今は置いておいて。今だ今。
「王族の婚約者なら、まあこれくらい大きくても不思議じゃないのか」
私は視線を落として、手に握られた紙を見た。
それは学園祭のとき、サライアちゃんに貰った招待状だ。
……サライア・パルシュタン。この国の第二王子である、コーロラン・ラニ・ベルザの婚約者だ。
学園祭で会った時、彼女にこれを貰ったのだ。
なんで私に、とは思ったけど、せっかくくれるというのだからありがたく貰っておいた。
「クレアちゃんもくればよかったのに」
招待状を貰ったのは、私だけど、別に一人用とは言われてないし。その場にいたクレアちゃんも誘ったんだけど。
そんなとんでもない、って言われて拒否されてしまった。
クレアちゃんって結構権力に弱いよね。それとも、貴族ってそんなもんなのかな。
「それにしても、本当に大きいや」
このお屋敷、さすがに魔導学園ほどの大きさはないけど、それでも一般家庭より遥かに大きい。
その学園から結構歩く羽目にはなったけどね。
師匠と暮らしていた家の、何倍あるんだろうか。
「ようこそいらっしゃいました」
家の前で待ってくれていた使用人さんが、私を家の中に招き入れる。
うわぁ、こんな丁寧な扱いされるとむずがゆいなぁ。
「コーロランに話を通しておいてよかった」
招待状を貰っても、いきなり行っていいものだろうか。そもそも家の場所を知らない。
まあ家の場所は誰かに聞いたらわかる気がするけど、本人の確認も兼ねて婚約者であるコーロランに聞いてみよう。そう思い、早速確認した。
コーロランは、そもそも私がサライアちゃんから招待状を貰ったことに驚いていた。
で、コーロランが話を通してくれて、今日家にお邪魔することになったわけだ。
ちなみに、コーロランは私と一緒に行きたかったみたいだ。婚約者に会いたいから、ではなくて私が変なことをしないか見張るためらしい。失礼しちゃうね。
でも、用事があったので今日は来られなかったわけだ。
「こちらで、少々お待ちください」
使用人のお兄さんに案内されたのは、応接室……といったところだ。客人を待たせる場所なだけあって、豪華そうなソファーだ!
それに、案内してくれた使用人さんもイケメンだったし。いいお屋敷だなぁ。
私も将来的には、こんなところに……いや、それはいいや。普通が一番だよ。
「うわぁ、ふっかふか」
お客として利用するくらいがちょうどいい。こんな広かったら、迷ってしまいそうだし。
ソファーに腰を下ろし、その座り心地を確かめる。
この柔らかさというか、弾力というか、生徒会室にあるものよりさらに良い。
ぽよぽよとお尻を跳ねさせていると、ガチャ……と扉の開く音がした。
「あ、サライアちゃん?」
私はお尻の動きを止め、扉の方を見た。
こういう時に部屋に入ってくるのは、だいたい目的の人物のはずだ。
そして、目を向けたそこに居たのは……
「……だれ?」
小さな女の子だった。
サライアちゃんと同じように、薄い桃色の髪で……こちらは、短めだ。肩までにも届いていない。
というか、サライアちゃんをそのまま小さくしたくらいに……そっくりだ。サライアちゃんは作り物みたいな美しさがあったけど、この子は作り物みたいなかわいらしさがある。
じゃあこの子って……
「もしかして、サライアちゃんの妹?」
「……おばさん、誰?」
おばっ…………!?
……ステイステイステイ。落ち着けエラン・フィールド。こんなの、子供のただの戯言だ。
知らない人が居たんで、ちょっと驚いちゃっただけだよ。うん。
「私はね、サライアちゃんの友達だよ」
「嘘だ!」
なんとか落ち着いて話をしたいんだけど、暫定妹ちゃんは興奮した様子だ。
というか、友達だって言ってんのに「嘘だ」って……私みたいな庶民くさいやつが、お姉ちゃんの友達なわけないってか?
「いや、私は……」
「お姉ちゃんに友達なんていないよ!」
なんてことを。
これならまだ、私がお姉ちゃんの友達にふさわしくない、と言われた方がマシだったよ。
やっぱり、サライアちゃんの妹なのか。サライアちゃん、妹になんてこと思われてるんだよ。
「ふしんしゃだ! 出ていけ!」
「いや、だから落ち着いて……うわっ、ぷっ。砂、砂かけてきた!」
暫定妹ちゃんはなにかを渡しに振りかけてくる。それは砂だった。
予想もしていない行動に、私はすっかり行動が遅れてしまった。
てか、部屋の中でそんなの振りまくのやめなさいよ!
「えい、えいや!」
「わ、口に……ぺっ。この……」
このままじゃ身体中が砂まみれになってしまう。そう思った私は、立ち上がって暫定妹ちゃんに近寄っていく。
そして、その小さな頭をぽかっと叩いた。
「! いっっ、たぁい! ぼうりょくだ! でぃぶぃだ!」
「軽く叩いただけでしょうが。私なんか精神的に今暴力を受けたよ。わ、服の中に砂入ってる」
「う、ぅ、わた、わたしを叩くなんて……わたしは、パルシュタン家のじじょ、セーリン・パルシュタンよ! わたしにこんなことして、ただで済むと……」
「ごめんねぇ、私権力に屈さないタイプの人間だから。むしろ権力を盾にする人ぶん殴りたいタイプの人間だから、言葉に歯気を付けた方がいいよ」
「ひっ」
……さて。"少し脅して"おかげでおとなしくなったかな。
うーん……それにしても、どうしようか砂の散った部屋にソファー。
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