史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十一章 使い魔召喚編

902話 異常はなし

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 ……元々人の噂に戸は立てられないって言うし。そもそも口止めしてないし。
 いやそもそもって言うなら、私のことを……いや私たちのことを目撃した人はわりといたみたいだ。

 そりゃ、珍しい黒髪と赤と青の半食の男女が歩いていたら目立つか。
 それにしたって、私がパルシュタン家の長男と休日お出掛けしていた、と学園内で結構噂になったみたいで。

「みんな、そんなに気にすることかなー」

「そりゃそうでしょ」

 どこか呆れたように、クレアちゃんは言う。

「エランちゃんは知らないかもしれないけど、パルシュタン家自体かなり有名なんだから」

「その家の長男とお出掛けしていたら、噂になっちゃうわけか」

 まあ、それくらいの有名なところじゃないと、王族との婚約には選ばれないか。
 もしくは、王族との婚約に選ばれたからこそ有名になったのかもしれないけど。

「それで、実際のところどうなの?」

 我関せず、と言った表情をしているわりには、クレアちゃんも興味がありそうだ。
 やっぱりクレアちゃんも気になってたんじゃないか。

「別に、なにもないよ。ただ、かわいいとかは言われたけど」

「きゃー、なにそれなにそれ。それって、結構脈ありなんじゃないの?」

 うきうきした様子のクレアちゃん。最近こういう姿を見ていなかったので、なんだか嬉しい。

 それはそれとして、脈ありなんて……まるで私がヨークリアさんに気があるみたいじゃん。

「そういうんじゃないって。私は……」

「そこ! 私語を慎め!」

 すると、おしゃべりをしている私たちに注意の声が入った。そりゃそうだ、今は授業中なんだから。

 今は、訓練場で二人一組になって組み手をやっている。
 魔導士たるもの、魔導に頼り切っては一流にはなれない……とは師匠の言葉だけど、それは学園も同じ考え方らしい。

 身体強化の魔法などは使わず、ただ肉体一つで組み合う。それがこの授業だ。

「ごめんなさーい」

 私とクレアちゃんはペアを組み、こうして間近で組み合っているわけだ。
 なので、サテラン先生には私語が見えていたみたいだ。

 仕方ない。お話は後だ。

「よっ、はっ……」

「ったく、エランちゃんったらやりにくいのよ」

「それは身長が低いことを言っているのかな?」

「違うわ、よっ」

 お互いに手を出しては、それを弾いて牽制する。
 度々組手の授業はあるし、何度かクレアちゃんともペアを組んでいる。だからわかるんだけど……

 クレアちゃんてば、いつの間にかかなり上達してるな……

「えい!」

「わっ」

 繰り出される拳を弾くのに集中していた私は、足下のバランスが崩れたことに気付く。
 足払いをされたのだ。まさかの事態に、一瞬思考が止まる。

 私より背の高いクレアちゃんがそんな動きをしてくるとは、思っていなかったのだ。

「もらった!」

 バランスを崩し地面へと戦果が近づく私に、クレアちゃんはチョップを繰り出した。
 それを見て私は、手を後ろへと伸ばし、地面に手をつく。

 そして、手のばねを使い右方向へと飛ぶ。クレアちゃんのチョップは空回り、その場で固まる。
 その隙を見逃さず、私はクレアちゃんの背後へと回り、クレアちゃんの両手首を掴み上げる。

「ぅぐっ」

「どうだ!」

「……ま、参ったわ」

 背後を取り、手首を押さえてしまえばなにもできない。もちろん魔導が使えればその限りではないけど。

 クレアちゃんの降参を聞き、私はクレアちゃんを解放した。
 するとクレアちゃんは「はぁー」とため息を漏らす。

「まーた勝てなかったわ」

「といっても、クレアちゃんどんどん上達してるよ?」

「あんまり実感ないんだけどね」

 クレアちゃんの動きも、キレが増しているような気がする。
 それに、奇をてらった行動もした。相手の予想外の動きをするのは、有効な手立ての一つだ。

 足払いは、基本的に自分より背の低い相手がやるものだと思っていたけど……そう思っていた私の概念が、ちょっとした油断を生んでしまったわけだ。

「ところでクレアちゃん、身体に異常はない?」

「……えぇ、不思議と異常はないわ」

 自分の手を見つめ、ぐっと握っては離してを繰り返し……クレアちゃんは言う。

 クレアちゃんは……今生ける屍リビングデッドというやつになっている。魔導大会の事件で、ルリーちゃんの魔術によって生き返った姿。
 そのため、なにか身体に異常がないのか。時々確認している。

 本当は、ノマちゃんの身体を見てくれたマーチさんにでも検査を頼めればいいんだけど……状況を説明するには、ルリーちゃんがダークエルフであることにも触れなきゃいけない。
 もちろん、ルリーちゃんを気にするあまりクレアちゃんに異常が出ることがあってもいい、なんてことはない。

 どうするかを考えていると、


『別にいいわよ。ダークエルフだってことバレるの困るんでしょ。自分の身体のことは自分がよくわかるし、そう急いで考えることもないわ』


 というクレアちゃんの言葉に甘えてしまっているわけで。

 とはいえ、あの日からしばらく経っても……クレアちゃんの身体に変化が訪れた様子はない。
 曰く、以前までのように普通に生活できているとのことだけど……問題があるとすれば、どうやら体温が著しく低下しているということ。

「そんな顔しないの。あの時は、いろいろ混乱してヤなことたくさん言ったけど……こうして一緒に過ごせて、楽しいんだから」

 頭の上に、ぽんと手が置かれる。それはクレアちゃんのものだ。
 自分のことが一番不安なはずなのに、私のことを気にかけてくれているのか。

 頭に感じる手からは、以前感じていたあたたかさは感じない……でも、優しさは以前のままだった。
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