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第十二章 中央図書館編
921話 ダークエルフは本当は?
しおりを挟む「ちなみにマーチさんてさ、ダークエルフに関してはどう思う?」
「どうした急に」
「あ、いやー……ほら、エルフについて調べてたら、ダークエルフについても出てきたんでぇ」
エルフ族として一緒にされているのだから、エルフについて調べていたらダークエルフについても目にした。間違ってはないよね。
いきなりダークエルフのことを聞くのだったら不審に思われるかもしれないけど、エルフ繋がりならばそんなに不思議には思われないだろう。
そして私がダークエルフについて聞いたのは、彼女みたいないろんな分野を研究している人の感想を聞いてみたかったから。
「あー、まあ目についちゃうよね。マーも、エルフのこと調べてるときちょいちょい目にしてたし」
ふぅ、大して疑問に思われなくてよかった。
マーチさんなら、個人の視点でもあんまり主観にとらわれずに答えてくれるはずだ。多分。
「ダークエルフかぁ……エルフ以上に資料が少ないんだよねぇ。でも、あんまり……いやかなりよく思われてない種族だってのは確かだね」
私たちは席に座り、マーチさんは背もたれにもたれてうんと背を伸ばした。
研究やらなんやらで座ってばかりいるのか、伸ばした箇所からパキポキと聞こえてくる。
それから、ふぅと息を漏らす。
「エランちゃんは、ダークエルフのことに関しては?」
「えっと……一般的な部分は知ってると思います」
「そっか。
マーは、自分の目で確認したものを信じるようにしてる。けど……大昔にあったことを目にするのは無理なわけで、残された書物なんかを漁るしかない。でも、残ってる書物も少ないしダークエルフに悪いことばかり書かれてる」
そうだよなぁ。ダークエルフがしたことが悪いことなんだから、当然といえば当然なのかもしれないけど。
「歴史に残すくらいに、彼らのやったことが悪いことばかりだったのか……それとも、書物を残した誰かはダークエルフを悪く思わせたいのか」
「……悪く?」
「あはは、マーの勝手な想像だけどね。"殺戮の夜"なんてとんでもないこと、本当に起こったのならそりゃそれ以外のことは残らないかもしれないけど……本当に起こったっていう証拠もない」
それは、個人的な予想ではあった。でも私は、そこまで考えが至らなかった。
そりゃ、そうだ……本に書いてあることだけが真実ってわけじゃない。確認する術がそれしかないのだ、そこに書いてあることが真実だと思ってしまう。
それに、それほど大昔に起こったことなら……誰だって、当時の状況は知らないだろう。
「誰かが意図的に、ダークエルフを悪者に仕立て上げたってこと?」
「可能性の一つとして、ね。もちろん本に書いてあることが真実かもしれない。
でもマーは、そこに書いてあることを全部鵜呑みにはしない。そこに書いてあることを検証して、確認して、初めて真実を目にすることができる」
……なにが真実で、なにが真実でないのか。それは、私たちにはわからない。
でも、なにか一つでも真実にたどり着ければと研究を続けるのが、マーチさんという人だ。
なんか、ノマちゃんが尊敬するくらいにすごい人なのがわかった気がするな。
「一番いいのは、ダークエルフをいろいろ調べてみることなんだけどねぇ。本当に闇の魔術なんてものが使えるのか、そもそも銀髪に褐色の肌、尖った耳に緑色の瞳なんて本当なのか。
確かめたい、確かめたいよぉおぅふふふ」
……それとおんなじくらい、変人だっていう気持ちも生まれてきたけど。
「じゃあ、マーチさんの中じゃダークエルフは悪者じゃないんですね」
「まー、そうとも言えるしそうとも言えない。なーんか、ダークエルフのことを考えると胸の中がムカムカしてくるんだよねぇ」
ムカムカ、か。……世界の人たちは、本能的にダークエルフを嫌う。そういう"呪い"をかけられている。
その可能性は、ここにきて飛躍的に上がったと言える。
もしも、ダークエルフを悪者にしたい何者かがいたとして。その何者かがダークエルフを悪く書いた本をばらまいて、世界中の人に呪いをかけた。
「……なんて、考えすぎかなぁ」
「ん?」
そんなの、とてもじゃないけど個人でできることじゃないし。組織的なものだろう。
いや、だとしても。呪いがかけられたのが本当だとして、それはどんだけ昔だって話だ。呪いをかけた当人だってとっくに死んでるし、死んだあとも続く呪いなんて聞いたことがない。
まして、世界規模で何百年……もしかしたら何千年、それ以上もの時間を。
「……エルフのついでにダークエルフのことが気になったわりには、ずいぶんとダークエルフのことを気にするんだねぇ」
「ドキギクゥ!」
急にマーチさんから鋭い指摘!
……いやまあ、気にもなっちゃうか。
ま、まずい。たまたまダークエルフのことが目に入った……って言っちゃっただけに、あんまり気にしすぎるのは不自然だったか。
「いや、あのですねぇ……」
「……別にいいよ、深く聞くつもりはないし」
なんとか言い訳しようとしていたけど、マーチさんは話さなくていいと言ってくれる。
た、助かったぁ……下手に言い訳しようとしたら、ぽろっとルリーちゃんのことを言ってしまいそうだったもんな。
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