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第十二章 中央図書館編
948話 年を取らない理由
しおりを挟むエレガたちにかけた魔法、それが『絶対服従』。基本的に私の命令には従ってしまうものだ。
だけど、あんまり私の命令が突飛すぎたり、命令に従うことで命の危険があるようなものには従わない。なんとも妙な魔法だ。
これは尋問とかに使えそうなような、使えなさそうなような。
ともかく、こうして抵抗せず牢に繋がれていろ……って命令くらいならば従ってしまうわけだ。
「それにしても、すさまじい持続力だな。それも、一人でなく複数にかけて……か」
「私も、人に試すのは初めてだからこんなに長続きするなんてびっくりだよ」
「おい、今とんでもないこと言ったぞこの女」
これは師匠から教えてもらった魔法だけど、あんまり多用しないようにとも言われていた。
そもそも『絶対服従』なんて言葉がまずいいイメージがないしね。使うならば最低限だ。
これは多分だけど、私の魔力が尽きない限りは持続する魔法だ。人数が増えればそれだけ使う魔力も増えるわけだけど、これはクロガネと契約したことでほぼ心配することはなくなった。
クロガネの魔力も合わせればそれは莫大だからね。
それにしても、相手を服従させる魔法なんて、それだけ聞いたら闇の魔術みたいだ。これは魔術でもなく魔法なんだけどね。
「……あんたたち、テンセイシャだって前に言ってたよね」
「あん?」
この場にはゴルさんもいるけど……ゴルさんなら、特に取り乱すこともないだろう。それに、知っておいて損はないはずだ。
魔大陸でこいつらと戦った時、『せっかくこの世界にテンセイしたから好きに暴れまわってやる』……みたいなことを言っていた。
そのテンセイという言葉は、初めて会ったヨルが使っていたもの。
そして……ヨルとマヒルちゃんが使っていた言葉で、あの本に書いてあったこと。別の世界で死んだ人間が、この世界に生まれ変わること。
それがテンセイ……転生だと。
「なにを聞きに来たかと思えば。そんなこと確認してどうするつもりだよ」
「別にどうするってことはないけど……ただ、知っておきたいんだ」
「はぁん……言った通り、俺たちは転生者だ。今さら……いやそもそも最初から隠すつもりなんてないけどな」
まあ自分たちで言っていたんだもんな、転生者だって。
それでも、こうしてちゃんと向き合って聞くのは初めてだ。
そして、これも……なかなかタイミングが掴めなくて、聞けなかったけど。
「あんたたち、どうして年を取らないの?」
「……」
「なに?」
押し黙るエレガ。そして後ろでゴルさんは困惑の声を上げている。
それも当然だろうな。私は五十年前のことを誰にも話してないし、ゴルさんでも知らないのは無理はない。
……ダークエルフの件に触れることになる。でも、ゴルさんなら……あくまでもルリーちゃんとかの部分は隠して……
「五十年前、あんたたちはダークエルフの故郷を襲ったね。そのときから、容姿がまったく変わってないのはどうして?」
「……どういう事だ。エラン」
「ごめん、後でちゃんと説明するから……」
説明といっても、ルリーちゃんのことは話せないから……そこを省いて、どう説明をしようか。
そもそも私がダークエルフであるルリーちゃんの記憶を見たから知ったわけで。
知った経緯からなんか躓きそうな気がするんだけど……まあ、なるとかなるよ多分。なんとかなれー。
「ダークエルフの故郷……? ……あぁ、はは。ありゃあ楽しかったなぁ。今思い出してもうずうずしちまうぜ」
「……っ」
こいつ……! わざとか? わざとそんなこと言って私を怒らせようとしているのか?
檻の向こう側にいるから私が手を出せないと思って、こいつ……!
「んな気にするようなことか? ダークエルフはこの世界じゃ嫌われてる……嫌われ者を掃除してやったんだ。むしろ感謝されるべき……」
「お前……!」
「エラン、落ち着け」
牢の中のエレガに向かって足を進めるけど、ゴルさんに手首を掴まれその場で止められてしまう。
そうだ、落ち着け……ここで暴れても、なんにもならないんだ。
「……ふぅ、うん、大丈夫だよゴルさん。
……話をすり替えるな。ダークエルフの話じゃない、年齢の話をしてるんだ」
「はは、そんな気になるか? 別にエルフだって五十年程度じゃ見た目も変わらない……どっちでも同じだろ」
「お前は人間だろ」
こいつ、ずっと退屈だって言ってたな……まさか私との会話に楽しさを見出して、適当に話をしようとか思ってるんじゃないだろうな。
そう思ってると、エレガが「はっ」と笑った。
「んな深い理由はねえよ。この世界に転生するとき、望みはないか聞かれたから老いない身体が欲しいって答えただけだ。まさか本当に年を取らねえとは思わなかったけどな」
「……」
「信じてねえ顔だな。あんたになら、これが嘘か本当かくらいわかるだろうが」
……確かに、『絶対服従』の魔法が効いている限り、下手な嘘や誤魔化しは通用しない。
そう考えると、今の話は本当なのだろう。
年を取りたくないと望んだからその身体が手に入っただって? どんな魔法だそれは。
「いいもんだぜ。若い身体のままってのは……好きに暴れられるし、なんでもやりたい放題ってな!」
やたらと楽しそうに笑うエレガ。他の連中も、こんな感じなのだろうか。
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