史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十二章 中央図書館編

960話 身体強化のぶつかり合い

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 全身を魔力で身体強化しているオートラインさんの拳と、右腕のみを魔力で部分強化している私の拳とがぶつかり合う。
 全身を魔力で纏う暇がなかったとはいえ、拳には結構な魔力を込めた。だというのに……

 じ、じんじんする……! ぶつかった拳がじんじんする!
 魔力で鎧みたいになっているから、魔力に差があればこっちにも衝撃は伝わる……んだけど。

 正直な話、魔力にそこまで差があるとは思えないんだよな。
 てことは、このじんじんは別の要因から……

「ぬぐぐ……うわっ」

 力を込めていたけど、やがて拮抗は崩れる。じんじんした衝撃はやがてびりびりになり、拳から腕に衝撃が伝わる。
 そのため思わず気が引けてしまい……その隙を 、オートラインさんは見逃さない。

「お、らぁ!」

「!」

 繰り出されるのは蹴り。その鋭い蹴りは、いったいどれほどの威力を持っているだろう。
 素の拳が地面を割るんだ、身体強化された蹴りなんて想像もしたくない。

 けど、避けられない。なら……

「ぬっ……ぐぅ!」

 蹴りの放たれた腹部へ、蹴りがぶつかる直前に魔力で防御する。魔力壁だ。
 ただ、それは鎧のように硬いというよりはスライムのように弾力のあるもの。蹴りがぶつかり、魔力壁が間に挟まっていることで直接腹部に蹴りがぶつかることはないけど……

 代わりに、消しきれない衝撃が襲いかかる。

「ぅ、あぁ!」

 そのまま私は、勢いを殺しきれずに後方に吹っ飛んでしまう。
 このままじゃ受け身も取れずに地面に激突する……それを避けるため、私の背中が打ち付けられるであろう場所に魔力のベッドをイメージ。

 その上にふんわりと身体が飲み込まれて、地面に打ち付けられる痛みもなく無事だ。

「あっぶなー。女の子のお腹を容赦なく狙ってくるとか、ちょっとひどいんじゃない」

「安心しろ、ウチには優秀な回復専門の魔導士がいるんだ。たとえ内臓が裂けても、元通りにしてくれるだろうぜ」

「……」

 冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ。……冗談だよね?

 あの蹴りが内臓破壊するほどの威力があるかはともかくとして、いくら凄腕の回復魔導士がいてもその瞬間の痛みは消せないんだから。勘弁してほしいよ。
 まったく、口の中爆発させてきたゴルさんといい、王族関係の男共はどうなってる……

「……あれ? そういえばこの部屋ってダメージ軽減の結界張ってなくない?」

「あん? んなもんあったら訓練にならねえから設置なんざしてねえぞ」

「……」

 け、結界なし……!?

 学園での試合や決闘、魔導大会の場でさえ、一定のダメージは致命傷にはならないように舞台に結界が張ってある。
 ゴルさんがあんな無茶したのも、結界のおかげでたいしたダメージにはならないからだ。それでも乙女の体内を爆破なんて普通じゃないけど。

 ……そうか、この人はいつもこの部屋で訓練している。自分を鍛え上げるための部屋なんだから、ダメージ軽減の結界なんて張っていたら意味ないってことか。

「なんだよおい、もしかして怖気づいたのか?」

「! 誰が」

 結界がないのは、少し驚いただけだよ。でも、これくらいはなんともない。

 私だって、魔獣と戦ったり魔大陸で戦ったり、結界がない場所でもいろいろやってきたんだ。
 今更、結界がないくらいで怖気づいたりしない。

「その代わり、ケガしても文句言わないでね」

「ははぁっ、いいねぇその意気だ!」

 改めて、私は構える。そして、呼吸を整えて……全身に、魔力を流す。
 魔力による身体強化は、ダルマスとやり合ったことがきっかけでクラスの中でも、大事な基礎としてみんなの認識は改まった。

 身体強化こそが魔導の基礎。だけど、基礎ゆえに極める者は少ない。部分強化はできても、全身強化はできない人も多い。
 もちろん、全身強化ができれば完成というわけではない。場合によっては部分強化の方が使えることもあるし、その場の判断基準ができるようになることが大切なのだ。

「ふぅ……」

「お、魔法撃つのはやめたのか? なんなら、魔術でも撃ってきていいぜ。詠唱とやらが必要なら待ってやる」

「ううん、まずは私もこれを試したくなったから」

「そうか……なら俺も……
 ……"一段階目ギア・プライマリー"」

 私とオートラインさん、お互いに魔力が全身を纏っていく。

 私とオートラインさんに大きな魔力差はない……というか、むしろ私のが上だと思う。
 なんせクロガネと契約したおかげで、魔力が大幅に上昇したんだから。だから、魔力に差があるとしても逆に私の方が上のはずだ。

 なのにさっきじんじんきたってことは、魔力以外の部分でなにかがあるんだ。そのなにかってのが、武術のエキスパートと呼ばれるゆえんかもしれない。

「行くぞ!」

 自分に気合いれるためか、声を荒げるオートラインさんはまたも私に向かって走り出す。
 さっきから真正面から向かってくるのが多いのは、もうそういう性分なんだろうな。なんか、この短時間でそういう性格だってわかってきた。

 私も身体強化しているおかげで、目で追える……

「そこだ!」

 リーチ内に入ったオートラインさんに向けて、私は回し蹴りを放った。
 防御することもなく、私の足はオートラインさんを捉え……すり抜けた。

「!?」

「残像だ。魔法なんざ使わなくても、気迫で本当にそこにいるように見えただろ?」

 次の瞬間には、右下あたりから声が聞こえた。視線だけ移すと、そこにはオートラインさんの姿。
 打ち上げるように振るう拳を、私はギリギリのところで逆足の膝を上げてガードする。

「へぇ、よく反応できたもんだ」

「いだだだだだ!」

 膝にめり込む拳……痛い痛い痛い! 私のお御足が痛い痛い痛い!

 ただ、回し蹴りをしていて直後もう一方の膝を打ち上げたのでバランスが変な感じになり、足が滑る。
 そのせいで、拳の衝撃も重なり派手にぶっ飛んでしまった。

「わっ……ぁ、ぶへぇ!」

 そして私は、今度こそ受け身も取れずに地面に顔面から着地してしまった。
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