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第十二章 中央図書館編
961話 変な意地
しおりを挟む拳の衝撃に吹き飛ばされた私は、そのまま後方にぶっ飛んでしまう。
そして着地に失敗し、地面に顔面を強打してしまったのだ。
「ぶへぇ!」
あっ、いったぁ……いってぇ、なんだこれ……!
鉄製の地面に、ダメージ軽減の結界もない状態で顔面をぶつけたんだ。それも当然か……
それにしたって、こんなに顔が痛いの久しぶりかもしんない。
「ぐぅ……!」
「お、おい、大丈夫か。血やら涙やらで大変なことになってるぞ」
起き上がる私に、オートラインさんが心配したように声をかけてくれる。
自分でぶっ飛ばしといて……って、それだけ今の私の顔がひどいことになってるんだろうけど。
あんな派手に激突するとは思ってなかったんだろうなぁ。
「うぐぐ……だ、大丈夫だから……うわ、額からめっちゃ血ぃ流れてる」
地面にはポタポタと血が垂れているし、これ結構イッたなぁ。
とはいえ、この程度の傷なら……
「ぐぅ……ふぅ……」
「お、回復魔術か」
そう、自前で回復できる。傷は塞がるし、痛みも引いていく。
回復魔術があれば、たいていの傷は治せる……とはいえ、痛みを受けるその瞬間の痛みまでは消せないので、回復魔術があるからってがんがん攻撃を受けるなんてことはしたくないけど。
気を取り直して、私は構え直す。それを見て、オートラインさんもまた構える。
「わざわざ待ってくれたんだ」
「こいつが試合や決闘ならともかく、手合わせだからな。それに、かわいい女の子の顔に傷でも残ったら大変だ」
「どの口が」
いやまあ、着地に失敗して顔面からイッたのは私のミスなんだけどさぁ。
……そうか、確か凄腕の回復魔術の魔導士がいるって言ってたっけ。あれくらいの傷……いやもっと深手でもわけないんだろうな。
だから遠慮もない。遠慮してほしいなんて思ってないけど。
再びにらみ合う……のも一瞬。オートラインさんは今度は踏み出したその足で高く跳ぶ。
助走もなしに、あんな跳ぶなんて……それに、魔力による補助は身体強化のみだ。
「おぉおおお……」
そしてオートラインさんはその場で横回転を始める。ぐるぐるぐる……と何度も回り、そのまま私に向かって落下してくる。
落下の勢いを利用しての、回転蹴り。しかも狙いは寸分狂わず私。
これまた高度なことを……
「お、らぁ!」
「せいや!」
繰り出される蹴りに、私も蹴りをぶつけて相殺。やっぱり、じんじんと痛みが走る。
でも、さっきよりも魔力を多く流しているおかげか、さっきよりはまだ痛みは感じない。
といっても……
「ははっ、律儀にぶつかり返してくるとは! いいぜお前!」
「どう、も!」
確かに避けたりしてもよかったんだけど……この人とはなんでか、正面から堂々とぶつかりたくなった。
そのまま拮抗する力は弾け、お互いに後ろに下がる。
受け身ばかりじゃだめだ。今度はこっちから!
「うりゃあああ!」
いったん下がり、それを助走の助けにしてスタートを切る。飛び出すようにオートラインさんへと向かい、右拳を放つ。
オートラインさんは同じく右拳を突き出し、またも拳と拳が衝突する。
「ぬっ……りゃりゃりゃ!」
今度は、そのまま拳をぶつけるのではなくいったん引き、逆の拳を突き出す。それを防がれたらまた逆の拳を。
両拳の乱打を浴びせる。身体強化で速度も上昇しているはずだけど、それらすべてを捌いてくるのはさすがか。
「ははっ、いいねぇ。受け身ばっかの女は好みじゃねぇ、戦闘でもベッドの上でもな!」
「なに言ってるかわかんない、よ!」
くぅう、拳がぶつかる度に痺れるぅ。ほんっとどうなってんだよ!
もしかしてだけど……私の知らない技法とか、そういうのがあるのかもしれないな。
魔力が少なくても、相手に決定打を与えられるようななにかが……
「こんなにヤり合えるのは久しぶりだ。もっと楽しもうぜ!」
「うわっ」
テンションの上がってきたらしいオートラインさんが、笑いながら反撃を開始する。私の拳を捌いてばかりだったのが、今度はオートラインさんの方が攻めを開始したのだ。
こ、これは……ちょっと、やばいかも……
「どうした、俺に合わせて身体強化の魔法だけ使う必要もないんだぜ!? 回復魔術みたいに、他の魔導とも併用できるんだろ!?」
「……っ、それは、そうだけど……」
「変な意地なんか捨てて、お前の全力を見せてみろ!」
……変な意地、ね。確かにそうかも。
手合わせとはいえ、せっかくこうしてタイマン張ってるんだ。相手が身体強化しか使わないと言ったからと言って、私までそれに合わせる必要はない。
だったら……
「おっ……!?」
私への反撃に夢中になっているオートラインさんに向かって、横から大気の塊をぶつける。魔力の塊……と言ってもいいけど。
さすがに注意力が私に向いていたから、無防備な身体に簡単に衝突した。そのままふっ飛ばされる。
遠距離からの攻撃は効果が薄い……ってのはさっき実践したばかりだけど。
「これなら……どうだ!」
さっきは、数で攻め込もうとした。そのため一つ一つの力が弱まっていたのかもしれない。
なら今度は、単純に質量だ。大きさと魔力を込めて、一気に押しつぶす。
巨大な氷の玉を、放つ。以前魔獣に放ったときと同じ……いやあの時とはシチュエーションが違うから、それよりも強いものだ。
「っとと……いいねぇ、そうこなくちゃ!」
危なげなく着地したオートラインさんは、やはりにやりと笑って……
「"二段階目"!」
そう、口にした。
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