975 / 1,141
第十二章 中央図書館編
962話 全力で試したい
しおりを挟むその直後、オートラインさんの魔力はさらに膨れ上がる。さっきまでも身体強化していたはずなのに、その力が増した感じというか。
なんだろう、膨れ上がる魔力の量……
「ただ ぶっ壊すんじゃ、面白くねえな……」
にやりと笑い、呟いたかと思えばその場に踏ん張る。氷の塊が迫っているのにだ。
そして、両手を前に突き出して……
「ふん!!」
勢いのあるそれを、受け止めた。人が受け止められるような大きさではないのに。
少し後ずさりをしたけど、やがて氷の塊は完全に止まる。
それをどうするのか……考えるまでもない。オートラインさんは身を振りかぶり、氷の塊を投げ返してきた。
「うそぉ!?」
その大きさの氷の塊を受け止め投げ返すことも驚きなのに、投球ならぬ投氷の速度が恐ろしく早いのだ。
あれ、普通に魔法で撃つよりも強く速く飛んできているんじゃあ……!?
「くっ……せいや!」
手っ取り早く対処するには……やっぱり、この拳か。
迎え撃つように、拳を振りかぶり……繰り出す。私の拳は、氷の塊に衝突する。
自分の魔法を、自分で対処する……これだって、経験がないわけではない。
師匠のところに居た頃はよく、似たようなことをやっていたものだ。基礎体力を上げるため、自分の魔法をわざと自分に跳ね返して、それをぶん殴るやり方。
一人でも、効率的に訓練できる方法だ。
「おりゃあ!」
バリンッと氷は粉々に砕ける。どんなもんだい。
……って、言ってる場合じゃないな。氷が割れ視界が晴れると、そこにはオートラインさんの姿。
今の氷の後ろに隠れて、オートラインさんが迫ってきていた。あの速度に追いつけるとかどんなだよ。
それに……
「……っ!」
消えたように。目の前にまで移動してくる速度が、上昇している……!?
もしかして、これって……
「らぁ!!」
「ぬぐっ……!」
振るわれた拳に、こちらは腕をクロスしてガード。さらに、その前に魔力壁を張る。
拳が魔力壁にぶつかり、しかしパリンと音を立てて割れる。それだけじゃない、
勢いの死んでいない拳は、私の腕にぶつかり……
「ぬぅ……っと!」
「! へぇ……」
私はその場で耐えるのではなく、自分から後ろに飛ぶ。
「後ろに飛んで衝撃を殺したか。力は受け止めるより流しちまった方がいいもんな」
「あなたの魔法って、もしかして……」
ここまでやり合ってきて、気付いたことがある。
この人は、この手合わせでは身体強化の魔法しか使わないと言っていた。けど……
「お、そうさ。俺は、身体強化の魔法しか使えない。他の才能はからっきしだ」
……身体強化の魔法しか、使えない。それがこの人の魔法。
魔法には適正もあるし、そりゃ一部の魔法しか使えないってことはあるけど……
身体強化の魔法は魔法の基礎だけに、それだけしか使えないってのは……聞いたことがないな。
ていうか……
「ちょっと! 身体強化の魔法以外使わないって約束、身体強化の魔法しか使えないんじゃ全然意味ないじゃん!」
「ぷっ、あははは! そう怒んなっての、軽いジョークだろ」
物は言いようというか……すっかり騙されたよ。
「あぁ、俺にはこれしかねえ。ガキの頃は、身体強化の魔法しか使えないことをバカにされたりもしたっけなぁ」
「!」
「あぁ、勘違いすんなよ。別につらい思い出とかじゃねえし。むしろ感謝してんだ」
「感謝?」
「そうさ。おかげで俺は……こいつを極めて、バカにしてきた奴らを見返してやろうって思えたからな」
拳を握り締め、どこか誇らしく言うオートラインさん。
身体強化の魔法しか使えない……それがいったいどんな気持ちだったのか、私にはわからない。
単に魔法が使えないだけなら、他にいっぱいいる。しかし、基礎である身体強化の魔法しか使えない。これは、いったいどんな気持ちだったのだろう。
周りになにを言われてきたのだろう。
でも、それに折れることなく……むしろ、他のみんなを見返してやろうと、努力を重ねてきた。
「その結果……俺は、段階的に身体強化を引き上げることに成功した」
「だ、段階的?」
「そうさ。いきなり全力でイケねえのはちと面倒だが……代わりに、存分に楽しめる。
なんせ、いきなり全力なんて出したらすぐに終わっちまう」
段階的に魔力を増す、身体強化の魔法。そんなのもあるのか。
身体強化の魔法。部分強化から全身強化……それを極めれば、なににも硬い鎧のようなものになると思っていた。
でも、まだまだ。私の知らないことがあったんだ。
「あとはまあ、こいつと相性がいいのも良かった。身体強化の魔法は、純粋に身体機能を引き上げる魔法だ。だから、俺は自分を鍛えることが苦じゃなかった」
武術のエキスパート……カゼル・オートラインか。そのストイックな性格と、自分の魔法との相性。
この人の強さが、少しはわかった気がする。
「そんなの聞いたら……私も、試してみたくなるじゃん。身体強化の魔法が、どこまでイケるのか」
「……あぁ、試してみてくれよ」
ふぅ、と私は一呼吸置く。そして、目を閉じて集中する。
本来、こんな無防備な姿……対峙している相手にさらすなんて、どうぞ攻撃してくださいと言っているようなものだ。
それが魔術詠唱の難点。けれど、オートラインさんは妨害することはない。
だってお互いに、全力を試したいから。
「今は眠りし創生の炎よ……」
「ひひっ、来い。"三段階目"……」
私の周りの大気が震え……それと同時に、オートラインさんの魔力がさらに膨れ上がっていく。
10
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる