史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十二章 中央図書館編

962話 全力で試したい

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 その直後、オートラインさんの魔力はさらに膨れ上がる。さっきまでも身体強化していたはずなのに、その力が増した感じというか。
 なんだろう、膨れ上がる魔力の量……

「ただ ぶっ壊すんじゃ、面白くねえな……」

 にやりと笑い、呟いたかと思えばその場に踏ん張る。氷の塊が迫っているのにだ。
 そして、両手を前に突き出して……

「ふん!!」

 勢いのあるそれを、受け止めた。人が受け止められるような大きさではないのに。
 少し後ずさりをしたけど、やがて氷の塊は完全に止まる。

 それをどうするのか……考えるまでもない。オートラインさんは身を振りかぶり、氷の塊を投げ返してきた。

「うそぉ!?」

 その大きさの氷の塊を受け止め投げ返すことも驚きなのに、投球ならぬ投氷の速度が恐ろしく早いのだ。

 あれ、普通に魔法で撃つよりも強く速く飛んできているんじゃあ……!?

「くっ……せいや!」

 手っ取り早く対処するには……やっぱり、この拳か。
 迎え撃つように、拳を振りかぶり……繰り出す。私の拳は、氷の塊に衝突する。

 自分の魔法を、自分で対処する……これだって、経験がないわけではない。
 師匠のところに居た頃はよく、似たようなことをやっていたものだ。基礎体力を上げるため、自分の魔法をわざと自分に跳ね返して、それをぶん殴るやり方。

 一人でも、効率的に訓練できる方法だ。

「おりゃあ!」

 バリンッと氷は粉々に砕ける。どんなもんだい。

 ……って、言ってる場合じゃないな。氷が割れ視界が晴れると、そこにはオートラインさんの姿。
 今の氷の後ろに隠れて、オートラインさんが迫ってきていた。あの速度に追いつけるとかどんなだよ。

 それに……

「……っ!」

 消えたように。目の前にまで移動してくる速度が、上昇している……!?
 もしかして、これって……

「らぁ!!」

「ぬぐっ……!」

 振るわれた拳に、こちらは腕をクロスしてガード。さらに、その前に魔力壁を張る。

 拳が魔力壁にぶつかり、しかしパリンと音を立てて割れる。それだけじゃない、
 勢いの死んでいない拳は、私の腕にぶつかり……

「ぬぅ……っと!」

「! へぇ……」

 私はその場で耐えるのではなく、自分から後ろに飛ぶ。

「後ろに飛んで衝撃を殺したか。力は受け止めるより流しちまった方がいいもんな」

「あなたの魔法って、もしかして……」

 ここまでやり合ってきて、気付いたことがある。
 この人は、この手合わせでは身体強化の魔法しか使わないと言っていた。けど……

「お、そうさ。俺は、身体強化の魔法しか使えない。他の才能はからっきしだ」

 ……身体強化の魔法しか、使えない。それがこの人の魔法。

 魔法には適正もあるし、そりゃ一部の魔法しか使えないってことはあるけど……
 身体強化の魔法は魔法の基礎だけに、それだけしか使えないってのは……聞いたことがないな。

 ていうか……

「ちょっと! 身体強化の魔法以外使わないって約束、身体強化の魔法しか使えないんじゃ全然意味ないじゃん!」

「ぷっ、あははは! そう怒んなっての、軽いジョークだろ」

 物は言いようというか……すっかり騙されたよ。

「あぁ、俺にはこれしかねえ。ガキの頃は、身体強化の魔法しか使えないことをバカにされたりもしたっけなぁ」

「!」

「あぁ、勘違いすんなよ。別につらい思い出とかじゃねえし。むしろ感謝してんだ」

「感謝?」

「そうさ。おかげで俺は……こいつを極めて、バカにしてきた奴らを見返してやろうって思えたからな」

 拳を握り締め、どこか誇らしく言うオートラインさん。

 身体強化の魔法しか使えない……それがいったいどんな気持ちだったのか、私にはわからない。
 単に魔法が使えないだけなら、他にいっぱいいる。しかし、基礎である身体強化の魔法しか使えない。これは、いったいどんな気持ちだったのだろう。

 周りになにを言われてきたのだろう。
 でも、それに折れることなく……むしろ、他のみんなを見返してやろうと、努力を重ねてきた。

「その結果……俺は、段階的に身体強化を引き上げることに成功した」

「だ、段階的?」

「そうさ。いきなり全力でイケねえのはちと面倒だが……代わりに、存分に楽しめる。
 なんせ、いきなり全力なんて出したらすぐに終わっちまう」

 段階的に魔力を増す、身体強化の魔法。そんなのもあるのか。
 身体強化の魔法。部分強化から全身強化……それを極めれば、なににも硬い鎧のようなものになると思っていた。

 でも、まだまだ。私の知らないことがあったんだ。

「あとはまあ、こいつと相性がいいのも良かった。身体強化の魔法は、純粋に身体機能を引き上げる魔法だ。だから、俺は自分を鍛えることが苦じゃなかった」

 武術のエキスパート……カゼル・オートラインか。そのストイックな性格と、自分の魔法との相性。
 この人の強さが、少しはわかった気がする。

「そんなの聞いたら……私も、試してみたくなるじゃん。身体強化の魔法が、どこまでイケるのか」

「……あぁ、試してみてくれよ」

 ふぅ、と私は一呼吸置く。そして、目を閉じて集中する。
 本来、こんな無防備な姿……対峙している相手にさらすなんて、どうぞ攻撃してくださいと言っているようなものだ。

 それが魔術詠唱の難点。けれど、オートラインさんは妨害することはない。
 だってお互いに、全力を試したいから。

「今は眠りし創生の炎よ……」

「ひひっ、来い。"三段階目ギア・ターシャリー"……」

 私の周りの大気が震え……それと同時に、オートラインさんの魔力がさらに膨れ上がっていく。
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