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転生魔王は友達を作る

ホームルーム

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 教師が入ってきたことで、話は中断。俺たちは、席につく。
 担任であろう女性教師。メガネをかけていて、おっとりした雰囲気だ。
 おっとり……といえば聞こえはいいが、頼りなさそうとも言い換えられる。

 軽くウェーブをかけている茶髪を手で撫で付けつつ、生徒全員が座るのを確認する。

「皆さん、はじめまして。今日からこのクラスの担任になる、桜井 さきです。
 というか、このクラスが私にとっての初担任なんですけどね。
 よろしくお願いします」

 初担任……か。それは、気合いの入ることだろう。
 頼りなさげな雰囲気がありつつ、威厳を見せようと努力しているのが伝わってくる。

「今日は入学式だけですが、クラスのみんなと仲良くなりたいので、それぞれ自己紹介をしていってください」

 自己紹介……あぁ、そういうのもあるのか。面倒だな。
 とはいえ、他の生徒もぶつぶつ言いながらも、案外乗り気だ。

 その後、ひとりひとり自己紹介をしていく。
 いわば、ここが今後の高校生活での、己の立場を決める一つの分岐点となるだろう。

 ある者は真面目に、またある者は笑いを取りに。
 それぞれ個性を見せつつ、自己紹介は進んでいく。

「鍵沼 流水だ。これからクラスを盛り上げていこうと思うんで、よろしくぅ!」

「き、如月 さな……です。よろしくお願いします」

「光矢 真尾……です。えー、みんなと、仲良くできるといいなと、思って……ます」

「静海 あいです! 気軽に話しかけてください! よろしく!」

 くそ、こういうときは鍵沼の能天気さが羨ましい!
 あいも自信たっぷりだ。俺に物怖じしなかったことといい、やはり度胸がある。

 一方俺は、なんというか……変に緊張してしまった。
 人前でなにか言うのは、苦手なんだよな……

 かつては魔王軍を率いたこの俺が。たかが数十人のクラスメート相手に緊張だと。
 ……まああの頃も、魔族への指揮などは参謀たちに任せていたのだが。

「はい、みんなありがとう。
 今は名字順で座ってもらってるけど、近いうちに席替えをするので」

 教師……桜井先生は嬉しそうに、手を叩く。
 その口で、近いうちに席替えをすると……告げた。

 ふむ、席替えか……俺としては、さなと隣同士になればあとはどうでもいい。
 席替えの方法は、くじだろうか。

 ……いっそのこと、魔力を使ってさなと隣同士になるように、操作して……

「……いや、おかしなことを考えるな俺よ」

 席替えのために、限られた魔力を使うなど……どうかしている。
 魔力を使うのは、ここぞというときだと決めている。

 そしてさなと隣同士になるかならないかというタイミングが、まさにここぞというとき……

「……」

「な、なにかな光矢くん」

「いや、なにも」

 いっそ、先生に賄賂的なものでも送ろうかと考えたが……やめた。
 こういうのは、小細工なしのほうがいい。
 そう、小細工なし。その上で俺とさなが隣同士になれば、それはもう運命と言わざるを得ないだろう。

 ならば俺は、運命に身を任せようではないか。

 その後、ホームルームは終わり……解散となった。
 両親はすでに帰っているだろうし……

「さな、一緒に帰らないか」

「!」

 となると、俺の取る行動は一つ。
 せっかくだ、互いの距離を縮めるためにも、ちょうどいいだろう。

 共に下校の申し出。
 それを受け、さなは肩を跳ねさせた。

「あー、えっと……」

「どうした。なにか用事でもあったか?
 だったら……」

「そういうわけじゃ、ないん、ですけど……」

 特に用事はないというが……それにしては、さなは目を泳がせている。
 おまけに、少し顔も赤い。

「もー、だめだよ光矢クン」

「? なにがだ」

 そこへ、あいが割り込んでくる。

「少しは乙女の気持ちも考えないと。
 積極的なのは美点だけど、あんまりグイグイいくと嫌われるよ?」

「む……嫌われるのは、困る」

 あい曰く、乙女の気持ちも考えろ、ということらしい。
 この場合の乙女とは、さなのことだろう。

 さなの、今の気持ち……か。

「困るなら、一旦ストップ。
 わかった?」

「んん……難しいな、乙女の気持ちというやつは」

 結局、考えてもわからなかった。
 人間の乙女の気持ちというのは、難しい。

「さなちゃんは別に、光矢クンと一緒に帰るわけじゃないよ」

「? そうなのか? なら……」

「なにもかもいきなりすぎるって話!
 今朝の告白についても、まだお互いのことをなにも知らないのに、いきなりすぎだよ」

 眼前に指を突きつけられ、あいに注意される。
 身長の低い相手だが、その迫力には逆らい難いものがあった。

「あ、あいちゃん……」

「さなちゃんもさなちゃんだよ!
 困ってるならビシッと言わないと!」

「だってぇ……」

 ビシッと、か。それは、さなには難しいだろう。
 つい数ヶ月前まで、女子校に通っていたらしいし。男子に物申すのは、慣れていないのだろう。

 となると、ますますあいの度胸が見上げたものになる。

「ま、ここは友好を深めるって意味で、私も付き添うよ。
 いきなり二人きりってのも、気まずいでしょ?」

「あ、ありがとうあいちゃん」

 俺は別に気まずくないが……そういうところも、乙女の気持ちわ考えろってことか。
 まあ、さなが納得するならそれで……

「なになに、一緒に帰んの?
 なら俺も俺も!」

 ……一人、余計なのが混ざった。
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